「どうしたの? これ。」 妃の部屋へ訪れた時、ちょうど目に入ったのは卓の上に鎮座する1本の瓶。 気になったのはそれが彼女の部屋に不似合いというか、ちょっと珍しかったからだ。 「献上品のお酒です。今夜は冷えるのでどうぞって。」 「夕鈴が飲むの?」 瓶に並んだ杯は1つしかない。 その疑問に対して彼女は違うと首を振った。 「いえ、陛下にと。私はお酒を飲んだことありませんし。」 そう言って、彼女は自分の分のお茶を用意し始める。 「どちらにされますか? お茶が良いならそちらを用意しますけど。」 「んー せっかくだからお酒にしようかな。」 「分かりました。」 繊細な細工を施されたガラスの器に透明の液体が注がれる。 流れ落ちるそれは、燭台の明かりに照らされて、星のようにキラキラと光って見えた。 いつものような談笑を交わしながら、瓶の中の液体は少しずつ減っていく。 「それ、美味しいんですか?」 いつも―――宴の時なんかよりペースが早い…と隣に座る夕鈴が呟く。 興味を持って尋ねた彼女に、黎翔は微妙な反応を返した。 「んー美味しいというか… 夕鈴は止めといた方が良いかもね。」 「どうしてですか?」 「身体が温まるほどのお酒ってね、つまり相当強いんだよ。」 ピタリと彼女の手が止まる。 「…陛下って、お酒 強いんですか?」 「あまり酔ったって記憶はないかも。」 顔色にも出ないから、酔っていても周りからはよく分からないらしい。 「でも… さすがにちょっと酔ったかな…」 「でしたら、もうお部屋に戻られた方が良いのでは?」 こちらを覗き込むようにして見上げる夕鈴は心配そうにしていた。 「…そうだね。」 いろいろと危ない気もするし。今のこの態勢とか今の表情とか本当に危ない。 最後の一口を飲み干すと、彼女が手の中から杯を抜き取る。 その手首を掴んだのは無意識に近かった。 「陛下?」 戸惑う彼女の手から再び杯を奪い、彼女の代わりに脇に置く。 細い手首、白いしなやかな指先。 女性らしく丸く柔らかな―――欲を掻き立てられるような、 「っ!?」 手首ごと引き寄せて、熱く滾る欲を押しつけるように指先へ口付ける。 中指から人差し指、そして全ての指へ。 ゆっくりと味わうように、指の腹を舐めて形の良い爪を噛み、それでも飽き足らず掌に も唇を寄せた。 「陛下…」 夕鈴は真っ赤になりながら、困った顔をしている。 逃がさないようにと強く握った手の震えは恐怖からか。 けれど彼女を手離す気はなく、さらに深く味わおうとする。 「おかしくなりそう、です…」 「…なればいい。」 君も狂ってしまえばいい。 そして、君と共に夜に溺れてしまえたら… 闇色の感情がじわじわとこの身を浸食していく。 指先だけで甘く酔える彼女なら、余す所なく味わったらどこまで酔えるだろう。 それはどんな美酒よりも甘美で魅惑的な――― ただ一つの甘い蜜花。 お題:「欲望を押しつけるように指先へ」
--------------------------------------------------------------------- たまには雰囲気を変えてみたいなと。求めているのはえろさです(笑) 指にしか触れてないのにR指定!?な勢いで。 で、ちょっと長くなりました。 2011.2.1. UP