5:封神演義1(発天)

 
「アイツ、元気かなぁ…」
 呟いて、雲の流れを追う。
 薄く白い雲に思い浮かべるのは、隣に座るアイツが吐き出した紫煙。


「武王。」
「んー? ああ、邑姜か。」
 首だけで呼ばれた方を振り返る。
 入り口から竹簡を持った邑姜が入ってきたところだった。

「何を見て―――…いい天気ですね。」
 隣に並んで彼女も空を見上げる。
「んー… いい天気だよな…」
 雲を眺めたままで、姫発は適当に相槌をうった。


 見てるのは空じゃない。思い出のカケラだ。
 今はもう遠い場所にいるアイツ。
 忙しい毎日の合間に、ふと思い出すと会いたくなる。

 一緒に過ごした時間なんて、互いに短かったのに。
 アイツを思い出すものがたくさんあって。



「…武王、しばらく休憩されますか? お茶の準備をしてきますね。」
 邪魔をしないようにそっと言ってから、彼女は部屋から下がっていった。


 ひょっとして気づいていて、逸らしてくれたのかもしれない。
 どこまでも"できる"彼女はやはり王の妻だ。厳しさと優しさで姫発を守ってくれている。

 …姫発が誰を想っていても、それすら受け止めて。
 心の内で感謝しつつ、また空に視線を移した。


 なあ、天化。
 お前は今何してる?







*







「…いい天気さ。」
 地べたに寝転んで、くわえ煙草に火をつける。
 紫煙を燻らせた向こうには、穏やかな風に流れる白い雲。

『空は広いよなぁ』

 時折思い出す彼の声。
 思い出す度、切なくなって泣きたくなる。

 どんな時でも自分らしさを失わなかった。
 王と呼ばれるようになっても、何も変わらなかった。
 そんな彼が好きだった。

『俺の知る世界なんて、ほんのちょっとなんだろうな…』

 一緒に抜け出して、こんな風に寝転んで話をした。
 いつも他愛のないことばかりで、たまに甘い言葉も交わしてみたりして。


 今はもう遠い。
 あんな風に触れあうことはできない。
 ただ思い出して、思い出のカケラを探し求めるだけ。

 空の向こうに問いかける。


 王サマ―――…発、今何してる?






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微妙に発邑も混じってなくもない。ので、ファイル名は「発天&発邑?」でした。
私の中の発天は、全て「空の青さと風の音色」に集約されています。
あれを書いてから発天は書かなくなりましたねぇ。
今回久々です。触れあいどころか会ってもないけれど。


    
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