「あっという間に行っちゃったねぇ・・・」
紅茶の香りを楽しむようにカップを持ったまま太乙は呟く。
「ところでどこ行ったの?」
「さぁ?そういえば聞いたこともないな。・・・だが場所は知らないがたぶん修行にでも行ったのだろう。
あの子はどこまでも完璧主義だから。」
「キミに似て?」
太乙が口元だけで笑って言い、玉鼎もそれを肯定するように小さく笑う。
「それと・・・私たちに気を使ってくれたようだ。」
太乙のカップに紅茶を注ぎ足して呟いた。
「え? それどういう・・・」
けれど言葉を遮るように玉鼎は太乙の瞼に唇を落とす。
「こういう事だ。」
耳もとで囁き、ついでに彼の肩を抱きこんだ。
「あ、そう・・・・・・」
耳がアツイ。慣れたはずなのにやっぱり恥ずかしくて赤くなってしまった。

今ここに楊ゼンくんがいなくて良かった・・・


「―――・・・」
いつからだっただろうか、太乙が来る日に限って楊ゼンが出かけるようになったのは。
しばらくしてそれがあの子なりの気遣いだと理解はしたけれど。
「玉鼎? どうしたのさ、急に黙っちゃって。」
いつもならついでに唇にもしてくるくせに。
首を上げて怪訝そうに彼の顔を見る。
「いや、何でもない。・・・太乙、楊ゼンをどういう風に思っている?」
「は? 急に何を聞くかと思えば・・・・・・」
突然の質問に少し戸惑ったけど特に理由は考えずに答えを探す。
「そうだねぇ・・・楊ゼンくんは息子みたいなものだよ。だってさ、子育てなんてやったことないキミと一緒に小さい頃から面倒見てきたし。」
どうしたらいいかわからなくて途方に暮れていたキミを見てられなくて。
教えながら自分も一緒に彼の成長を見てきた。
寝る前に絵本読んであげたりとか。それでつい一緒に寝ちゃって朝になって慌てたり。
「それがどうかした?」
「ただ聞きたかっただけだ・・・」
自分を見あげる彼の顎を上げて唇を重ねる。
「んっ・・・・・・」
太乙も抵抗はしない。
彼に身を預けるように静かに目を閉じた。


「―――紅茶が冷めたな。」
長いキスの後、表情も変えずに玉鼎が言った。
「別にもう飲まないからいいよ。」
だからー・・・
ポットを持って行こうとする彼の長い髪の端を掴んで呼び止め、もう一方の手の人差し指で自分の唇を押さえる。
「もっと、してよ。」
玉鼎のキスは好き。優しくて甘くて心地が良いから。
仕方ないなという風に小さく息を吐いて玉鼎が振り返った。
彼がキスをすると太乙が首にその細い腕をまわしてくる。
「いつになく甘えてるな。・・・まあいい、今夜はお前の洞に泊まることにする。」
「え゛。」
太乙の表情が固まった。
「おまえの洞には他に誰もいないだろう? それとも何か不満か?」
そうじゃないけど。
「・・・・・・楊ゼンくんはどうするのさ。」
「一晩いないことくらいいつもの事だ、気にもしない。」
「そういう問題・・・?」
そりゃまあ確かに玉鼎はよく私の洞に泊まるからいつもの事だろうけどさ。
「・・・わざわざ行くの?」
「ちょうどおまえの洞を掃除する時期だろう。・・・子どもの世話は大好きなくせに自分の事となると掃除さえ全くというほどしないからな。」
玉鼎が行かなければもう彼の洞は無法地帯だ。下手をすれば歩く場所すらない時もある。
「きっと夜までかかるよ?」
「残ったら明日の朝にすればいいさ。」



涼しい風が頬にあたり、その風は彼の青い髪をなびかせる。
「師匠はきっと今夜はいないな。」
哮天犬の背中に乗ってポツリと楊ゼンは呟いた。
今夜は「お母さん」の所に泊まってくるだろうから。


・・・昔はあの人にお母さんになって欲しかった。

―――私は「お父さん」にはなれるけど「お母さん」にはなれないよ。

困ったように笑ってあの人は頭を撫でてくれた。
あの時は本当になって欲しかったんだ。
・・・もっとも、今の望みは違うけれど。


「ねぇ、哮天犬。」
くすっと笑って楊ゼンは哮天犬の頭を撫でた。



<コメント>
・・・ゴメンナサイ。(何が)
タイトル全然意味ないし。
何より書き直ししてて直視するのが辛かったι
甘々なのは苦手。だって恥ずかしいから・・・(>///<) ←絶対こうなる
玉乙+楊って親子みたいで好きだなぁ。ラヴラヴ夫婦で楊サマは苦労してそうだけど(笑)。
これを書き始めた頃から書き方が変わったと思う、確か。
ココに載せてるのは全部書き直してるから比べられないけどね・・・



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