「やっぱり貴方の髪ってきれいね。」
明るいからよく見える。
とっても幻想的な感じでこの世のものじゃないみたい。
「全身発光してるようなヤツが言うセリフじゃないな。」
「ありゃホントだ。・・・いい表現ね、それ。」
くすっと月花が笑った。
「・・・私ね、歌うのが好きなの。だからこうして歌えてすごく嬉しかった。」
「歌ぐらいいつでも歌えるだろ。」
妙なことを言う女だ。
けれど彼女は首を振る。
「違うの。こんな月の輝く夜にね、誰かの隣で歌うのが夢だったの。」
1人が嫌だというのはそういう事か。
「それが貴方で良かった。これってきっと運命よね。」
「・・・くだらんな。」
運命なんか信じない。
信じているのは自分だけだ。
「でも私はそう思うわ。」
「勝手な女だな。」
「勝手で結構。短い夜だもの、思う存分後悔しないようにしなくちゃ。」
あまり関係ないような気がするが。
変な女だ。
「ねぇ、私の夢を叶えさせて。そこで見ててね。」
真ん中に立つと月に向かって大きく息を吸う。

大地も眠る 静かな時間―――・・・

さっき聞こえた歌と同じ、静かな子守歌。
綺麗だとかそういう感想を持つ性格じゃないが嫌いじゃない。

妙な気分だな。
ただ黙って聞いている自分は普段から考えればさぞ滑稽だろう。
この女には調子を狂わされた上、すっかりペースに巻き込まれている。
けれど怒る気にはなれなかった。
必死にすがって見つめるあの金の瞳。

(・・・そういう事か・・・・・・)
放っておけなかった理由。
あのバカと同じだったからか。



ずっと休まず歌っていた彼女の声が突然途切れた。
「―――・・・?」
「・・・もうすぐ夜が明けるね・・・・・・」
薄くなり始めた月の光を見上げ、悲しそうに月花が呟く。
「もうお別れしなくちゃ。・・・最後まで付き合ってくれてありがとう。」
「俺は立っていただけだ。」
「でも貴方は優しいね、帰らずにいてくれたもの。」
すがりついた時とは打って変わって弱気な言葉だ。
「帰ると思ってたのか?」
「全然。ちょっと不安だったけどね。」
本当にはっきりモノを言う女だ。

でも・・・そういう性格は嫌いじゃない。

東の空が白くなり始めた。
鳥たちも目覚めて声が聞こえ出す。
気のせいか、彼女の肌が透けて見えた。
「あのね、私貴方に会えてすごく嬉しかった。たった一晩だけっていうのが悔しいけどそれでも私には幸せな時間だったよ。」
気のせいじゃないようだ。
「―――っ! 月花!?」
「・・・初めて名前で呼んでくれたね。」
微笑む彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「三蔵、好きだよ。貴方の未来に幸福が訪れることを願ってる―――・・・」
さぁ―――
それが最後の言葉。消えた彼女の代わりに白い花びらが舞い散る。
「これは―――・・・」
驚く彼の横を風が通り過ぎ、花びらは風に流されていった。



騒がしい食堂内で4人は朝食を取っていた。
何事もないいつもの朝だ。
「あ、そうそう月花って知ってますか?」
唐突に八戒が聞いてきた。
「なんか女の名前みたいだな。」
「!」
悟浄の言葉にかすかに三蔵が反応する。
しかし本当に微妙な変化だったので誰も気づいていないようだ。
「花の名前ですよ、この辺の森の中にしか咲かない白い花だそうです。昨晩のような月の綺麗な晩に
その花は女性の姿になって森を歩きまわる・・・という伝説があるのをさっき店のおばさんが教えてくれました。」
「へぇ、そりゃさぞかし美人なネーチャンなんだろうな。会ってみたいぜ。」
興味津々で悟浄が口の端を上げて笑う。

(うるさいだけだったが・・・・・・)
月花を思い出して三蔵は心の中で呟いた。
ガキみたいに表情をくるくる変えるし遠慮なしにものは言うし。
悟浄の言う美人だとかいう部類には入ったかもしれないが、興味のない三蔵にとってそれは印象に残るものではなかった。
(まぁ歌は上手かったがな・・・・・・)

「おやぁ? 三蔵サマも興味あるわけ?」
いつもは「くだらん」と一言で済ますのを今日は何も言わないので不思議に思った悟浄がからかい半分で尋ねる。

チャキ

「殺されたいか?」
「三蔵サマってば目がマジ・・・・・・」
声はふざけていても降参のポーズで額には冷や汗が流れている。
「三蔵、朝からそんなもの出さないでくださいね。他のお客が怖がりますよ。」
にこにこ顔で注意をうながす。
その隣では無心で悟空が朝食を必死でほうばっていた。
「似てるようで似てないな・・・」
このバカに儚いという言葉はまったく無縁だ。
昨晩の俺はどうかしていたようだ。
「?」
八戒と悟浄は不思議そうに思わず顔を見合わせた。



月花、それは月光の花。


ねぇ三蔵、私の望みって本当は貴方のために歌うことだったのかもね―――・・・ 



<コメント>
えっとぉ・・・・・・
たまにはパラレルじゃない世界がいいなぁって思っててー
三蔵メインの話が書きたくてー
月光の下でたたずむ三蔵ってかっこいーよなぁって想像してー
どうせなら女の子絡みにしちゃおうと思い立ってー
出来上がったらこれかい。
ファンタジーで乙女チック(死)
三蔵らしくない話だよね・・・
このネタなら封神キャラの方が良かったかなぁ・・・
変だなぁ・・・三蔵サマに合わせたはずだったんだけどなぁ・・・・・・
どこをどう間違ったのか。



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