狭間 −side α−




 舞台は某中高エスカレーター式私立学校の中等部保健室。
 時は珍しくベッド人数0の昼休み後半頃。
 彼は1人背凭れのある椅子に腰掛け、眼鏡をかけて新聞に目を通していた。


 バンッ

「黄センセー バンソコちょうだーい!」
 場に不釣り合いな元気な声と共に 力任せにドアを開けて彼女は保健室に入ってくる。
 それに気づいた白衣の人物が椅子を半転させて入口の方を向いた。
「ここは保健室だ。静かにしろ。」
 ものすごく不機嫌そうな声で言われた後、彼女は別の意味で驚いて口をぽかんとさせた。
 黄先生じゃない、男の人だ。
 でも何処かで見たことある顔。
 誰だっけ・・・?

「! あーーーっ!!!」
 少し間を空けて思い出した彼女が叫んだ。
「だから静かにしろと・・・っ!」
「カキ氷の兄ちゃん!!」
 彼の意見は全く聞こえた様子は無い。
 しかし彼女の言葉を聞いて ハリセンを取り出そうとした手が止まった。
「カキ氷・・・?」
 花火の音と彼女の髪飾りに付いた鈴の音が重なる。
「あぁ・・・ あの時の――― 子猿。」
「李厘!!」
 けれどそれは名前なんか知るかの一言で終わった。

「―――で 叫べるほど元気な奴がココに何の用だ?」
 うちのバカ猿同様保健室なんかとはほぼ無縁に近いタイプのようだが。
 尋ねられると李厘は血が流れる膝を見せた。
「さっき走ってて転んだからバンソコちょーだい。」
「・・・もったいねぇ。そこに消毒液があるから勝手に治療しな。」
 チラッと見ただけで椅子の向きを戻すと、関心薄そうに親指で場所を示す。
「勝手にって・・・兄ちゃんはしてくんないの?」
「先生と呼べ。」
「呼んだらしてくれる?」
「・・・・・・」
 オイラ使い方分かんないもんとか じゃなきゃずっとカキ氷の兄ちゃんで通すとか、さんざん後ろで言い続けてみた。
「・・・・・・っ(怒)」
 最初は無視していた三蔵もさすがにイライラに限界が。
 読んでいた新聞を乱暴に机の上に投げ捨てた。
「やりゃーいいんだろっ。」
「やった♪」


「〜〜〜〜っっ!!」
 痛さに耐えかねて台をバンバン手で叩く。
「これくらいで痛がるな。」
「だって センセー乱暴なんだもぉん。」
 涙目でう〜と唸って言った。
「お前がやれと言ったんだろう。」
「だって〜・・・」
 黄先生だったらもっと優しくしてくれるのにぃ。
 そう後悔しても今さら遅い。

「―――そういえば黄先生は?」
「ああ、出張で1週間は帰ってこない。だから俺が1日おきで中等部にも来てやってるんだ。」
 無論 したくてしているわけじゃないが。
 上から言われなければ誰がこんな面倒な事をするか。
「センセー 高等部なんだ。」
「まぁな。」
「じゃあ お兄ちゃん達のこと知ってた?」
 終わっても立ち上がらずにさらにつっこんだ話を投げかける。
「いや。俺は今年から来たからな。」
 否、名前だけは聞いたことがあったか。
 紅孩児・・・自分の代で校則を一掃させた生徒会長、生徒の支持率も過去最高だった。
 ――― と理事長が誉めていた。
 俺は興味が無いからどうでもいい事だと忘れかけていたが。
「―――お前の兄貴か。言っておけ、気をつけろとな。」
「何に?」
「好きなら捕まえとけって事だ。八戒のヤツは疎そうであの辺無意識に上手いからな。」
 解っていると言っていたがどうも嫌な予感がする。
 俺には関係ない事だが花喃の事もあるしな。
「でも無理だと思うよぉ? お兄ちゃんとことん鈍いもん。」
「そうか・・・」
 妹にまで言われては伝説の生徒会長様も形無し。
「だってお兄ちゃん、八百鼡ちゃんがいっしょの大学を選んだ理由もそれ以前に生徒会に入った理由さえ分かってないんだもん。」
 オイラでもすぐに気づいたのに。八百鼡ちゃんがかわいそうだよ。
 八百鼡ちゃん好きだし、八百鼡ちゃんがお兄ちゃんの彼女になるなら大歓迎なのにサ。
「でも八百鼡ちゃんの方もいつも一緒に居る理由に気が付いてなったりするから変だよネ。」
「隙だらけじゃねーか・・・」
「だネ。」
 このままだとすぐに取られちゃうねと笑って言う。
 所詮他人事かと三蔵が呆れていたら、李厘は急に真顔になった。
「―――余裕が無くなったらお兄ちゃんも本気になるかな・・・」
 両思いなんだから早く進展して欲しいもんね。
「さぁな。」

 キーンコーンカーンコーン・・・

「おら、休みは終わったぞ。さっさと戻りやがれ。」
 元の椅子に戻って三蔵は新聞を広げる。
 李厘もそれに素直に従って立ち上がった。
「じゃ、またねー♪」
 入口で振り返って彼女はにっと笑った。
「・・・もう会わねーし 2度と来んな。」
 お守りなんざ1人でたくさんだ。学校でまであのバカに似た奴相手にしてられるか。
「お兄ちゃんには一応伝えておくー♪」
 さっきの言葉は聞いてなかったように無視した。



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<コメント>
また書いちゃったよ〜 なかんぢです。
でも この設定ってとても好きなんですよぅ
ちなみに「理事長」はあの観世音菩薩様デス。だってそんな感じなんだもん。
コレはβの前置きみたいなものなので そんなに重要ではないんですが。
ただ単に三蔵の職業決めたかったんで。
永羅ちゃんと「三蔵って白衣似合うよねvv」と言っていたのが発端。
そして話(妄想)は広がっていったのね〜。
・・・ウチの三蔵って李厘に弱いのかな〜・・・ 性格が猿に似てるから?(笑)



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