初恋の行方+




1)

「初恋は実らないってホントなのかな?」
 昔からそう言うよねと、ぽそっと呟いたのは碧家の三男坊。

 彼は凛翔と年も近く、兄弟のような…悪友みたいな関係だ。
 彼の母親―――乳母の華南が幼い頃から彼を連れて来たりもしていたので、一緒くたに育
 てられたせいで わりと気心の知れた仲でもある。

「…私は実らなかったな。」
「え、それマジ!? どこの姫!!? オレ、そういう話今まで聞いたことなかったんだけ
 ど!?」
 ノリの良い彼はその呟きに飛びついてくる。

「鈴花だ。」
「………それはシスコンにも程があるような。」
 ハイテンションから一転、思いきり呆れた顔をされた。
 まあ言われると分かっていたから特に動揺もしない。
「昔の話だ。」
「じゃあ今は?」
 聞かれて軽く考えてみる。

「今……」
 もう一度考えてみた。答えが出てこない。

「え、そこ悩むとこなの? そこは流すか即答するかして! オレ、変に勘ぐっちゃうじゃ
 ん!!」




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2)

「公主を恋愛対象で見れるか? ナイナイ。有り得ない。」

 どこからそんな話になったのかはそこにいた誰も思い出せないが、凛翔から出た問いを碧
 家の三男星風はばっさり切った。


「美しい方なんですが… ギャップが……」
 苦い顔で続いて答えたのは、その隣にいた次男の春空。
「あの外向きの笑顔を見ると背筋が冷えるんです。」

 父親に似て演技上手の彼女は、外では穏和な姫君として通っている。
 美しくお優しくたおやかな姫… それが何も知らない一般的な人々の印象だ。

 しかし、彼らはその実体を知っているが故に違和感を感じずにはいられないのだ。


「ああ、あれ。何か企んでそうに見えるよね。」
「後ろに黒いオーラが見える…」
 周囲は騙せても、自分達は騙せないぞと。

「ま、美人なのは確かだけどさ。でもオレは可愛い系が好みvv」
「鈴花は可愛いが。」
「シスコンは黙ってろ。」
 即座に星風に突っ込まれて、凛翔はむうと唸る。

「…お前、太子に向かってそれはどうかと思うんだが。」
 春風が呆れて言うが、弟は意に介していない。
「だって、シスコンはシスコンじゃん。」





「……ねぇ雪兄。これは殴って良いところ?」
 人がいない隙に好き勝手言っている兄弟を見ながら、鈴花は一緒に来た長男雪陽に問いか
 ける。
 実は彼らの会話は2人で最初から聞いていた。

「そうですねぇ。ですが、うちの愚弟達は無駄に丈夫ですから。公主のお手を痛めてしま
 うかもしれません。」
 困った顔をしながらも、彼はのんびりとした口調で答える。
 ……言っていることはかなり辛辣なのだが。

 それに大丈夫よと姫君らしからぬことを言う彼女に、雪陽はいえいえと首を振った。
「―――ですから、ここは、母に言ってみては如何でしょう?」
「「!!」」
 にこりと告げたそれに、途端に弟達は青くなった。



「雪兄 止めて!」
「俺達が悪かったです! だからそれだけは…!」

 怒らせた時の我が母親の怖さをよく知る兄弟は必死で謝る。
 バレたら絶対無事では済まない。それはどうしても避けたかった。



「……鈴花は可愛いぞ?」
 蚊帳の外になってしまった状態で、凛翔が真顔でぽつりと呟く。
「ありがとう兄様。」
 本気で言っている兄に、それを知っている鈴花はにこりと微笑んで答えた。



 ―――どちらの兄弟も、仲はとっても良いらしい。







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1)
…以上を踏まえて、今までの凛翔の言動を深読みして下さい(笑)
見方が変わってくると思います。
ちなみに凛翔は本気です。父と浩大とあと1、2人くらいはそれを知ってるかな?


2)
あ、香月が出てない。…まあ良いか。
よく考えたら碧家の兄弟って構図が氾家と同じなんですよね〜
気づいたのが遅かったのでそのままです。すみません。

ちなみに兄弟構成は、
雪陽(おっとり長男)
春空(武闘派次男)
星風(軽めの三男)
香月(しっかり者の末娘)です。


2012.4.22. UP



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