―――望ちゃん、僕らはキミに苦しんでもらうために死んだんじゃないんだよ。 ただ悲しんでくれればそれで良かったのに、どうしてそんなに自分を責めるの? (わしは・・・おぬしらがやろうとした事がわかっていた。それでも止めなかったのだ。) ―――でもこれは僕らが望んでしたことだよ。望ちゃんのせいじゃない。 (・・・わしのせいだ・・・・・・あの時止めていればおぬしらは死なずにすんだ・・・・・・) ―――望ちゃんはそうやってすぐに1人で何でも背負う。・・・でもそんな優しい望ちゃんだから僕は好きになれたんだけどね。 (普賢・・・?) ―――僕は望ちゃんのことが好きだよ。だけどもう昔には戻れないから。・・・さよなら望ちゃん、僕の気持ちは伝えたよ。 (待て普賢!わしはっ・・・・・・) 「普賢!!」 目を覚ましたそこは見慣れた天井の自分の部屋だった。 「・・・あ・・・・・・」 「師叔、目が覚めましたか?」 楊ゼンが顔を覗き込んで聞き、額の布を冷たいものに換える。 「わしは・・・?」 「倒れたんですよ。だから言ったんです、こんな心臓に悪い事は2度としないで下さい。」 声は心なしか怒っているようだった。 まあ目の前で倒れたのだから当然のことだろうが。 「迷惑をかけてすまぬ。」 「・・・それは別にいいんです。今度から自分の体をもっと大事にしてくれるのなら、僕はそれでいいですよ。」 「―――そうするかのう。」 太公望がそう答えると楊ゼンは笑って「ならいいです。」と言った。 「・・・のう 楊ゼン。」 楊ゼンはベッドの横に椅子を置いて座っている。 しばらくはここで看病を続けるつもりだからだ。同時に太公望がまた無理をして仕事を始めないようにと監視する意味もある。 「何ですか?」 「普賢の・・・夢を見た。かなり都合の良い夢だったよ。」 「昔の夢ですか?」 楊ゼンの声は優しい。 太公望は静かに首を振った。 「自分のせいだと思ってはいても心の奥では否定したかったのかもしれぬ。・・・夢は願望の現れだという。 わしは・・・普賢に否定してもらいたかったのだろうな。」 他の誰でもない、かれ普賢の口からそう言ってもらいたかったのだろう。 「―――師叔、それは違うと思います。それはきっと普賢様本人だったと思いますよ。」 楊ゼンがそれをすぐに否定した。やけに確信のある口調だが、太公望にはその理由がわからない。 「・・・何故そう思うのだ?」 「きっと普賢様本人でも同じ事を言うと思いますから。師叔1人のせいではないですよ。」 「・・・そうでしょう?」と言って楊ゼンは少し悲しげに微笑む。 「それに・・・普賢様たちが亡くなったのが師叔のせいなら、師匠が死んだのは僕のせいです。 師匠は僕を王天君から助けるために命を落としたのですから。」 「・・・!」 「―――でも僕はもう平気です。もちろん王天君は許せないけどいつまでも悲しんでいるのは止めました。」 言った楊ゼンのその表情は穏やかだ。 「師匠が命を懸けて助けてくれたのなら僕はこの命を無駄にはしないと今なら思えます。過ぎた過去はどうすることもできません。 だから過去を悔やむより未来のために何かしたいと思っています。」 そして太公望の瞳をまっすぐに澄んだ瞳で見る。 「・・・何かしたいと思うのはあなたのためにですよ、師叔。」 からかっているようでも本気にもとれない表情。 「今の僕の未来は師叔ですから。」 「―――まるで告白のようなセリフだのう。」 聞いた方が少し恥ずかしくて太公望の顔が赤くなった。 「そう思ってもらっても僕は別に構いませんよ。」 けれど楊ゼンの方は別段普通だ。 「・・・変なヤツだな、おぬしは。」 「そうですね。」 楊ゼンはくすっと笑っただけだった。 きっと自分を元気付けるための冗談のつもりなのだろう。 「・・・師叔、桃食べますか? もらってきますよ。」 「食べたいが――・・・旦にどやされるのではないか?」 何といっても太公望はつまみ食いの常習犯だ。 「1つ2つくらいならくれるでしょう。いくら何でも倒れた人間にとやかく言う人はいませんよ。」 「・・・今日のおぬしはやけに優しいのう。」 立ち上がりながら楊ゼンは笑う。 「弱っている人に冷たくするほど僕は卑劣な性格はしていませんから。」 「少し待っていてください。」と言って楊ゼンは部屋から出て行った。 部屋の中は明るい。 太陽もまだ高い位置にあって、窓の外を見ると青い空に雲が泳いでいる。 澄んだ青い空の色―――・・・普賢の髪の色。 「わしはあの時何と言おうとしていたのだろう―――・・・」 さっきの夢の中で、振り向かない後ろ姿の彼に向かって、 何かを言いかけた。 その言葉を今はもう思い出せない。 「普賢に謝りたかったのかもしれぬな・・・・・・」 悲しみにくれるだけの自分を、 心配して会いに来た彼に。 「・・・大切な者を失ったのはわしだけではないはずなのに、わしは自分だけが悲しいのだと思い込んでいたようだ・・・・・・」 天化は師匠と父親を亡くし、そして楊ゼンもそれは同じ。 太乙と道行も自分達だけが生き残るかたちになってしまった。 みんなそれぞれ悲しみを感じているというのに、自分1人だけが悲しいなどと勘違いもいいとこだ。 「師叔、桃ですよ。」 楊ゼンが戻ってきて起き上がった太公望の手に1つの桃が置かれる。 「―――すまぬな、ありがとう。」 「どういたしまして。」 師叔のために僕にしかできないこと。 少しわかった気がする。 あの人の代わりにはまだなれないかもしれないけれど、自分は自分のやり方で彼の支えになろう。 それが今の僕にできる精一杯のことだから・・・
<コメント>
むりやり終わらせっ☆(死)
優しいなぁ ウチの楊サマは。これが私の理想のオトコか?(笑)
タイトルと全く違う話になってしまった・・・ι
っていつものコトですねv(爆)