6:狼陛下の花嫁(黎翔×夕鈴)
お風呂上がりに窓辺で涼む。 火照った身体に夜風はちょうど良くて、侍女達が下がった後も夕鈴は1人で庭を眺めてい た。 「…あら?」 "それ"に気がついてもう一度目を凝らす。 ひとつ、ふたつ、、 それに誘われるように、夕鈴は椅子から立ち上がった。 「―――どこに行こうとしているんだ?」 「!?」 手すりに手をかけ、階に足を踏み出そうとしたところで後ろから抱きすくめられる。 一気に意識が現実に引き戻された夕鈴は驚きで足を踏み外してしまうが、そこは彼にしっ かりと支えられているおかげで無事に済んだ。 「へ、陛下…っ」 (今日はもういらっしゃらないはずじゃ…!?) けれど、続く言葉は"狼陛下"の瞳に見つめられると消えてしまう。 その強い瞳に真っ直ぐ射貫かれると何も言えなくなった。 「我が妃は目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうな。」 耳元で囁かれる甘い甘い狼陛下の声。 演技だと分かっているけれど、心臓はいつも大きく跳ねる。 「今日は何に心奪われたんだ?」 問いは少し咎めるような口調にも聞こえた。 けれど、何故かというのは夕鈴にも分からない。 …それが独占欲から来るものだと、彼女は気づかない。 「……あれ、です。」 ただ恥ずかしさに俯きながら、夕鈴が指差す先を彼も目で追った。 淡い光がふわふわと浮かぶ。 水辺の草に、水面に、無数の灯りが見える。 幻想的でいて美しい光景は、この時期にしか見れないもの。 「蛍…?」 「はい、今年初めて見たので。つい追ってしまいました。」 群れから離れた1つが2人の前を通り過ぎる。 「綺麗…」 再びそれに心奪われ、見惚れる彼女は気づかない。 自分が今どこにいるのか。…誰の腕の中でそれを見ているのか。 彼も何も言わない。 腕の中にいる愛しい妃をそっと見つめたまま。 音のない静かな夜に、重なった2つの影はしばらく動くことはなかった。 ------------------------------------------------------- タイトルは「蛍」です。これだけ季節に合わせました。 我に返った夕鈴の反応も気になるところです(笑)←感謝祭会場へ