もしもの話五題:【もしも雨がやまなかったら】




「雨だね…」と、貴方が言った。
「雨ですね」と、私も答えた。

 しとしとと降り続ける雨は、昨晩から止む気配すら見せない。

 部屋はどこか薄暗く、弾んだ会話をする気分にもなれずにいて。
 長椅子に2人並んで座ったまま雨音だけを聞いていた。


「…行かなくて良いんですか?」
 夕鈴の肩に頭をもたげたままの陛下に小さく尋ねる。
「良いよ。どうせこの雨じゃ中止だろうし。」

 今日は外に視察に出かける予定だったと、さっき陛下から聞いた。
 この調子では道もぬかるんでいるだろうし、屋外の視察ではじっくりと見ることもでき
 ないから視察が中止になるのは分かる。
 けれど、たとえ視察が中止になったとしても、彼には他にも山ほど仕事があるはずなの
 だけれど。
 夕鈴としてはその意味も含めて言ったつもりだった。
 彼は聞かないふりだったのか。

 不意に肩の重みがなくなったと思ったら、突然彼はころんと横になる。
「!?」
 その頭は夕鈴の太ももの上。
 びっくりして目を白黒させていると、彼は小犬の顔で見上げてきた。

「ちょっと、このまま眠らせて…」
 そう言いながら、返事を待たずに目を閉じる。
 ドキドキして固まっている間に、彼からは規則正しい寝息が聞こえてきた。

「…え、本当に寝た の……?」
 疲れていたのかしらと、少しだけ幼く見える端正な顔を見つめる。


 この雨がやまないなら、貴方はここにいてくれるの?
 私の、傍に……?

「止まなければ 良いのに…」
 呟いてハッとする。

 何を言ってるんだろう。
 今のは臨時花嫁の言葉じゃない。

 それは願ってはいけないこと、
 望んではいけない夢、


 ――――でも今だけは許してくれるかしら。

 せめて雨が止むまでは、貴方の傍に。


 貴方の隣は私のものに・・・












 @もしも雨がやまなかったらを陛下視点でver.

『止まなければいいのに…』

 彼女の呟きが聞こえた。
 その後の戸惑う気配にも気がついていた。

 同じ気持ちが嬉しいと思いながら、意識は白い世界に落ちていく。
 いい夢が見れそうだと思った―――



 遠くに聞こえる雨音
 愛しい少女が紡ぐ子守唄

 静かな世界

 2人だけの世界


 前髪にそっと触れる指先
 彼女は微笑ったのだろうか


 浅い眠りを繰り返しながら、やさしさとあたたかさに触れて


 この雨が止まなければいいと願った。












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お詫びも兼ねて、朝と夜にアップです。
最近の得意技はフェイント更新です(違)

前回の『もしも夜が明けなかったら』と対のつもりで書きました。
これだけは夕鈴視点です。
想いは自覚しているのか微妙な辺り。
冒頭の言葉だけが先に出来上がって、そうしたら何故か膝枕になりました(笑)
ちょうど今日は雨だったので、気分的に書きやすかったです。

オマケは続きを陛下視点で☆
前髪に触れて欲しかっただけです。
夕鈴の子守唄は昔青慎に歌ってたやつだったら良い。

2011.4.27. UP



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