7:封神演義2(玉乙+楊)

 
 灰色の空の下、雨の中に一人佇む。
 すると後ろからよく知る足音が聞こえた。
 これだけは間違わない―――玉鼎の沓の音。


「太乙? 何をしているんだ?」
 呆れる彼の声に、今気づいたふりをして振り向く。
 漆黒の長い髪は濡れても綺麗だなぁなんて思いながら、そんなことはおくびにも出さず麗
 しい恋人を素っ気なく見返した。
「見たまんま。」
「…だから何故と聞いている。風邪を引くだろう。」
 心配性の恋人は自ら濡れながらもわざわざ迎えに来てくれたらしい。
「大丈夫だよ。」
 けれどその優しさをからりと笑って断って、天を仰いで手を伸ばす。
「雨が気持ちいいんだ。」
 冷たい雫は心地良い。
 服が濡れてしまうのも気にせずに、太乙は全身で雨を受け止め続ける。
「…つまり煮詰まったのか。」
「せーかい。ちょっと頭を冷やしたかったんだ。」
 呆れ返った溜め息とともに答えを当てられた。ごまかす必要はないから素直に認めて苦笑
 う。

 研究と実験は趣味だけど、気になることは突き詰めないと気が済まない質だから、こうし
 て恋人を放ってまで洞に篭ることはしょっちゅうある。

「ほどほどにな。」
 そんな太乙の性格を心得ている彼は、こめかみにキスを落としただけであっさり背を向け
 た。
「帰るのかい?」
「まだなんだろう? 大人しく待つさ。」
「明日は会いに行くよ。」
 優しい恋人にクスクス笑う。
 本当にあと少しだから、今夜中には終わるはず。
「期待せずに待っている。」
「失礼だな〜」

「――――ただし、来たら帰れないと思え。」
「ッ!?」
 意味を理解し 真っ赤になる太乙を置き去りにして。
 人前であまり表情を変えない男が、小さく笑って帰って行った。







*






「何をしておられるんですか?」
 雨降る空に手を伸ばす太乙の背中に声がかかって振り返る。
 愛しいあの人が黒なら彼は青。
 あの人の弟子で息子でもあるような青年が、心配げな顔をして立っていた。

「見たまんまだよ。」
「いえ、どうしてわざわざ濡れておられるのかと…風邪を引きますよ。」
「…やっぱり"親子"だね〜」
 同じことを言ってると笑う。

「大丈夫。―――だから、一人にしてくれないかな。」
 太乙が誰を思っているか、察した彼は静かに去ってくれた。


 雨に濡れる。
 そして君の声を思い出す。






-------------------------------------------------------

Σこっちも片方死んでる!? な封神演義ネタ第2弾。
玉乙はまだ書けます。楊サマがいるともっと。
楊太も書きたいんですけど、長くなりそうなので未だ書けていないという…


    
←感謝祭会場へ