『もう　終わりにしよう』
 別れを告げたのは僕から。

『そんなにも私は　ここにいちゃダメですか』
 優しい君は泣きながらそう言ってくれたけれど・・・

『忘れてしまえ』
 夢のような日々を切り捨てて、愛しい君を手放した。



「今宵は冷えるな・・・」
 部屋着に上着を軽く羽織って庭に降りる。
 肌を刺すような空気を無視して夜空を見上げた。

 雲一つない澄んだ空に輝く満月。
 かつて彼女と眺めたそれを、今宵は一人で眺める。
 あの時はあたたかい色に見えたはずのそれは、今はとても冷たい色に見えた。

「君は、今何をしている・・・？」
 弟くんと楽しく暖かい夕食を囲んでいる？
 疲れてもう眠っている？

 ―――それとも、同じ月を眺めている？

 未練がましい自分の思考に苦笑いした。


『忘れてしまえ』
 そう言ったのは自分。

 ここでのことは悪い夢、ここでのことなど・・・嫌われ者の男のことなど忘れて幸せに
 なって欲しい。
 そう思う気持ちも本物だ。
 彼女に闇は似合わない。彼女に自分は相応しくない。
 自分に何度も言い聞かせて、身を切る思いでこの手を離した。

「君は忘れてしまってもいいよ。」
 他の誰かにあの笑顔を向けるのだとしても。
 それが想像しただけで吐き気がするようなことだとしても。
 君が幸せになれるのなら、それでいい。
「・・・でも、僕は覚えていていいかな。」
 僕に向けてくれた笑顔を、忘れなくてもいいかな。

 きっと君以外は愛せない。
 君を失って、あんなに満ち足りた日々は二度と戻らない。

「だから、覚えていてもいい？」

 胸の奥の奥に閉じ込めて、誰にも知られないようにするから。
 これからずっと闇の中を歩いていく僕の、たった一つの光にしてもいい？

 ねえ、いいよね？
 もう二度と会うことはない、愛しい愛しい僕の花嫁―――




2015.3.14. UP



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↓当時のコメントより

本当は、安室奈美恵ちゃんの『Love Story』と悩んだんですけど。
これ、２番の歌詞が陛下だなぁっていつも思ってたので。こっち採用。
どちらの歌も大好きですよ！

それでは、可歌先生曰く「離婚編」の陛下視点です。どうぞ！