八つのキス:【頬】




「夕鈴からキスしてくれたら諦める。」
「そそそ…そんな!」
 黎翔の言葉に夕鈴は心底狼狽した顔で声を上げた。

 ある日の夜の攻防戦。
 話が逸れに逸れてそんなことになった。

「どっちが良い?」
 どちらも恥ずかしいです!と言われるが、これ以上引くつもりはない。
 せっかくのチャンスを逃すなんて勿体無いし。
 だから黙って見つめて返事を待つ。


「〜〜〜わ、分かりましたッ」
 ついに耐えかねて彼女の方が折れた。

 さて、どっちかな?

「目を瞑ってください!」
 どうやらキスの方らしい。

(…抱き枕よりはお休みのキスの方がすぐ済むもんね。)

 どっちになっても得をするのは黎翔の方だと夕鈴は気づかない。
 そんな素直さがまた可愛いと思って内心で笑った。


 ちゃんと目を閉じると、おそるおそるといった感じで腕が肩に触れてくる。
 首に回してくれても構わないのにな…と思いながら、重みがかかって。

 ―――柔らかな唇がそこに触れた。

「こ、これで良いですか!?」
 ぱちりと目を開けると彼女は至近距離で顔を真っ赤にしている。
 可愛くて抱きしめたくなったけれど、やってしまうとたぶん…というか確実に逃げられ
 そうな気がして我慢した。
 感触が残る頬に指先で触れると まだじんわり熱を感じる。


 本当は唇のつもりだったんだけど、彼女にはそこまでが限界だったらしい。
 ちょっと期待と違った。
 でも、彼女からしてくれただけでも貴重なこと。

 だからそこは妥協することにしよう。





お題:「妥協して頬へ」
--------------------------------------------------------------------- 妥協したのはされた方という(笑) 一体どこでどう話が逸れたらこんなことになるんでしょう? 私的に絶対陛下の誘導尋問だと確信しています(笑) 2011.1.30. UP


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