様々な色や形の花火が空に咲く。
 河原にはすでに多くの人が見物に来ていた。
 小さな段差の所で紅孩児が先に降りて八百鼡に手を差し出す。
「危ないぞ、気をつけろ。」
「あっはい。」
 彼の手に掴まろうとした瞬間、

 ガクッ

「きゃ・・・・・・!?」
 慌てたせいか下駄がちょっとした窪みにはさまってしまった。
「危な――!」

 トサ・・・

 つまづいて倒れそうになる彼女を紅孩児が受け止める。
「言ってるそばから何やってる・・・」
「・・・すみません・・・・・・」
 恥ずかしさと今の状況にどぎまぎして八百鼡の顔は真っ赤だ。
「――――・・・」


「・・・気をつけて。」
 転ばないように手を差し出すと彼女は笑う。
「大丈夫・・・きゃ・・・・・・」
 
 コケッ

 落ちそうになる彼女の体を引き寄せてため息をつく。
「花喃〜・・・だから言ったのに・・・・・・」
「ゴメン・・・」
 謝る彼女を抱きしめたまま離さずに頭に軽くキスをする。
「そういう所もかわいくていいけどね。」
 顔をあげて見せた照れたような彼女の笑顔は花の様だった。


 1年前の自分たちと同じ。
 見ていると思い出す懐かしくて甘い、一番幸せだった頃の思い出。


「・・・おい。」
「あ・・・はい?」
 三蔵に呼ばれて八戒は我に返りそちらを向いた。
「―――彼女、花喃に似ているな。」
 彼の視線の向こうには八百鼡の姿が映っている。
「・・・そう、思いますか?」
「ああ。・・・解っているだろうが勘違いはするな。」
 彼の言いたいことは八戒も十分理解しているつもりだ。
「ええ、もちろんわかっていますよ。」
 返事ははっきりしていて三蔵もそれ以外を問うことはなかった。



 紅孩児はすぐいなくなる李厘を見ているだけで精一杯らしく、八百鼡は独りで花火を見ていた。
 そこへ八戒がやって来る。
「少し話をしてもいいですか?」
「? どうぞ。」
 彼女に嫌だという雰囲気が全くなかったので安心して隣に並んで立った。
 花火が空高く大きな円を描き、音は胸の奥まで響く。
「―――この前花喃に手紙を書きました。」
「え?」
 突然のセリフに少し驚いた表情で彼を見る。
「貴女に話を聞いてもらってちょっと気が楽になったんでしょうか。」
 花火を見たままで八戒は話を続ける。
「返事もすぐに返って来たんですよ。・・・内容はお互い取り留めもないことだったんですけどね。」
 最近あった事、今の暮らしの状況、特別な事は何も書いてなかった。
「手紙を見た時思ったより冷静な自分がいたんです。自分ではもっと取り乱すかと思ってたんですけど。」
 今すぐ会いたいと思い悩むこともなくて。
 見終わった後、あいかわらず愛しいとは思ったけれどそれ以上の感情も暗い気持ちも起こらなかった。 
 そしてそれで気がついた事がある。
 彼女の前に少し離れて立ち、真っ直ぐな瞳で見つめる。花火が彼の背できらめいた。
「僕は―――」
 
 ドーン ドン―――・・・

 連続花火が彼の言葉と重なる。
「え・・・? 何も聞こえ―――・・・」

 グイッ

「!?」
 突然強い力で両肩を引っ張られ、彼女の体は後ろ向きに倒れて腕の中にすっぽり入ってしまった。

 え? え??

 状況が上手く飲み込めない。
 でも誰かはわかる。
 さっきと同じ、優しくて大きくて・・・だけど今は汗で熱いその手。
「紅孩児・・・様?」
 彼の顔を見上げると彼はある1点を睨み据えていた。
 その先にいる彼に視線を移す。
「・・・お前に渡すつもりはない。」
 それを聞いた八戒が困ったように微笑んだ。
「貴方には聞こえてしまいましたか。」
「・・・ああ。」



「なぁんかアソコ面白いことになってるぜ。」
 3人がいる場所より数メートル離れた所から悟浄と独角が興味津々で観察している。
 覗きとも言うが、あんなど真ん中で展開されたら誰の目にも入ってしまうというものだ。
「・・・・・・くだらんな。」
 全く興味なさげに3人の方を一度だけ見て、三蔵は煙草を買いに行こうとくるりと背を向けた。
 それに気づいた悟空が彼の所まで走ってくる。
「俺も一緒に行く!」
「・・・勝手にしろ。」
 言葉はそっけないが嫌そうではない。それがわかっている悟空は上機嫌で横に並んでついて行った。


「む〜・・・オイラも兄ちゃんたちに混ざりたい!」
 暇がピークに達して今にも走っていきそうな李厘を悟浄が止める。
「今楽しいトコだから邪魔はダメだぜ。」
「でもカキ氷〜」
「ああそれなら・・・・・・」
 そう言って親指で向こうを歩いている彼を指差した。



 ぴょん!

「つっかまえた!」
「あ!?」
 ずしっと体重がかかって首が重い。
 李厘が思いっきり三蔵に抱きついてきたのだ。
「カキ氷買って。」
 怪訝な目をして三蔵が見ると李厘は間髪入れずに言う。
「・・・何で俺がそんなことしなきゃならん。」
「赤髪の兄ちゃんが頼めって言ったもん。」
 
 ・・・・・・コロス

「ずっりー!俺もカキ氷食いたい!」
 悟空まで言い出し、2人で買ってコールを始めてしまった。
 似たような小動物が2匹。頭痛がする。

「・・・・・・悟空。」
 しばらく無視して引きずったままで進んでいた三蔵が立ち止まって口を開いた。
「?」

 ピィン――

 三蔵の手から弾かれた銀色のそれは、虚空を舞って悟空の手におさまる。
「・・・五百円玉?」
「それ持って2人ともさっさとどっか行け。」
 
 え・・・?

「マジ!? 俺メロン!」
「オイラいちごがいい!」
 大喜びで飛び跳ねながら2人は買いに走っていった。

「ったくうるさい連中だ・・・・・・」



「あの2人ってデキてんの?」
 まだ観察している2人。花火はすっかりそっちのけだ。
「さぁ? どっちもニブイからなあ・・・・・・」
「ふーん、じゃああいつが入るスキもあるってわけだ。」
 花喃と別れた頃と比べて最近は妙に明るくなったアイツ。
 それにあの彼女が影響している事くらいすぐにわかる。
「・・・おもしれぇコトになりそうだな。」


「自信はありますよ。」
「・・・・・・」
 紅孩児の彼女の肩を握る力が強くなる。
「紅孩児様?」
 まさか自分の事を言っているとは全く気づかずに八百鼡は彼を心配そうな表情で見つめた。
 けれど彼は八戒を睨んだままで彼女の方は見ない。
「手は抜きませんから。」
「・・・・・・心に留めておく。」

 ドン――

 最後の巨大花火が夜空に散った。



<コメント>
八百鼡ちゃんヒロイン化現象(マジ)
何がやりたいんだ自分。
紅丸(ある2人の間での呼び名/笑)いぢめかもしんない(コラ)
三蔵の五百円玉はぢつは煙草代です。
だからあの後彼は何も買わずに戻ったらしい(笑)
それをお気に召した方がいらっしゃいました。嬉しいですね。



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