あの木の下で
春の日差しが麗らかな午後、王宮はずれの大木の下で休んでいる人物が1人。 ここ、周の王、武王姫発である。 忙しい公務の合間にここに来ては、しかし特に何をするでもなくただ目を閉じて周りの音を聞いているだけ。 そのくり返し。 けれど彼はそれが好きだった。 音といっても人の声はしない。聞こえるのは風の音とこの木の葉がすれる音。 その中にたまに自分を呼びに来る声が聞こえる。 たいてい怒っている旦が迎えに来る声だが。 ――――王サマ・・・ そういえば天化もサボってる俺をよく迎えに来てたな・・・ 今はもう隣にいない彼を思い出す。 あいつはこの国ができる前にいなくなってしまった。 俺を置いて、1人で。 けれど俺は王だから、この国を守る義務があったから、あの時は心を殺して平然としているしかなかった。 ここが好きなのは、こうしているとあいつが呼びに来てくれる気がするから、サボっていると思って来てくれる気がするから。 ――――王サマ・・・ ああ、まただ。あいつの声が聞こえる。こっちに走ってくる足音が聞こえる。 夢を見ているんだろうか。 でも夢でもいい。あいつに会えるなら・・・ 「王サマ!」 ゆっくりと目を開けると、天化が立っていて怒った様子で見下ろしていた。 「――――天化・・・・・・?」 彼を見た瞬間の気持ちはやけに穏やかだった。 夢なのか現実なのか。でもどっちでも良かった。そこに彼はいる。 いつものようにくわえた煙草。何も変わっていない。 「何やってるさ、王サマ。さっきから呼んでるのに。」 「見ての通り疲れたから休んでる。」 「・・・それはサボってるって言うさ・・・・・・」 少し呆れて言ってその場に腰をおろす。 「王サマこんな所でサボってちゃダメさ。周公旦にまた怒られても知らないさ。」 「毎日毎日公務に追われてたらいくら俺でも疲れるんだよ。」 「何言ってるさ。毎日ここに来てサボってるくせに。」 「それはここにいればお前が来てくれるからだぜ?」 にっと笑って言うと、案の定天化の顔は赤くなる。 「・・・王サマー・・・からかわないでほしいさ・・・・・・」 いつもと変わらない反応。嬉しくて姫発は思わず笑い出した。 「な、何がそんなにおかしいさ!?」 自分の顔が赤くなったのに対して笑われたのだと思って慌てる。 「・・・・・・俺、お前の声好きだぜ。」 笑うのをやめて彼を見た。 突然言われたので天化はきょとんとする。 「―――? 変なこと言う王サマさ。」 「お前の声聞いてると落ち着く。」 名前を呼ばれると心地いい。 「・・・今日の王サマなんかヘンさ。ヘンな物でも食べたさ?」 姫発の言葉を冗談だと思ってるらしい。 「・・・とにかくもう戻るさ。俺っちまで怒られたくないさ。」 立ち上がって彼に手を差し伸べる。 「ほら、王サマ。」 姫発が手を掴むと、天化は引っ張って簡単に立ち上がらせた。 「―――・・・なあ天化。」 掴んだ手を離さず、より強く握り締める。 「・・・このまま俺をお前のそばに連れて行ってくれ。」 囁くような声。下を向いて言ったその言葉はひどく弱々しい。 「・・・それはダメさ、王サマ。王サマはこの国を守らなきゃいけないさ。」 優しい声で彼は答える。 「・・・・・・・・・・・・」 わかっていた。天化はきっとそう言うと。 わかっていたけど言いたかった。 下を向いたままの姫発の肩を天化がぽんぽんと叩いた。 「今はダメさ。けど・・・・・・何もかもやり終えて、もうすることがなくなって満足したら俺っちの所に来ていいさ。 俺っちそれまで待ってるから。」 それは姫発にとって少し意外なセリフだった。 「・・・ホントだな?」 「嘘じゃないさ。」 顔をあげた彼に笑って天化は答える。 「・・・じゃあ、これが約束のしるしな。」 「?」 ぐいっと手を引っ張って彼の唇に自分の唇を重ねる。 「!!!?」 いきなりの不意打ちだったので天化は声も出ない。 触れたのは一瞬ですぐに手も離した。 「約束成立。」 「王サマー!!」 耳まで真っ赤になって天化は抗議しようとするが、姫発はそっぽを向いて舌を出すのみ。 「まだまだ甘いな、天化。続きは会いに行った後で。」 「っ!!!!」 「・・・じゃあな。待ってろよ。」 「・・・・・・まったくしょうもない王サマさ・・・・・・・・・」 最後に耳元で何か小さく囁くと、そのまま天化の姿はフッと消えた。 「―――ありがとな。」 彼が消えた後、ぽつりと呟く。 きっと元気付けるためにやって来てくれたのだろう。 「さーってと! 旦に怒られる前に戻るか。」 大きく背伸びして気分を変える。 「今度会った時にあいつに威張れるようにならないとなー。」 ・・・俺っちも王サマの声好きさ―――――・・・・・・
<コメント>
さらにぎゃー!な作品。初書き発天。
書き直すのも嫌・・・
私の発天の中で1番のラブラブ度だったり。
その後はなんか違うって感じて1度も書いてませんね。(玉乙は別)
・・・よく考えたら発天って天化封神後のしか書いてないぢゃん!