2:特撮(マジレン)(金青)

 
「…今日は何?」
 午後の1番穏やかに過ごしたい時間に毎度のごとくやって来ては重い空気を漂わせている
 彼――――サンジェル。またの名をヒカル。

 これで何度目だろうか。
 この状況にももう慣れて、相手の扱いもかなり適当だ。
 最初は真面目に話を聞いていたのだが、ここまで頻繁になるとさすがに馬鹿らしくなって
 くる。
 しかし話を聞いてやらないとその後苦労するのは彼の若奥様。
 彼の悩みはほぼ彼女絡みなのだから。


「麗が…」
 言いかけて彼は重い溜息1つ。
 今日こそはその暗い顔に見合うくらいの深刻な内容だろうか。
「名前で呼んでくれないんだ…」
「…そう……」
 この前のベッドカバーの色で喧嘩したよりはマシかと思いながら、リンは適当に相づちを
 打った。
 本人にしてみれば真剣なのだろうが、こちらにとってはかなりどうでも良い。
「結婚して随分経つのに、未だに先生なんだ…」

「でも最初にそう呼ばせたのは貴方でしょう。」
 定着してしまうのは仕方ないことだと、そう言えばウッと唸って黙り込む。
「気長に待つか諦めるかね。」
 時間を気にすればもうすぐだ。
 話を聞き流しつつリンは紅茶のカップを手に取った。



「ヒカル先生!」
(ほら、ぴったり。)
 勢いよく開いたドアの前に立ったのは、今話に出ていた若奥様だ。
 これで終わるとリンは内心でホッと息を吐く。

「またここにいたのね!? そんなんだから新婚早々浮気してるなんて言われるのよ!」
 それを聞いて驚いたのはヒカルだ。
「何を。僕が浮気なんてするはずないだろう?」
「知ってる。知ってるけど、先生はここに居過ぎなの。」
 言って、なかなか立たない彼の手を引く。
「先生、帰るよ。これ以上いたら迷惑でしょう?」
 けれども彼は渋い顔。その態度に麗が焦れて声を荒らげる。
「ヒカル先生ってば!」
「名前で呼んで。」
「…はい?」
 掴んでいた手はいつの間にか握りかえされて、真剣な目で見つめられていた。
「ヒカルと呼んで欲しいんだ。」
「せ、先生!?」
「ヒカル。」
「で、でも…ッ」
 恥ずかしい、と麗は顔を真っ赤にする。
「呼んでくれたら帰るよ。」


(よくそんな恥ずかしいセリフを平然と…)
 我関せずを貫いて傍観に徹しているリンではあるが、相手を赤面させてしまうほどのセリ
 フに呆れてしまう。
 忘れられているのは別に構わないけれど、この光景をいつまで見ていれば良いのだろう。


「麗?」
 甘い声で、そして甘い雰囲気で。
 彼は麗の応えを待つ。
「〜〜〜ッ早く帰るよ、ヒカルっ」
 顔を背けて言われたものではあったけれど。
「―――分かった。」
 それでも満足したのか、彼は満面の笑顔で立ち上がった。
「じゃあルナジェル。紅茶をありがとう。」
 さっきまでの意気消沈はどこへやら。上機嫌で、真っ赤になった奥様と帰って行った。



「…次は何かしらね……」
 疲れた気分でぼそりと一言。
 どうせ数日後にはまた似たような光景が待っている。
 いい加減にして欲しいと、リンの口から重い溜息が漏れた。







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切るとこなくて倍の長さに。これだけ長いです。
タイトルは「マジトピアの新婚夫婦と巻き込まれリンさん」
本編後のバカップル話です。
金青は本編でも結婚している公式CPなので今回選ばれました。
特撮は、あとマジレン(ティタ桃)とボウケン(赤黒)が候補でした。


    
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