―――どうしても納得がいかぬなら直接聞けば良いであろうが。

そう言われて納得してここまで来てしまった。
玉泉山金霞洞。玉鼎真人が住まう所。
今日は家に居ると、どこからか太公望が仕入れてきた情報でここまでやって来たのはいいけれど。

ちゃんとお話してくれるかなぁ・・・

ちょっとドキドキしながら戸の前に立つ。
「あの――・・・」
「はーい?」

!!?

返ってきたのは期待していた声ではなく。
足音の後に戸の前に現れた人物に普賢の時が一瞬止まった。
「あれぇ? 普賢くんじゃないか。」
現れたのは玉鼎ではなく太乙で。
自分の家に居る時のようなラフな格好で彼は立っている。
「・・・え、と・・・・・・? ここは確か・・・・・・」
間違ってるはずはないんだけど・・・
「あ〜 うん。ここは玉鼎の家だね。」
「・・・じゃあどうして貴方が"はーい"って・・・・・・」
「ああゴメン クセなんだよね。つい自分のウチみたいに思っちゃって。」
昔から入り浸ってるせいかな〜 
苦笑いしながらそう言う太乙にムッとするけれど、表に出すほど彼は正直な性格はしていない。
いつもの笑顔でそれは受け流した。
「あ、玉鼎に用なんだよね。入って待ってなよ。」
そう促して彼はスタスタ奥へ進んでいく。
本当に自分の家のような振る舞いだ。
「入っていいの かな・・・?」
「構わない構わない♪ お茶が1つ増えるだけだよ。」
普賢の独り言に太乙が笑って答える。
「―――太乙さんは何の用でここに?」
「ん〜? 特に理由はないよ。強いて言うなら―――ここが1番落ち着くからかな。」
穏やかな声。
見えないけれどきっと今の表情は優しいと思う。

差を見せつけられてるみたいでなんか癪だなぁ・・・


「? 誰か来たのか?」

ドキッ

奥から声だけが聞こえる。
「普賢くんだよ。というわけで お茶もう1つ追加してよ♪」
「・・・ああ。普賢もゆっくりしていけ。」
「あっ はい!」
やっぱり優しい。
でも 誰にでもこんな風に優しいのかな・・・?

「ところで何しに来たの?」
3人でテーブルに座ってお茶会。よく考えれば変な光景だ。
その中で1番に発言したのは太乙だった。
「あっ・・・あのっ これ作ってきたんですっ。」
玉鼎の前では緊張して思うように喋れない。
それでも何とか言葉を繋いで籠をテーブルの上に差し出す。
「これ・・・ この前太公望に作ってた?」
「望ちゃん 美味しいって言ってくれたから・・・ 食べてもらおうと思って・・・」
顔真っ赤にしちゃって可愛いな♪ とかのんきに思いながら太乙は籠の中を見た。
香ばしい甘い香りがふんわりと広がる。
「へぇ スゴイね。ほら玉鼎、美味しそうじゃないか。」
「ほお・・・ お茶請けにいただくとしようか。」

「このお菓子はどういう名前なのかい?」
「クッキーです。」
興味を持った太乙に簡単な作り方を教える。
今度作ってみようかなと思い、太乙が詳しいレシピを教えて欲しいと普賢に頼むと普賢は笑ってOKした。
「―――九っ鬼ー? また随分と奇妙な名だな。」
聞いていないようで話を聞いていた玉鼎がぼそりと言う。
彼が今何を思ったか瞬時に分かった太乙は呆れて開いた口が塞がらなかった。
「玉鼎・・・」
あくまで素で言った玉鼎の肩を太乙がぽんと叩く。
「ちょっとそこの天然ボケさん・・・ 変なボケしないでくれる?」
「ボケ・・・?」
「自覚ないんだね・・・ うん もういいよ・・・」
クスクスと隣で普賢が笑っていてもまだ玉鼎はわかっていないようだった。

そして――― その時普賢はとてつもない違和感を持った。
いや、違う。これは・・・疎外感。
2人を見ていると自分が今ここに居る事への疑問を感じてしまう。
何故かとても居心地が悪くて 今すぐにでも出て行きたい。
笑っている顔が凍りつく。
自分がとっても異質な物に感じた。

望ちゃん・・・ これが答えなのかな―――・・・

彼は優しい。厳しそうに見えるけれど本当はとっても優しい人だ。
それは誰に対しても同じ。
けれど あの優しい表情はきっと1人だけの特権。
僕にも見れたけど僕に向けられたものじゃない。

普賢は急に席を立って2人を見て笑った。
「僕もう帰ります。この後行く所がありますから。」
「あ・・・うん。また今度ね。」
太乙は少し驚いていたようだった。



ぽすっ

太公望の姿を見た途端、普賢は力を抜いて彼の肩に頭をもたげる。
「? 普賢・・・?」
「・・・望ちゃん 太乙さんが来てる事知ってたでしょ。」
ぎくっ
「何の事だ?」
シラを切り通してみたがきっとバレているだろうなと思う。
けれど普賢は騙されたフリをしてそのままにしておいた。
「僕じゃ敵わないね・・・」
悔しいけれど何故か憎らしくは無い。
あの2人なら仕方ないと どこか諦めた感じがあるからかもしれない。

「僕にはまだ望ちゃんが居るからいいや―――・・・」

   「今 何か言ったか?」

          「何でもない・・・」








<コメント>
今回の犠牲者は普賢ちゃんでした♪(核融合っ)
私は玉普もOKだけど 誰もこの2人の邪魔はできないわぁ(苦笑)
・・・太乙さん好きなのかも 私。
つーかたぶんお互い「普賢」「太乙」って呼ぶと思うんだけど〜
まだ十二仙なりたてって設定なんで大丈夫っしょ。
ホントはドタバタコメディで書きたかったんだけどな・・・
挫折。人生いつもこれさ(それは今関係ない)



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