もしもの話五題:【もしも君が消えてしまったら】
      ※「雪に消える」の続きっぽい話…オマケの少し前




 もしも君が消えてしまったら… 僕の心は死ぬだろう。

 君がいない世界で生きていく術が分からない。



 降り積もる雪の中、白い世界に君が消えてしまうと思った。

 僕を見ないその横顔が、遠くを求めているように見えたから。

 君が消えてしまうようで怖かったんだ。







「陛下…」
 彼の腕に閉じ込められて夕鈴は動けずに困る。
「私はもう大丈夫です。」

 そろそろ良いかなと立ち上がろうとしたら、留め置かれるように抱きしめられた。
 それからずっとこのまま。
 どうしてこうなったのかは分からない。

「ダメ。まだ冷たいよ。」
 彼の腕にさらに力がこもる。少し息苦しいくらいに。 

「陛下が冷えちゃいます。」
「良い。夕鈴はあたたかいから。」

「それって矛盾してませんか!?」
「うん…」

「陛下?」
 様子がおかしいと思って、少しだけ身動いで彼を見上げる。
 きっとしょぼんとした小犬なのだろうと思っていたけれど、そのどちらでもない曖昧な
 表情だった。
「ごめん、もう少しだけ…」
 顔を隠すように、縋るように彼は夕鈴を抱き寄せる。

「消えないで…」

 その声があまりに頼りない気がして…


 ―――離れるタイミングを忘れてしまった。












 @もしも君が消えてしまったら(ずっとずっと未来のお話、死にネタ注意報!)


 遠くで笑い声が聞こえる。

 愛しい愛しい君の声

 …やっと迎えに来てくれたんだね。



『先に行って待っています。』
 枕元で縋る僕に彼女は笑ってそう告げた。

『でも、すぐに追いかけてきたら追い返しますからね。』
 僕にとっても厳しい君は、最期まで君らしいままだった。


 皺だらけの白い手で僕の頬に触れる。
 その手を掴んですり寄せると、また君は笑った。

『君が消えてしまったら… 僕は生きていけないよ……』
 弱った顔で言えば、君はいつも僕の我が儘を聴いてくれたけれど。
 君はその願いだけは叶えられないと首を横に振る。


『大丈夫、少しだけのお別れです。私は貴方の傍にいますよ。それが最初の約束ですか
 ら。』

 幸せでしたと彼女は言って、笑顔のままで静かに目を閉じた。








 それから季節が一回りした。

 こんな穏やかな晴れた日、君がいなくなったのと同じ。
 僕は窓の向こうの青い空を見つめる。


 君がいないと世界に穴が開いたようだった。
 色が消えて美しいものが見えなくなって。

 どれだけ時が経っても君への想いは冷めることなく、君だけを愛し続けた。
 手放さなくて本当に良かったと思う。

 …僕も君がいて幸せだった。


 身体が重く感じる。
 目を開けているのすら億劫になって、ゆっくりと瞳を閉じた。


「父上…ッ」
「お父様!?」
 枕元で口々に僕を呼ぶ。
 2人で愛した子ども達は皆立派に育った。
 なんて誇らしいことだろう。


 その向こうに光を感じた。
 愛しい声が笑いながら僕を呼ぶ。



『おかえりなさい、陛下』


 彼女が微笑んで手を伸ばし、僕は君を抱きしめた。


 ――――ただいま、夕鈴。












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陛下視点にすると死にネタしか出てこなくて焦りました…
なので、急遽夕鈴視点で。しかも「君に消える」の続きな感じ。
弱ってる陛下を書きたかったようです。

オマケは思いっきり死にネタになってますけど…でも不幸ではないものを。
ずっとずっと未来の話。無事に添い遂げた2人を書いてみました。
おじいちゃんおばあちゃんになってもラブラブであればいいと思います。
小説だから気になりませんが、漫画にしたらおじいちゃんとおばあちゃんの話ですネ。

オマケを家出編(仮称)の話にしようとしたら、メイン差し置いての話になりかけたので没。
浩大と李順さんの話でした。

2011.4.29. UP



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