ここはアルカディア、約束の地。

 ここに来れば貴方に会える。
 だからもう 突然居なくなったりしないでね。
 どこにも行かないでね・・・





 木漏れ陽

木が落とす影は 風に揺られて常に形を変える。 寝転んだ彼との間に会話は無いけれど、アンジェリークは傍に居るだけで幸せだった。 あ、そうだ。 「ねぇ ア―――・・・ あら☆」 いつの間にか隣で眠ってしまった彼を見て、その穏やかな寝顔に微笑む。 「アリオスったら・・・ また寝ちゃったのね。」 アルカディアで再会してからずっとの事だけれど 彼はよく眠る。 前にポツリと昔の事を話してくれた時、私達と旅をしていた頃も ほとんど眠った事が無かったと言っていた。 常に危険と隣り合わせで そんな余裕は無かった、と。 眠らない事が普通になるほど、彼は長い間・・・ けれど 今の彼は何にも気を張る必要は無い。もう眠りを妨げる者も居ない。 それは彼が初めて手に入れた 安息の時。 「・・・違うわね。初めて、じゃなかった。」 エリスさんの隣ではぐっすり眠ってたのよね。 ―――アリオスに 優しさと愛の光を与えた、彼の最愛の人・・・ 「やっぱり 敵わないのかしら・・・」 「――――・・・」 「・・・アリオス?」 静かだった呼吸のリズムが突然狂う。同時にアリオスの表情が険しくなった。 彼は眉を顰め、聞き取れないほど小さな声で何か呟く。 「っ・・・」 「アリオス!?」 「・・・エリス・・・・・・」 「!」 彼の頬に触れようとした手が思わず躊躇った。 今は1番聞きたくなかった名前、それはとても身勝手な事だって分かっているけれど・・・ どうしてその名前を呼ぶの・・・? 今 貴方の傍に居るのは私なのに・・・ ふ と、彼が目を覚ます。 「―――― 俺、今 何か言ったか?」 「え・・・っ?」 アンジェリークの表情が僅かに強張る。 それに気づいたのか気づいていないのか、彼はまた目を閉じた。 「・・・嫌な夢を見ちまったな。もう見ないと思っていた、随分昔の 夢だった・・・・・・」 ・・・忘れたいわけじゃない。ただ「夢」に見たいとは思わなかった。 「人が死ぬ所を何度も見るってのは 嫌なもんだな・・・」 エリス・・・ 俺に出会わなければ、お前はあんな死に方をしなくて良かったかもしれないのにな・・・ 今さらどうにもならない事だ、と クッと笑った。 「・・・まだ、エリスさんの事は忘れられない?」 「何だよ 急に。」 身を起こすと彼女は 全く別の方向を向いていた。 そこで察しがつかないほど、彼は鈍感な性格はしていない。 「ねぇ 答えて。」 声からも態度からも、むくれているのはすぐ分かる。 捻くれた俺には絶対に出来ない事だ。どうしてそんなに素直に反応できる? ――― 羨ましいくらいだ。 「・・・お前 妬いてんのか?」 わざと茶化すような言葉で返す。 「誤魔化さないで!」 「―――ハイハイ、分かったよ。」 お手上げのポーズをとると、また後ろに寝転んだ。 葉と葉の隙間から光が差し込んでくる。 それを眩しそうにしてアリオスは目を細めた。 「―――・・・ まぁ 俺にとってエリスは光みたいなものだったしな。俺があんな馬鹿な事したのもあいつが理由だ。 忘れろっつったって それは到底無茶な話だぜ。」 やっぱり、としゅんとするアンジェリークを彼はフッと微笑って見つめる。 「・・・・・・馬鹿。まさかお前 俺の事疑ってるのか?」 「えっ そ、それは・・・」 慌てる彼女とやっと目が合った。 「正直な奴。」 「確かに姿や仕種・・・ 騙されやすい所とか単純な所とか、似てるのは似てるぜ お前ら。」 「・・・それ 褒めてるの? 馬鹿にしてるの?」 なんだか釈然としなくて アンジェリークは眉を寄せる。 単純で悪かったわね。 「待てよ。最後まで聞けって。」 「・・・・・・」 まだ少し納得いかないけれど とりあえず黙った。 「・・・お前はエリスじゃないって事くらい 俺も分かってる。」 どんなに似ていても あいつとこいつは違う。 ずっと見ていたせいか 最近はちょっとした違いも見えてきた。 そして――― お前は気づいてないのか? 例え記憶を失くしても 俺はお前に惹かれていた事を。 「それに今の俺が好きなのは―――」 不意に彼女の腕を掴んで引き寄せると 軽く身を起こして口付ける。 アンジェリークは一瞬何が起こったのか解らなかった。 「―――まだ疑うか?」 「〜〜〜〜!?」 少し遅れて彼女の顔が真っ赤になる。 "今さら照れんな"と笑いながら言って、そのまま抱き寄せた。 「言っただろ? 俺はお前をもう2度と離さない。」 お互いの表情は見えないけれど 耳元で囁く彼の声はとても優しい。 「この俺にそういう事を何度も言わせるなよ。」 不安なら俺も負けていないさ。 お前は宇宙の女王、今の俺は何も持たない普通の人間だ。つり合うような相手じゃない。 でもお前は俺を受け入れてくれた。素直な愛を与えてくれた。 お前のおかげで俺は過去を乗り越えた。エリスに縛られていた俺を救ったのはお前なんだ。 そんなお前を俺が離すわけが無いだろう? お前は新しい光。今度は消える事が無いように守りたい。 「アリオス・・・」 嬉しさで胸がいっぱいで、泣きそうになりながら 彼に身体を預ける。 何もかも吹き飛んでしまったような気がした。 エリスさんの事も 突然彼が居なくなるかもしれない事も、不安全部が何処かへ行ってしまったような。 ほんの些細な事、ただ言葉とキスをくれただけで。 「・・・アリオス、私も貴方が大好きよ。」 ――― Fin ―――




<コメント>
短いのは 今回場所移動をしてないせいかと思われます。
(※場所移動:私の作品傾向である 場面がコロコロ変わる事デス)
今回はトロワのアリオス相手なので幸せな感じに。(え?)
天レク時のアリオスだと どうしても悲しげな話しか浮かばないんですよね。
つかアリオスとの会話って 馬鹿にされてるんだか何なんだかよく分からない・・・
貴方ホントに私の事好きなの?ってセリフが多々。
でも敬語を使わなくても良いし、背伸びをしない自分でいられる分 1番恋人らしいカップルだと思います。
・・・前回オスアンだったせいか 気を付けないと口調がオスカーになったり(汗)
この2人、声のイメージやタイプが似てるんで どうしてもダブっちゃうんです・・・
つーか それ以前にアリオスの口調ってどんなん・・・?




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