「あ、起きた。」 目を開けると、何故かすぐ近くに陛下の顔があった。 目をパチパチと瞬かせてみるけれど、何度やっても目の前の光景に間違いはなくて。 「おはよう 夕鈴。」 見下ろす陛下はにっこにっこと小犬のように笑っている。 「…今、」 「ん?」 「……何でもない、です…」 出かかった疑問を飲み込んで、夕鈴は寝台から起き上がった。 きっと気のせいよ。 夢を見ていたんだわ。 「ところで、私 いつの間に寝ていたんでしょう…?」 今は朝ではない。 日が暮れる前だというのを空の色で理解する。 「窓辺で読書をしていたみたいだよ。陽射しの暖かさに寝ちゃったのかな?」 「…あ。」 言われて思い出した。 身体を動かすことは得意だけど、こういう本を読むとかじっとしているのは苦手だ。 しかも中身がお妃教育読本では… 「寝台まで運んで下さったんですよね… すみません。」 「おかげで可愛い妃の寝顔をたっぷり見れた。」 甘い笑顔に甘い声、耐え切れなくて夕鈴の顔はゆでダコのように真っ赤になった。 「へ、変な寝言とか言ってませんでしたか?」 「つい食べたくなるほど愛らしかったが?」 顎を捉えられ、親指の腹が唇をなぞる。 その仕草に、いまだ残る感触を思い出した。 「〜〜〜っ!!?」 心臓がどくりと波打つ。 反射的に振り払って、衝立の向こうに逃げ込んだ。 ここは彼女の最後の砦。 それが分かっているからか、彼もここまで追いかけては来ない。 「夢、ですよね?」 衝立の奥から顔だけ出してじっと見る。 あんなの、夢じゃないと困る。 「? 我が妃はまだ寝ているのか?」 「いっ いえ! 何でもありませんっっ」 たとえ夢でも恥ずかしすぎる。 でも、夢の方がまだ良い。 「てゆーかもう演技は良いですから!」 夕鈴が叫ぶと彼は面白そうに声を上げて笑う。 小犬に戻ってくれてホッとした。 夢は願望の表れだと誰かが言っていたけれど、そんなの冗談じゃない。 何も望んじゃいけないってことくらい私だってよく分かってる。 今この時だけの幻のような、この時間こそ夢なんだから。 痛みを覚える心には蓋をして、見て見ぬフリをして。 狼陛下の甘い演技に心乱されて、それでも私は 現実から目を逸らし続ける――― お題:「目覚めさせるために唇へ」
--------------------------------------------------------------------- 最後はやっぱりこのお題ですよね。ってことで。 本編の2人はまだくっついてないので、禁じ手というか裏ワザというか… 実際 夢ではないんですが、夕鈴は夢だと思い込み。 というわけで、まだノーカウントです。 これでお題ラストですー お疲れ様でした☆ あー萌え萌えした〜 満足!(笑) 2011.2.3. UP