八つのキス:【瞼】




 夕鈴はあまり宴が好きではないらしい。
 それは僕も同じ。
 堅苦しいし、それ以上に煩わしいことが多くて。

 けれど、今は違う。

 宴でしかできないような、密かな楽しみができたから。




「夕鈴」
 肩を引き寄せて耳元で甘く囁く。
 それだけで真っ赤になる夕鈴がとっても可愛い。
 離れたいけれど今は宴の真っ最中で、仲良し夫婦の演技中だからどうにもできない。
 そんな葛藤が見え隠れしていて本当に面白い。

 退屈でつまらない宴も夕鈴と一緒なら楽しい。
 彼女がいるから煩わしい輩も寄って来ないしね。

 腕の中で居心地悪そうにしている彼女に対して悪戯心が芽生える。
 耳を噛んでみようか。甘い言葉でさらに赤くするのも良いかな。
 あれこれと考えて、少し伏せた瞼が目に入って。
 誘われるようにそこに口付けた。

「っ!!?」

 途端固まった彼女の動揺っぷりが窺える。
「いつまでも慣れないな。そういうところが可愛いのだが。」
 狼陛下が妃に向ける表情と声は砂糖菓子のように甘い。
 彼女が逃げられないのを良いことに、もう一度同じ場所に唇を押し当てる。


 溢れる想いを君に。

 これくらいは許して欲しい。
 君が演技だと信じるから、こんな時でもなければ触れられない。

 演技ではないといつか言えたら良いけれど。
 言ったらきっと君は逃げてしまうから。
 だから今はまだ。
 演技を理由に君に触れさせて。

 そしていつか、全てが真実だと―――





お題:「愛しさをこめて瞼へ」
--------------------------------------------------------------------- この後絶対怒られると分かっていて、それでもやっちゃう陛下が良い。 夕鈴はいつになったらアレが演技じゃないと気づくのでしょうね。 多少は演技の面もあるから、ごっちゃになって迷うのかなぁ? 2011.1.31. UP


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