もしもの話五題:【もしも明日世界が終わるとしたら】




 もしも世界が終わるとしたら、僕は――――…


「もしも、ね… だったら自分の好きなようにしたいな。」
 他愛もない会話の流れでもしもの話になった。
 たまたま今日は侍女達とそんな話をしていたらしい。

「最後くらい、自分の意志を通しても良いだろう?」
 狼の顔で薄く笑うと、夕鈴は珍しく呆れ顔で見返してきた。
「いつも通している気がしますが…」
 心外だなと思う。
「王なんて我慢ばかりだ。」
「?」
 怪訝な顔をする彼女は僕の言葉を信じていないのだろう。


 王は全てを持ち、王に手に入らないものはない。
 それは真実ではある。しかし全てではない。

 本当に手に入れたいものは、この手からこぼれ落ちる運命にあるのだから…


「陛下は何を我慢していらっしゃるんですか?」

 無邪気な問いは時に残酷だ。
 君がそれを聞くのかと、言いたくなる。
 …言わないけれど。

「何だと思う?」

 飲み込んだ言葉の代わりに問いかける。

 戯れの言葉遊びのような問い。
 笑うことで誤魔化して、己の気持ちを裏に隠した。

「分かりません。」
 からかわないでと怒って、彼女はふいっと顔を背ける。

 その横顔さえも愛しく思う。
 けれど、見つめる瞳の奥の熱に彼女が気づくことはない。


 君はいずれいなくなる。
 望むものは手に入らない。

 力尽くで手に入れようとすれば、君の心を失ってしまう。
 私が欲しいのは、君の心ごと全て。


 だから願う。有り得ない夢を。


 ―――もしも明日世界が終わるとしたら、

 僕は王であるよりも君の傍を選びたいと願う。
 …真面目な君はきっと怒るだろうけどね。













 @もしも明日世界が終わるとしたら(夕鈴ver.)

 明日世界が終わるとしたら… 私は何を望むだろう?


 陛下は自分の好きなようにしたいと言った。
 それが何なのかは言ってくれなかったけれど。


 私なら―――…

 みんなと過ごしたいと思う。
 大切な家族と、友人と。最後まで一緒にいたい。

 ……もし良いと言ってくれたなら、陛下も一緒が良いな。
 なんて、馬鹿なことまで思ってみたり。

 あの人は好きなようにしたいと言ったから無理かしら?
 まあ、"もしも"だし良いわよね。


 李順さん、最後の日くらい怒らないでね。
 柳方淵とも喧嘩はしたくないわ。
 浩大は最後まで何か食べてそうね。
 老師はきっと、最後まで元気だと思うわ。
 紅珠は泣くかしら? だったら慰めてあげないと。
 青慎も一緒に。あの子は優しいから、きっと紅珠も笑ってくれるわ。

 みんなみんな一緒が良い。

 几鍔は入れてあげないの。陛下と喧嘩しちゃうから。
 でも、喧嘩しないなら良いかしら。



 …1人は嫌だわ。寂しいもの。
 それだけは絶対嫌。












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もし予言者が現れてそう言っても、陛下は信じなさそうな気がしますが。
で、考えてみたら結局夕鈴なんだなと思います。
陛下が好きなようにしちゃったら夕鈴が大変ですね。
受け入れられるかなぁ… それ以前に受け取れるかどうかですか。

オマケは夕鈴にも同じお題を考えてもらいました。
微妙にかみ合っていない2人希望。
陛下は夕鈴以外はどうでも良くて、夕鈴はみんな大切で。
陛下はそんな夕鈴がもどかしいけど愛しいんですよ。
と、夢見てみました。もしもだから良いよね!?

―――と、"もしも"なので、今回のお題はどれも好き放題に遊んでみました。
何を思ったか全てのお題で2つ話を作っていたり。
1つでもお気に召したものがあれば幸いです。お付き合いありがとうございました。

2011.4.30. UP



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