狭間 −side after−




 花喃を家に送り届けて彼が帰って来た時には、ずいぶん前に日付が次の日へ変わったというくらいの時間だった。
 けれどキッチンの電気だけは点いているようで、ガラス戸からは光が漏れている。
 八戒はその光に誘われるように扉に手をかけた。


「―――遅かったな。」
 座っていたのは三蔵だった。
 前に置かれた灰皿に灰を落として 彼はきょとんとしている八戒を見る。
「待って、らしたんですか・・・?」
「別に。たまたま寝付けなかっただけだ。」
 三蔵の言葉にクスリと笑って、八戒は彼と向かいの椅子に座った。
 他の2人はもう寝たらしく、テレビの電源も入っていない。
 静かな部屋に換気扇の音だけがひどく大きく聞こえた。
「・・・元気そうで良かったな。」
 彼の短い言葉が何を表しているのかはすぐに分かる。
「ええ・・・ また、会えるとは思っていませんでした。」
 穏やかに微笑った八戒を見て三蔵は小さく息を吐く。
「どうやら俺の杞憂だったようだな・・・」
 ガラにもなく心配したが どうやらその必要はなかったようだ。
「―――そうでもありませんよ。」
 言った八戒の表情が微かに自嘲気味なものに変わった。
「あと少し 花喃に会うのが遅かったら・・・ 僕は彼女を身代わりにしていたでしょうから・・・・・・」
 花喃によく似た彼女を。
 歪んだ気持ちのまま、気づかず利用しようとしていた。
「三蔵が言った通りです。彼女は・・・花喃にそっくりでした。」
 ふとした仕草も、温かい笑顔も、目の前に花喃が居るように錯覚するほど・・・
「気づくのが遅いんだよ。」
「そうですね・・・」
 苦笑いにも似た表情で八戒が返すと 三蔵はフンとだけ言って新しい煙草に火を点けた。


「―――そろそろ寝るか。」
 1本吸い終わるまで一言も会話を交わさなかった2人だが、そこでやっとまた目を合わせた。
「寝付けないんじゃなかったんですか?」
 意地悪そうに尋ねる八戒に、立ち上がった三蔵は目だけを向けて睨む。
「俺は誰かと違って多忙な社会人だからな。これ以上付き合ってられるか。」
 そう言ってテーブルの上に置いていた煙草の箱とメガネを持つと、八戒を残してキッチンから出て行った。
「・・・さり気に嫌味を言われてしまいましたね・・・・・・」
 このぶんだと 明日講義をサボって花喃と過ごす予定もバレてるんでしょうね。
 苦笑いして八戒も立ち上がった。

 明日が楽しみだね、花喃。
 今まで連絡を取らなかった分だけ 埋め合わせをしたいんだ。
 そしてもう1度君に言わなくちゃいけない言葉があるんだ。
 あの時切ってしまった糸を、また繋げ直す言葉。
 また、初めからやり直そう・・・?



 −えんどっ−



<コメント>
αとβを繋げるための話でしたん。
"ω"にしようか何にしようかものすごくタイトルに迷った。ってどうでもいか。
脚本っぽくセリフだけにするつもりがちゃんとしたお話になっちゃった☆ って感じ。
だから長くなっちゃったのネ(爆)
紅孩児&八百鼡サイドは別にアレから何も変わった様子は無いだろうから書くこと無いと。
きっとあの2人は何処までもスローステップで行くと思う・・・



←戻るにおうち帰るに