「雨だね…」と、貴方が言った。 「雨ですね」と、私も答えた。 しとしとと降り続ける雨は、昨晩から止む気配すら見せない。 部屋はどこか薄暗く、弾んだ会話をする気分にもなれずにいて。 長椅子に2人並んで座ったまま雨音だけを聞いていた。 「…行かなくて良いんですか?」 夕鈴の肩に頭をもたげたままの陛下に小さく尋ねる。 「良いよ。どうせこの雨じゃ中止だろうし。」 今日は外に視察に出かける予定だったと、さっき陛下から聞いた。 この調子では道もぬかるんでいるだろうし、屋外の視察ではじっくりと見ることもでき ないから視察が中止になるのは分かる。 けれど、たとえ視察が中止になったとしても、彼には他にも山ほど仕事があるはずなの だけれど。 夕鈴としてはその意味も含めて言ったつもりだった。 彼は聞かないふりだったのか。 不意に肩の重みがなくなったと思ったら、突然彼はころんと横になる。 「!?」 その頭は夕鈴の太ももの上。 びっくりして目を白黒させていると、彼は小犬の顔で見上げてきた。 「ちょっと、このまま眠らせて…」 そう言いながら、返事を待たずに目を閉じる。 ドキドキして固まっている間に、彼からは規則正しい寝息が聞こえてきた。 「…え、本当に寝た の……?」 疲れていたのかしらと、少しだけ幼く見える端正な顔を見つめる。 この雨がやまないなら、貴方はここにいてくれるの? 私の、傍に……? 「止まなければ 良いのに…」 呟いてハッとする。 何を言ってるんだろう。 今のは臨時花嫁の言葉じゃない。 それは願ってはいけないこと、 望んではいけない夢、 ――――でも今だけは許してくれるかしら。 せめて雨が止むまでは、貴方の傍に。 貴方の隣は私のものに・・・ @もしも雨がやまなかったらを陛下視点でver. 『止まなければいいのに…』 彼女の呟きが聞こえた。 その後の戸惑う気配にも気がついていた。 同じ気持ちが嬉しいと思いながら、意識は白い世界に落ちていく。 いい夢が見れそうだと思った――― 遠くに聞こえる雨音 愛しい少女が紡ぐ子守唄 静かな世界 2人だけの世界 前髪にそっと触れる指先 彼女は微笑ったのだろうか 浅い眠りを繰り返しながら、やさしさとあたたかさに触れて この雨が止まなければいいと願った。 --------------------------------------------------------------------- お詫びも兼ねて、朝と夜にアップです。 最近の得意技はフェイント更新です(違) 前回の『もしも夜が明けなかったら』と対のつもりで書きました。 これだけは夕鈴視点です。 想いは自覚しているのか微妙な辺り。 冒頭の言葉だけが先に出来上がって、そうしたら何故か膝枕になりました(笑) ちょうど今日は雨だったので、気分的に書きやすかったです。 オマケは続きを陛下視点で☆ 前髪に触れて欲しかっただけです。 夕鈴の子守唄は昔青慎に歌ってたやつだったら良い。 2011.4.27. UP