3日目:柳方淵編




「―――…の、方淵殿ッ」

「!?」
 ハッとして目を開けると、誰かが自分を見下ろしていた。
「大丈夫ですか?」
 ぼやけた視界が次第にはっきりする。
 そしてそれが"妃"だと分かると、自然と眉間に皺が寄るのが分かった。

「……何故、貴女が」
 身を起こそうとして目眩を起こす。
 すぐに彼女の手が額に添えられて、再び身体は横たえられた。まだ起きるなということら
 しい。
「それはこちらのセリフです。書庫を覗いたら貴方が倒れていて驚きました。」

 朝から少し調子が悪かったのだが、どうやら自分は倒れて気を失ってしまったようだ。
 自己管理を怠った自分が悪いのは分かっている。しかしそれをよりによって彼女に見られ
 るとは。なんたる不覚。

 足の先に転がった書簡が見える。自分が寝ているのは床だ。
 だが背中から上は浮いていて、頭は床より柔らかいもの上に乗っていた。
 …それが何であるかはあまり考えたくはない。

「こんなところでごめんなさい。私の力では貴方を運べなくて。」
「…いい。むしろ放っておいてくれ。」
 できれば今すぐに、自分を床に落としていなくなってもらいたい。
 ―――他の誰かが来る前に。
「何を言って…」
「……貴方に、借りを作りたくはない。」

 それが1番適当な言葉だと思った。
 後はいつものように怒りをぶつけてくれればいい。
 そちらの方が気が楽だ。

「…では、離宮で運んでいただいた借りを返したことでゼロです。それで良いですか。」
 意外にも彼女は怒ったりはしなかった。
 …もちろん、機嫌はあまりよくなさそうな顔をしていたが。

「――――…」
 方淵が何も返さずにいると、納得したと思われたのか 彼女はふと表情を弛めた。


 決して自分の優位に持っていこうとはしない。
 その誠実さは好ましい。

 それはいつか、命取りになるかもしれないが。
 それを失ったら彼女ではなくなるかもしれないと思う自分も確かにいて。


 王の花としてはまだまだ未熟。
 自分の立場をまだよく理解していないし、"王の寵妃"の影響力というものも自覚していな
 い。

 ―――だが、己の欲ではなく陛下のために仕えているという思いが本物であること、意外
 と根性があることは認めてやっても良い。



「…もう大丈夫だ。」
 今度は起き上がることができて、頭を軽く振ってみたが何ともないようだった。

「礼は言わない。」
「ええ、結構です。借りを返しただけですから。」

 方淵が立つと彼女も追いかけるようにして立ち上がる。
 さっきまでのことはなかったかのように、互いに何も言わず背を向けた。




2011.11.1. UP



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珍しくケンカしていない2人です。
どっちも真っ直ぐ過ぎて相容れない感じかな?と。
この2人を考えると、たいてい書庫とか栄養剤ネタです(笑)


↓以下妄想(雑誌ネタバレ有の為反転)(ほぼ妄想ですが)

方淵ってやたら夕鈴にきつく当たるんですけど、自分の環境と重ねてたりもするのかなぁとか。
たとえば兄は正妻の子で、自分は妾の子とかだった場合。
寵愛は幻だとか言ってるから、自分の母親は寵愛を失って捨てられたのかなとか。で、男の子
だったから自分だけ引き取られたとか。
正妻に虐め抜かれて病死とかも有りか。兄は馬鹿だから父は自分を買ってくれてるけど、正妻
はそれを快く思ってないとか。
あんな馬鹿息子が育つんだから、正妻は兄を甘やかして育ててんじゃないかな。
かといって父も方淵に優しいわけではなくて、優秀だから目をかけてるけど、いつ切り捨てて
もいいと思われてるとか。
まあ、同じ母親でも長男だけ目をかけて次男は放っとかれだったりとかというのもあるけど。
兄が馬鹿に育つのを見て、自分はああなりたくないなと思ってあんなんになったとか(笑)
そういえば方淵は「臨時補佐官」なんですよね。何故臨時が付くんだろう… そこも謎です。




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