もしもの話五題:【もしも夜が明けなかったら】




 君が珍しく我儘を言うから、叶えてあげたくて連れてきた離宮。
 でもそれが僕の為だったなんて思いもしなかった。
 愛しくて堪らない君だから、真綿に包むように守って蕩けるほどに甘やかしたいのに。
 なかなか上手くいかないものだ。


 ―――窓の向こうは深い闇、隣の彼女も深い眠りの中。
 ぐっすりと眠る夕鈴の隣に寝転んで、僕はその寝顔を飽きずに見つめていた。


 君がこんなに傍にいるなんて初めてだね。
 夢の中にいる時は逃げずにいてくれる。
 …目が覚めたら、すぐに離れて行ってしまうのだろうけれど。

 だったらこのまま夜が明けなければ良い。
 そうしたら君は逃げてはいかない。


 お酒で少しだけ赤くなった頬に触れる。
 柔らかい肌は、今は熱を帯びてあたたかい。

「…逃げないね。」
 呟いてくすりと笑う。
 無防備に眠る兎は狼が隣にいても目覚めない。


 …ああ、このまま夜が明けなければ、ずっと2人でいられるのに。

 無茶な願いだと分かっているけれど、願わずにはいられない。


「…夕鈴。今だけ許してね。」

 君が目を覚ますまでもう少し。
 それまでは、君の隣にいることを許して欲しい。












 @もしも夜が明けなかったら(つまり恋人同士だったらver.)
『明けない夜、覚めない夢』

 花の香りが漂う華奢な身体を抱きしめて眠る。

 夢のような現実。
 目が覚めても彼女は消えない。


 飽くことなく見つめていると、少し身動ぎした彼女がふと目を開けた。
「…へいか?」
 とろんとした目で見上げてくる榛色の瞳。
 いつもより幼く見えるその表情も可愛くて、つい抱きしめてしまいそうになるのを堪え
 た。
 あまり力を入れてしまうと彼女が潰れてしまうから。
「部屋に戻られたのかと思っていました…」
「どうして? そんなの勿体ない。」

 できる限り君と一緒にいたい。
 それが許される立場なら。

「李順さんに怒られそうです。」
「長椅子で寝ていたとでも言えば良いよ。」
「それは別の意味で怒られそうですね…」
 僕の答えに彼女は苦笑いする。
「…君は僕より李順を優先するの?」
 ちょっと機嫌を損ねたように言うと、彼女は違うと首を振った。
「違います…ただ、後ろめたいだけ……」
 呟いて、彼女は僕の胸に縋り付く。


 誰も知らない本当のこと。

 王宮の人々は仲睦まじい夫婦という。
 有能な側近は臨時バイトの花嫁と。

 けれど本当はどちらでもない。
 誰にも秘密の関係だ。


「君が良いと言うなら、みんなに言っても構わないけど…」
「ダメです、ダメッ」
 いつものように彼女は慌てる。
 理由は言ってくれないと分かっているから聞かない。


「―――朝はまだ遠い。もう少し眠ろうか。」
「…夜が、明けなければ良いのに……」
 消え入りそうな甘い声は、2人の間で解けて消えた。


 大丈夫、夜は明けないよ。
 だって君は逃げない消えない。

 僕にはそれだけで十分だ。

 明けない夜、覚めない夢

 君の存在ただそれだけが、僕の全て――――









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頭痛が酷くて寝てしまったので、朝方5時半の更新です(汗)
このお題を見た瞬間にこの場面を選びました。
夕鈴が起きた時狸寝入りしてたようですが、それ以前にこの人寝てないんじゃないかなとか。
そんな感じのモノローグ。
同衾してたのに全く何もなかったって、凄いなぁ陛下。その自制心が。

もしも…『明けない夜、覚めない夢』
今回のオマケは、6月号の陛下があまりに切なかったので幸せにしてあげよう計画です。
お題が「もしも」なので、好き勝手し放題ですね。
ピロートークっていうんでしょうか。エロさとか全然ないですが(笑)
そういえばくっついた2人は初めて書きましたー
李順さんにも秘密にしてるのは、そんな秘密の関係も良いかなって思ったからで。
深い意味は特にありません。
てか、よっぽど不憫に思ったらしいです私。頑張れ陛下〜

2011.4.27. UP



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