8:最遊記(紅八+八花)

 
『八百鼡さん、如何お過しでしょうか。』

 その出だしで始まった文面を見て、メールなのに…と八百鼡はくすりと笑う。
 向こうに着いたら連絡するという約束を彼は律儀に守ってくれたらしい。

『やはりこちらは涼しいです。』

 長期休暇に入ってすぐ、彼―――八戒は恋人がいる英国に行っていた。
 一月はあちらにいたいと話していた時のあの人は、普段の穏やかさとは違う嬉しさ溢れる
 笑顔だった。

 …それから、最後に添付されていた遠い異国の地の風景と彼女が写った写真。
 彼女の綺麗な笑顔にキュンとくる。
 彼女のこの笑顔はあの人だから。
 互いの愛の深さに八百鼡の口から笑みが零れた。


「何を見ている?」
「ッ紅孩児様!」
 突然脇から覗き込まれてびっくりする。
「あ、いえ…八戒さんからメールが来ていて。今、英国の恋人さんのところにいらっしゃ
 るんですよ。」
 その名前が出た途端に彼は何故か不機嫌になる。
「…何故お前達が互いのアドレスを知ってるんだ?」
「え? それは…ドイツ語の講義のことで連絡してたりしたので。」

 出会ったのが春、花喃さんと八戒さんが再会したのが秋の終わり。
 もうすぐ1年が経つんだと時の流れを改めて感じた。

「やはり俺も取っておくべきだったな…」
「はい?」
 その隣での、重い溜め息の理由は分からないまま。






*






「誰に送ったの?」
 もう寝たと思っていた彼女が寄り添ってくるのに、八戒は優しい笑みを返す。
「ほら、君と再会した時に一緒にいた子。連絡するって約束したから。」
「…私を妬かせたい?」
 このベッドでさっきまで愛を確かめ合っていたのに、同じ場所で他の女性にメールだなん
 て。
 笑いながら咎める彼女に八戒も笑って否定する。
「まさか。…まあ、あっちには含むところがあるけど。」
 わざわざ彼が傍にいそうな時間を選んで送ってみた。
 妬かせたいのは自分の恋人ではなく、友人の想い人。
「今だ進展しないんだ。」

 彼女達と出会ってもうすぐ1年。
 割り入る隙がありすぎて、1度は彼女を花喃の代わりにしてしまおうとした。
 夏に宣戦布告をして、間違いに気づいたのは秋の終わり。

 ―――花喃が会いに来てくれたから。
 今は2人を見守りたいと思う。


「…たまには背中を押してあげないとね。」
 それに彼女は「意地悪そうに見えるわ」と言って微笑った。






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たぶんこれが1番話変わってそうな気がします…
ガンガン削った覚えが。
最遊記はこのパラレルネタしか浮かびません(汗)


    
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