「自分が女王候補だという事、忘れたわけじゃなかったけれど・・・ だけど逃げようとはしていたかもしれない。」
 女王候補、次代の女王という重いものから。
 今まで 背負った事も無いほど重過ぎた運命から。
「貴方を好きになるほど、女王になる事が怖くなった。」
 ディア様に内緒で聞いた、前女王陛下とクラヴィス様の事。
 大陸に建物が次々と建っていく度に、大神官が喜ぶ顔を見ながら、心の奥底ではとても怖れていた。
 その度にディア様の話を思い出してしまったから。

「―――だからかな、本当は少し期待していたの。貴方が攫って行ってくれないかって。」
 一瞬びくりとしたオスカーの 見開いた瞳を覗いて彼女は苦笑う。
「・・・冗談よ。貴方は炎の守護聖様で 首座の守護聖からの信頼も厚い人だもの。そんな事はしないわ。・・・しちゃいけないの。」
 全て気づいているかのように彼女は言った。
「即位式の時、ああ言ったのは 無理を隠す為だったんでしょう・・・?」
「・・・・・・」
 オスカーは肯定こそしなかったものの、その表情は図星と言いたげだ。
「愛されてる事は嬉しかったの。だけど裏切る形になってしまったのが苦しくて悲しかった・・・」
 そう言って彼から視線を外す。
「私のせいで貴方が傷ついて変わってしまうかと考えたら、それがとても怖かった・・・」
 何度も思い出してしまう ディア様の話に怯えていた。
 自惚れてるわけじゃないの。私にそんな影響力があるとは思わないけど、それでも思わずにはいられなかった。
「アン・・・・・・」
 オスカーには彼女が何故そう思うのかは分からなかった。
 けれど分かるのは、彼女は変わらず俺を想ってくれているのだという事。
「今日、本当は貴方に会いに来たの。ずっと会いたかったから・・・前みたいに話したかったから・・・・・・」

 この身に懸けて守りたいと願う女性。
 恋人としてが叶わないのなら 女王陛下を守る騎士として、守護聖として彼女の力になろうと、彼女の即位が決まった時に誓った。
 それなのに、彼女は また俺を惑わせる。
 突然再び目の前に現れて、あの時と同じ笑顔で 忘れたい想いを引き出させてしまって・・・ 
 ―――また、期待しても良いのか?


「敵わないな、 ・・・"アンジェリーク"。」
「オスカー・・・」
 その言葉を待っていたという風に、彼女の表情にまた笑顔が戻った。

 きっかけは簡単な事。
 少しお互いの気持ちを知っただけで、自分の気持ちに正直になっただけで。
 それだけで前の2人に戻れる。
 こんなに簡単な事に、随分まわり道してしまったものだ。


「私 庭園に行きたいの。だってカフェもあるし、飛空都市とはやっぱり違うんだもの。」
 すっかり元気を取り戻した彼女は 彼の腕をぎゅっと握り締める。
 そんな彼女とは別の方を指して 彼はウィンクを向けた。
「それはまたの機会にな。―――今日は連れて行きたい所があるんだ。」
「――――・・・?」




 彼が連れてきたのは森の湖とはまた別の、少し小さめの湖がある静かな場所だった。
 元は同じ水源なのだと 彼は説明してくれた。
「俺の他にここを知っているのは 先代の炎の守護聖だけだ。・・・ここに誰かを連れてくるのは初めてだな。」
 座り込んで水の中を覗き込む彼女の後ろで それを微笑って見ながらオスカーが言った。
 するとくるりと彼女は振り向く。
 その表情を見て オスカーは今度は苦笑いをした。
「疑っているのか? でもコレは本当だ。ここは1人になりたい時にしか来ない。」
「ホントに?」
「―――ああ。」
 少し間を空けて、今度はちょっと悪戯っぽくくすくすと笑う。
「じゃあ私に教えてくれたのはどうして?」
 そう言う彼女は以前と変わらない会話を楽しんでいるようだ。
「・・・それを言わせようとするとは、相変わらず侮れないな。」
「ふふふv」


 誰も見ていない森の奥、湖のほとりに楽しそうな笑い声が響く。
 溢れる光の中で 今までの幸福な時間を取り戻すように彼女は笑顔を絶やさなかった。

「見て。この花、ピンク色と白色が混ざり合ってるの。」
「ほぅ。」
「あ・・・」
 彼女が持ってきた花を彼女の髪に挿す。
「・・・女王の冠も似合うが、花だけでもそれに劣らないな。」
 花でも宝石でも関係なく 彼女を飾る物は何でも美しく見える。
「まぁ・・・ 何も飾らなくても アンジェリークは充分魅力的だがな。」
 ポン、と彼女の顔から湯気が出た。
「もうっ 相変わらず上手ね。」
「これは本心さ。アンジェリークそのものが、俺にとっては1番美しい宝石だからな。」

 そう、女王ではなく1人の女性として 愛し守りたい人。

 そして急に真面目な表情になって彼女の前に跪く。
「? オスカー・・・・・・?」
 不思議そうに見下ろす彼女は、陽の光が髪に反射して 眩しく輝いている。
 それは宇宙を照らす光のようにも見えた。
 だが今は、今ここに居る彼女は俺だけに微笑みかける天使。
 
「ここで誓おう。お互いが普通の男女に戻ったら―――・・・」
 守護聖も女王も関係なくなったら・・・
 大きな緑色の瞳が嬉しさから潤んでくる。
「それまで待っていて欲しい――――」





「・・・オスカー様って、日の曜日はいつもいらっしゃらないわよね。」
 栗色の、女王と同じ名を持つ少女がぽつんと言った。
 今 聖地には新たな2人の女王候補が居る。また女王試験が始まったのだ。
「あ、デートしてるって聞いた事あるよ。」
 快活そうな 金の髪のもう1人の女王候補がそれに応える。
「ゼフェル様がオスカー様は「女好き」だって言ってた。」
「・・・じゃあ あれは見間違いじゃなかったのかしら?」
「え?」
 レイチェルが聞き返すと、立ち止まったアンジェリークは庭園の向こうを指差した。
「・・・あのね、あっちだったと思うけど、先週後ろ姿だけだけど オスカー様が女性と歩いてらっしゃるのを見たの。」
 オスカー様しか見ていなかったから 相手の女性はよく見ていなかったけれど。
 確か森の方に向かっていたような気がする。
「ソレ間違いないよー 絶対。」

「あ、でも・・・」
「ん? ナニ?」
 思い出したように呟くと、レイチェルは首を傾げてアンジェリークに問うた。
「あっ ううん。何でもない。」
 慌てて首を振る。
 まだ確信が持てないから。
 そう言ったら、レイチェルはきっと「確信持ってから言ってよね。」って言うと思う。
「あっそ? それより早く学芸館行こうよ。」
 特に疑問も示さずレイチェルはさっさと話題を切り替えた。
「うんっ。」

 でも、あの一緒に居た女性、何処かで見たことある気がするんだけど・・・
 何処でだったかしら・・・?


―Fin―



<コメント>
昔考えていたネタを思い出したので書いてみました。
・・・もうちょっと しっとりした内容だったはずなんですが・・・・・・
彼女の力に引っ張られてしまったようです(苦笑)
―――私は金アン女王が大好きです♪
型に収まりきらない はちゃめちゃな無敵の女王様なトコがvv
女王だから何も遠慮する事無いし 何でも出来ちゃいそうな気がする。
そんな彼女にあたふたする守護聖がとっても楽しくて好きだったりします(笑)
えーと、このカップリングは結構書きやすいですね。ネタが考え易いというか・・・
私が書くオスカー様は性格がかなり違ってる気もしますが・・・
でもこれが私の彼に対するイメージ、かな? コミックスも含めて、ね。
あの小湖は架空ですよ〜。聖地には無いでしょう たぶん。
というか、私聖地行った事無いんで分かりませんけど。(ゲームをしていないの意)
そして女王候補同士はいつも仲が良い 私の話・・・



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