夕鈴はあまり宴が好きではないらしい。 それは僕も同じ。 堅苦しいし、それ以上に煩わしいことが多くて。 けれど、今は違う。 宴でしかできないような、密かな楽しみができたから。 「夕鈴」 肩を引き寄せて耳元で甘く囁く。 それだけで真っ赤になる夕鈴がとっても可愛い。 離れたいけれど今は宴の真っ最中で、仲良し夫婦の演技中だからどうにもできない。 そんな葛藤が見え隠れしていて本当に面白い。 退屈でつまらない宴も夕鈴と一緒なら楽しい。 彼女がいるから煩わしい輩も寄って来ないしね。 腕の中で居心地悪そうにしている彼女に対して悪戯心が芽生える。 耳を噛んでみようか。甘い言葉でさらに赤くするのも良いかな。 あれこれと考えて、少し伏せた瞼が目に入って。 誘われるようにそこに口付けた。 「っ!!?」 途端固まった彼女の動揺っぷりが窺える。 「いつまでも慣れないな。そういうところが可愛いのだが。」 狼陛下が妃に向ける表情と声は砂糖菓子のように甘い。 彼女が逃げられないのを良いことに、もう一度同じ場所に唇を押し当てる。 溢れる想いを君に。 これくらいは許して欲しい。 君が演技だと信じるから、こんな時でもなければ触れられない。 演技ではないといつか言えたら良いけれど。 言ったらきっと君は逃げてしまうから。 だから今はまだ。 演技を理由に君に触れさせて。 そしていつか、全てが真実だと――― お題:「愛しさをこめて瞼へ」
--------------------------------------------------------------------- この後絶対怒られると分かっていて、それでもやっちゃう陛下が良い。 夕鈴はいつになったらアレが演技じゃないと気づくのでしょうね。 多少は演技の面もあるから、ごっちゃになって迷うのかなぁ? 2011.1.31. UP