内緒の恋人編
    星さえも知らない
    ※Rは15くらいです。たぶん。




 下に落ちていた夜着を拾い上げて身に纏う。
 寝台からそろりと抜け出して、夕鈴は少し離れた窓際に寄った。


 そうして音を立てないように窓を開け放つ。


 ―――今夜は珍しく、夕鈴の方が目が覚めてしまった。
 彼はまだ寝台で深い眠りに落ちている。これもまた珍しいこと。


「―――――…」
 傍に置いてあった椅子に腰掛けて、窓枠に頬杖をついて夜空を眺める。
 月はとうに沈んだらしい。今夜は暗い星までよく見えた。

 特に何を考えたわけでもなく。ただ、瞬く星の一つ一つを目で追う。
 今夜は星は流れないのかと思いながら。






「―――ここにいたのか。」
 すぐ傍で声がして、後ろからふわりと抱きしめられた。
「帰ってしまったかと思った。」
「どこにですか?」
 ここは私の部屋なのにとクスリと笑う。

 そもそもどこに行こうというのか。
 夕鈴はこの人の傍にいたいと願い、ここにいるのに。

「…君は捕まえたつもりでも、すぐにこの手をすり抜けて、どこかへ飛んでいってしまう
 から。」
「私、そんなにフラフラしてませんよ。」
 心外だとふくれる。
 抗議のつもりで思いっきり身体を預けてやったけれど、彼はそれを難なく受け止めて深く
 抱き込んだ。

「そうか? 今もこうして抜け出している。」
 …確かに。抱かれた腕の中から抜け出したのは夕鈴だ。
 けれど、離れたいと願ったわけでもそう思ったわけでもない。
「こ、これは熱を冷ましてただけですッ」
「…冷ます?」
 慌てて答えた夕鈴の言葉に、途端にひやりと声が冷える。

「―――その必要はないだろう?」
 狼が、そこにはいた。

「っ ゃん」
 襟の隙間から滑り込んだ手が乳房をやわやわと揉みだし、指先が戯れに先を摘む。
 落ち着いたはずの熱は一気に上がり、熱い吐息が嬌声と共に零れた。

「や…っ」
 明確な意志を持ったもう一方の手が太股を撫で内側に入り込む。
 押し留めようとするけれど、思うように力が入らなかった。

「ぃ、や…ッん」
 視界が滲む。身体は正直に反応を示している。
 それでも、途切れ途切れに言葉だけは拒もうとしていて。

「何が嫌なんだ?」
 耳に注がれる艶声にぞくりと身が震える。

 狼陛下の、甘い声。
 頭の奥まで痺れ、溶かされてしまう。

 ……負けを悟った。



「…っ …ここじゃ、イヤ、です……」
 言えたのは、もうそれだけ。

「―――ああ。」
 耳元で笑った彼の吐息に触れて、ますます熱は上がる。


 そうしてぱたんと 彼の手で窓が閉められた。




 ―――その後のことは、星さえも知らない。




2012.5.2. UP



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本サイトのエロ担当です(笑) 今回は軽めですが。
微妙に陛下の不安定さも混ぜつつ、いつも通りの展開な感じで。



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