「こんな所で何をしているんだ。」
「!? 紅孩児様っ!!?」
 どうして此処に!? と思ったが、そこは言葉にならない。
「―――帰るぞ。」
「え? あのっ・・・!?」
 八戒の方を1度見ただけで彼は言葉もかけずに八百鼡の腕を掴んだまま引き返す。
 何時の間にか八戒の手は離れていた。
「すみません 代金は今度払いますからっ。」
 オロオロしていた八百鼡も2人に会釈して連れて行かれるままに付いて行った。



 店を出ても黙ったまま、紅孩児は早足で先へと進む。
 付いて行くのがやっとだけれど腕は掴まれたままなので止まるわけにもいかなかった。
 掴まれている部分がとても熱い。

「こ、紅孩児様・・・っ」
 さすがに息が切れてきて これ以上は限界だ。
 呼びかけに応えてか、そこで彼の足が止まった。
「先に帰れと言っておいたはずだろう。」
 振り向いて開口一番に彼はそう言った。明らかに何かに怒っている。
「す、すみませ・・・」
「知り合いだからといって簡単に付いて行くな! 第一あの男は・・・っ!」
 言いかけて そこで言葉を飲み込んだ。
 よくよく考えれば自分にそれを言う資格は無い。
 俺の今の行動はただ焦っているだけだ。先を越されそうで不安になっているせいで彼女の心を無視している。
 わかってはいるのだが。

 ―――僕は貴女に惹かれている・・・

 花火の音にかき消されて八百鼡には聞こえなかった言葉だが、確かにそう聞こえた。
 それが今の、自身の中にある不安の根。
 彼女の心は彼女の物だ。けれど理性では消しきれない物もある。

「・・・もういい。お前の好きにしろ。」
 熱かった手首が急に冷たくなった。自由になった手が下に落ちる。

 怒らせた―――・・・!!

 思うより早く、身体の方が反応していた。
「すみません 紅孩児様っ!」
 彼の上着の袖にしがみ付くようにして 精一杯の力を込めて止める。
「1人で帰るのが心細くて 待っていれば会えるかもしれないと思ってたんですっ・・・」
 溢れる言葉が止まらない。
 けれど今は嫌われたくないという思いで頭がいっぱいで、とにかく必死だった。
「遅くなったら独りは危険だという紅孩児様の気持ちを、勝手に無視してしまったのは謝りますから! だからっ・・・・・・」
 明らかに勘違いしているが 驚いている彼には訂正する事ができない。
 それより 真っ直ぐに言ってくる彼女を見て、自分がなんて子どもじみた事をしているんだと思わされた。
「―――さっきのはただの八つ当たりだ。気が立ってたんだ、俺の方こそ・・・すまない。」
 だから・・・
 そこまで言って視線を逸らし、それ以上は彼女の方を見ようとしなかった。
 それには照れも多少は入っていたのだろうが。
「だから・・・ もう泣くな。お前に泣かれると俺はどうすればいいかわからない・・・」
 すると、必死だった表情が崩れてきょとんとしたものになり、それから笑顔に変わった。
 指で瞳に残った涙を拭き取る。
「・・・今度からは待っていても構いませんか?」
「俺もそっちの方が 気が楽かもしれんな・・・」
「え? 何か仰いました?」
「いや。今度からはそうしてくれ。」



「今の、彼女の大切な人?」
「―――お互い相手の気持ちが解らない 不器用なカップルだよ。」
 花喃の質問に八戒が優しく笑って言った。
 これで少しは進展してくれると良いんだけれど。
 花喃の面影を持った彼女に悲しい顔はして欲しくなかったから。
 ・・・やっぱり僕は彼女に花喃を見ていたみたいだ。三蔵の言う通りですね。
「・・・もう少し 引っ掻き回そうと思ったんだけど。」
「そんなに私を妬かせたかったの?」
「―――そうかもしれないね。」
 花喃が笑って 八戒も笑った。

「・・・今度の休みには貴方がこっちに来て。」
 カランと空になったグラスの氷が音を立てる。
「私が住む町を貴方にも見せたいから―――・・・」
 その笑う姿は、やっぱり1輪の美しい花。
 誰も居なかったら きっとあの時抱きしめていた。それくらい愛しい人。
「うん。必ず行くよ・・・」

 もう君を見失ったりしないから・・・



 ―Fin ―



<コメント>
花喃と八百鼡ちゃんって対照的。花喃を守れなかった八戒と八百鼡を救った紅孩児もそう。
同じ百眼魔王の事で運命が分かれた2人は何か繋がりがあると思う。
―――とか カッコイイ事言ってみたり☆(爆)
今回 花喃と八戒を幸せにしてあげたいと思ったの。
そう思ったのは花喃が八戒に会いに来るというエピソードを考え始めた頃からかな?
それまではどっちとくっつけるかとか考えてなかったのね(何)
でもすぐ頭がラストまで行っちゃった・・・ 前回までのフリは何だったんだ一体!な感じ。
けれどやっぱり八百鼡は紅孩児が好きで、八戒は花喃を今でも想っている。それが結論。
ちなみに花喃が"八戒"と呼ぶのは違和感ありまくりだから絶対に呼ばせない。コレ当然のこだわり☆
この設定でまだ続くかも〜?



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