仲が良いのか悪いのかと聞かれれば、互いに「良くはない」と答える。 それが黎翔と几鍔の関係だ。 3人一緒なのは間に夕鈴がいるから。 他に理由はない。 「別に、付いてこなくても良かったのに。」 いつものように後ろを歩く2人をふり返り、夕鈴は不思議がっていつもの言葉を紡ぐ。 今日は隣のおばさんに頼まれて、お使いで隣の区まで出かけていた。 その用事はあっさり済んで、ついでにぶらぶらしながら戻っているところだ。 「迷子になったら探すのが面倒だからな。」 「どーゆー意味よッ」 子どもじゃないわよと、夕鈴は几鍔に怒鳴り返す。 「僕は夕鈴と一緒ならどこにでも。」 「…何それ。」 黎翔に対しては呆れた顔で。 2人の気持ちは微塵も彼女には通じていない。 それもこの3人の関係が変わらない理由だ。 ―――彼女が変わらないから、黎翔も几鍔も変われない。 「2人とも、そんなに暇な……ッ」 言いかけた彼女の身体が不意に後ろに傾く。 余所見して歩いていたから段差に気づかなかったらしい。 「「夕鈴!」」 2人の手が伸びたのは同時だった。 「ご、ごめん…ありがと」 黎翔と几鍔からそれぞれ脇を抱えられ、夕鈴はバツが悪そうな顔をする。 2人のおかげで転ぶこともなく、足が中途半端に浮いた状態で夕鈴は止まっていた。 「…ったく、この ドジ。」 「う…」 さすがに今回は夕鈴も反論できない。 「でも、怪我がなくて良かった。」 「ほんとにゴメン…」 彼女の足がしっかり地に着いたのを確認してから、2人は同時に手を離した。 「―――やっぱりアンタ達仲良いのね。」 また1歩前に出た夕鈴がそう言って無邪気に笑う。 「さっきの、息ぴったりだったわ。」 声もタイミングも。 夕鈴がちょっと羨ましいと思うくらいだったと。 「冗談じゃねー」 「僕からもお断りだよ。」 几鍔は仏頂面で、黎翔は笑顔で。またも同じタイミングで、2人同時にぶった切る。 「ほんっと素直じゃないんだから。」 それも、夕鈴から見れば仲良く見えるらしい。 呆れたように肩を竦めて言うと彼女は背を向けた。 「…だってさ。」 「お前が言うな。」 良いか悪いかと聞かれれば、仲は良くない。 ―――でも、夕鈴が望むから。3人の関係はそのまま。 2012.5.2. UP --------------------------------------------------------------------- こんな関係性が大好物なもので。幼馴染ラブv そして気づいていない夕鈴には笑うしかないですね。 気づいたら関係は変わってしまうんでしょうけど。