未来夫婦編
    愛情不足と嫁の怒り
    ※「愛情不足の解消法」と少しリンクしてます。




「ゆーりん」
「はい? 何ですか?」

 む。

 それは望んだ反応ではなくて、黎翔は不機嫌に眉を寄せる。

「ゆーりん。」
「だから、何ですか 陛下。」

 むむっ

 2度目も同じだ。今度は口を尖らせる。

「夕鈴ってば!」
「だからっ ちゃんと聞こえてます!」

 今度は望んだものだった。
 不機嫌から一転してぱっと笑顔に変える。

「やっとこっち向いてくれた。」
「へ?」
「さっきから凛翔の方ばかり見てるから。」

 それがつまらなくて面白くなかった。
 だから、どうしても振り向かせたかったのだ。

「…お乳やってるんですから、そんなの当たり前じゃないですか。」
 黎翔の言い分に夕鈴は呆れ返る。
 彼女には、隣にいながら相手にしてもらえない黎翔の気持ちなど分からないのだ。

「ぅ」
「―――あら、もう良いの?」
 口を離したことに気づいた夕鈴の視線は再び凛翔へ戻ってしまった。
 手早く服を着て、凛翔の背中を叩くとゲップをさせる。
「はい、良くできました。」
 そうしてにっこりと笑顔を向けるのも我が子に対して。
 ―――その間、黎翔は当然ほったらかしだ。

 むぅ。


「―――――」
 唐突に凛翔を夕鈴から引き剥がして寝台に寝かせる。
「!? ちょ、」
 何してるんですかと怒鳴られる前に、夕鈴をぎゅうと抱きしめた。

 夕鈴は柔らかくてあたたかい。とてもいい匂いがする。
 触れていると、いつもとっても安心した気分になれた。

「夕鈴は僕の。」
 全身が満たされる感じがして、深く深く息を吐く。
 …けれど、腕の中の夕鈴はそうそう大人しくはしていなかった。
「何言ってんですかっ 離してください!」
「嫌だ。」
「嫌だじゃありませんっ」
 夕鈴は押し返そうとし、黎翔はそれを許さずさらに抱き込む。
 この手を離したらまた凛翔にとられてしまう。それは嫌だった。


「…ぅ、ああああん」
 母親と引き離されたのが不安だったのか、2人の大きな声に驚いたのか。
 頭に響くほどの大音量で凛翔が泣き出した。
「ああっ 凛翔が泣き出したじゃないですか!」
 だから離してくださいと、夕鈴の力は強くなる。

 むむーっ

 どうしても夕鈴は離れようとする。
 非常に面白くない。



「華南!」
「―――はい。お呼びでしょうか。」
 黎翔が呼ぶと彼女はすぐにやってくる。
 常に彼女が隣室に控えて様子を見ているのは知っていた。
「凛翔をしばらく頼む。」

「…あらあら。」
 きょとんとした後に華南は苦笑い、2人の横を通り抜けて泣き叫ぶ凛翔を抱き上げる。
「お母様をお父様にとられてしまったのですね。」
 そうして彼女が軽くあやすとあっという間に凛翔は泣き止んだ。

「しばらく戻ってこなくて良い。」
「承知致しました。」
 華南は仕方がないといった風に笑った後で頭を下げる。
 彼女は夕鈴と違ってその辺りの察しは良い方だった。


「〜〜〜ッッ いー加減にしてくださいっ!」
 腕の中から叫ばれてさすがに少し驚く。
 その拍子に僅かに力が緩んで、彼女に突き飛ばされてしまった。

「ゆ」
 再び伸ばした手は虚しく空を切る。
 すばしっこい兎は黎翔の手の1歩外でギッと睨んできた。

「邪魔するなら出てってください!! しばらく来なくても結構です!!!」
「ゆ、ゆーりん!?」



 ―――出入り禁止に耐えられるわけもなく、即座に謝ったのは言うまでもない。




2012.5.2. UP



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本気で怒鳴られたというあのネタです。ほのぼのギャグって感じで☆
てゆーか、大人げなさ過ぎるよ 陛下(苦笑)



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