「アンジェリーク!」

「・・・?」
声に気づいて彼女が振り返った時にはもう彼はすぐ後ろまで来ていた。
追いつくと彼女の肩をがしっと掴む。
「何フラフラしてんだ アブねーだろ!?」
「ゼフェル、様・・・」
その見たことが無いほど元気の無い声で応えたアンジェリークに再び驚いた。
「・・・おめーはもう女王なんだから様は要らねぇだろ。」
「そう、でしたね・・・」
どうも様子が変だ。
最近は使わなくなっていた敬語をまた使うなんて どう考えても。
「ところでその女王がどうしてここに居るんだよ。」
「ちょっと抜け出して遊んでて・・・ 今は 後悔中、デス・・・・・・」
笑う表情もぎこちなく、これで何かあった事はわかった。

「―――で、何があったんだ?」
反射的に顔を上げた彼女に対してゼフェルはため息をつく。
「聞いてやっから 話してみろよ。」
「・・・・・・きっと 心のどこかで甘えがあったんです。私はまだ女王になる現実を理解していなかった・・・」
ゼフェルには彼女が言いたい事がわかった。
そしてその前に何を見たのかも。
「女王になる事で失うものを 真剣に考えていなかったんです・・・・・・」
友達、家族、私が知っているものは全部――― 今はもうここには無い。
不意に学校に行きたくなったのは きっとあの頃を思い出したかったから。
まだ戻れると思っていたから。
「ゼフェル様達にも同じ経験がありますよね・・・?」
「―――・・・」

ピンッ

俯き加減になっていた彼女のおでこに1発。
痛くて赤くなった所を押さえながら、ビックリして彼の顔を見る。
「おめー 大事なコト忘れてるぜ。」
「え?」
「確かに失ったもんもあるかもしれねーけど、逆に得たもんもちゃんとあるだろ?」
得た、モノ・・・
「それにおめーにはオレ・・・達、とかロザリアもいるだろーが。」

プッ

照れている彼を見てやっと笑えた。

そうね、私にはみんながいるもの。寂しくなんてないわね。

「ちょっと感傷に浸っちゃったみたい。―――帰りましょう?」



「へ〜い〜か〜〜!?」
案の定帰ってきた彼女に待っていたのは鬼のような形相のロザリアだった。
「聖地を抜け出すなんて一体何を考えてらっしゃるの!? 貴女は女王なのよ!!?」
やっぱり。と顔を見合わせて2人は苦い顔をする。
「ゼフェル! 貴方も一緒に抜け出すなんて!! これはジュリアスに報告しておきますわね!!」
「ゲッ!」

ジュリアスからも説教くらうのかよ 冗談じゃねーぞ!?

「待ってロザリア 違うの!」
アンジェリークが2人の間に割って入った。さすがにロザリアも驚いてきょとんとする。
「陛下?」
「ゼフェルは抜け出した私を追いかけてきてくれたの。そしてここまで連れてきてくれたのよ。私だけが悪いの! 彼は悪くないわ!!」
2人は目を合わせたまましばらく黙っていた。

ふぅ

先に折れたのはロザリアの方だった。
「―――陛下がそう仰るのなら。ゼフェル、貴方には礼を言っておきます。陛下を守ってくれてありがとう。」
「お、おう・・・」
「さあ陛下、貴女には中でお話があります。」
ロザリアに促されて部屋に入る前に、1度アンジェーリークはゼフェルの方を振り向いた。
「"ゼフェル"、今日はありがとう。」



「だいたい貴女は・・・・・・」
くどくど話すロザリアをアンジェリークは笑顔で聞いている。
「・・・何が可笑しいのよ。」
内心気持ち悪い子ねと思いながら訊いた。
「うん。私ってやっぱりロザリアが大好きよ♪」
「・・・熱でもあるの?」
額に手を当てて自分のと比べてみる。熱は無いようだ。
「―――ロザリアは、どうしてここに残るって決めたの?」
「何よ 突然。」
口調が昔に戻っていることに本人は気づいていないようだが、アンジェリークはとても嬉しそうだった。
にこにこ笑顔で訊いてくる。
「・・・ドジで頼りない貴女を放っておけなかったのよ。ホント貴女ってわたくしが居ないと何にも出来ないんだから。
わたくしが居なかったらきっと宇宙はすぐ壊れてしまうわね。」
憎まれ口だけれどアンジェリークには嬉しかった。
それは その奥に隠された言葉もちゃんと聞こえてくるから。
「これからもヨロシクね。」
そう言って抱きつく。

私は独りじゃないものね。
ロザリアだって家族より私を選んでくれたんだもの。
もっと強くならなくちゃ。


「いい加減離れなさいな!」
いつまで甘えてるつもりよ!? と叫んでも聞く耳持たない。

「イヤ♪ ねぇ 今日は一緒に寝よっか♪」

「冗談でしょう!?」

「ベッドの上で朝までお話しよvv」

「嫌に決まってるでしょう!? 貴女いっつも先に寝ちゃうし 寝相も悪いんだからっ!」



それから 2人の楽しそう(?)な会話はしばらく部屋中に響き渡っていたという。




えんど☆



<コメント>
ゼフェアンと思いきやロザアンだったというお話v
・・・嘘ですっ 冗談ですっっ!!(視線が痛かったらしい)
聖地を抜け出した金アンが書きたかっただけってーか・・・
だからホントはつれて帰るのは誰でも良かったんだよね。
んで条件は聖地をよく抜け出している人…この時点で該当者は4名。その中で1番似合いそうな人を選んだつもり。
あ、この話はゼフェ→金アンってわけぢゃないの。彼が"呼びたくない"っつったのは彼が元々そういう性格だってコト。
だって鋼様が金アンに敬語使ったらなんか怖いっしょ?(失礼)
そういえばこの脱走コンビはCDドラマでもあったらしいね。聞いてないから知らないけど。



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