1日目:氾紅珠編




「お妃様、お妃様っ」
「どうしたの? 紅珠。」
 私が呼ぶと、お妃様はにっこりと笑い返してくださる。
 それが嬉しくて、だから何か見つける度にお妃様を呼んでいた。


 ―――お妃様が私の私邸に遊びにいらしてから数日。

 朝から夜までずっとお妃様と一緒だなんて、なんて夢のような日々。
 毎日が楽しくて仕方がなくて、朝一番にお妃様に会いに行くほど。


 お妃様は、お優しくて強くて…とても素敵な方。
 いつも私の話を笑顔で聞いてくださって、なのに毅然として陛下から私を庇ってくださっ
 たり。

 お妃様は私にとって理想の――― "お姉様"なのですわ。



「お妃様のようなお姉様が欲しかったと思います。そうすれば毎日がとても楽しいのにと。」
 今はずっと一緒にいられるけれど、お妃様が後宮に戻られればさすがに毎日は会えない。
 お妃様が本当のお姉様ならずっと一緒にいられるのに。
「あら、でも貴女には水月さんのような素敵なお兄さんがいらっしゃるじゃない。」
「確かに兄様はとてもお優しいですけれど… 男兄弟とはまた違うのですわ。」

 ああ、でも誰でも良いわけではない。お妃様が良い。
 どうすれば毎日一緒にいられるかしら?

 …後宮入りは、まず陛下がお許しにならないだろうし、お妃様も良い気分ではないでしょ
 うし。
 私も、あの狼陛下のお傍にいられる自信はまだありませんもの。
 だからそれは"無し"ですわ。


「…ああ、そうですわ。兄様とお妃様が結婚なさればお妃様が本当のお姉様になりますわ
 ね……」
「え、ちょっと、紅珠っ?」
 ちょっと漏れてしまった本音にお妃様が慌てた声を出す。
「ふふ。冗談ですわ。お妃様と陛下の愛の絆は誰にも邪魔できませんもの。」

 こちらへ滞在しているお妃様にもその愛の証にたくさんの花を贈られた陛下。
 何があっても陛下の寵愛はお妃様だけのもの。


「あ、愛の…」
「あら、どうかされましたか?」
「いえ…」
 真っ赤になられて、扇で顔を隠されてしまわれた。

(何か思い出されたのかしら?)
 お妃様にはたくさんの愛の言葉を囁かれる陛下のことだから、思い起こすことがあったの
 かもしれない。


 ―――仲睦まじいお妃様と陛下。
 少し残念ですけれど、邪魔をする気はありませんわ。




2011.11.1. UP



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紅珠の私邸に滞在中の話でした。(5巻)
彼女は完全に夕鈴>陛下な気がします。お父さん泣くよ(笑)



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