とある女官の独り言




 私が、この後宮唯一のお妃様の部屋付の女官になってずいぶん経ちました。
 お妃様がいらっしゃる前に後宮では大幅な人事異動が行われ、お傍に仕える女官にはお妃
 様のお歳に近い 若い女性が多く集められました。
 私は畏れ多くもその中でもお妃様に近い部屋付を任され、その身に恥じぬようにと毎日精
 一杯お世話をさせていただいております。



 初めてお妃様にお会いした時、なんて可愛らしい方なのだろうと思いました。
 傾国を謳われるような華やかな美人というわけではないけれど、控えめに咲く可憐な花の
 ような可愛らしさを持つ方でした。
 どんな縁談も断り続けてきた陛下が何処からか連れてきたという寵妃。
 先輩女官からどんなわがまま姫が来るのかと脅されていたので、お会いして、その意外さ
 に驚きました。

 本当にお優しい方です。
 私共女官だけでなく、下女も気にかけられ、お礼や労りの声をかけられます。
 どんなわがままも贅沢も許される寵妃という立場におられるのに、陛下が華美な生活を好
 まれないからとご自分も控えめに過ごされています。
 私共としては少々物足りないのですが… その控えめさもお妃様の美徳と言えましょう。


 お妃様が何処のお生まれなのか、誰も知りません。
 女官仲間の噂では、陛下が外へ出られた際に、何処かの深窓の姫君を見初めて連れ去って
 こられたとか。
「王宮のことはよく分からなくて…」と、恥ずかしげにおっしゃられたこともあるので、
 本当に世間から隔離されてお暮らしになられていたのだと思います。
 今は度々後宮管理人の張老師をお尋ねになり、お勉強をなさっているとのこと。
 その姿勢もご立派だと思います。


 陛下はその全てを愛おしいと思っておられるのでしょう。

『夕鈴』
 いつもは厳しい陛下も、お妃様の前では優しい顔を見せてくださいます。
『お、お帰りなさいませ…』
 抱き上げられ、恥ずかしげに顔を伏せられる姿は陛下でなくても庇護欲をかき立てられま
 す。

 ああ、なんて可愛らしいのでしょう。

 陛下が耳元で何か囁かれると、お妃様のお顔がさらに赤くなられました。
 何をおっしゃられたのか気になりますが、知ることはできません。
 すぐに陛下は片手で合図をされ、私共に退出を命じられます。
 残念ですが仕方なく去りましょう。
 後はお2人で甘い時間を過ごされるのでしょうし。邪魔はできません。


 お妃様はとても素晴らしい方です。
 私はお妃様にお仕えできることを心より誇りに思っております。









*******

-オマケ-

「…ちょっと、夢見すぎじゃないかしら。」
「実体はただの庶民出バイトなんですがね。」
「それに張老師の所に行ってるわけじゃなくて、後宮立入禁止区域の清掃をしているだけ
 ですしね。」
「女性の想像力というのは逞しいと思いますよ。」

「…てか、連れ去るって、なんか僕悪い人みたいじゃない?」
「狼陛下のイメージなら仕方ないんじゃないですか?」
「そうかなー」

「こっちはそれを延々聞かされたんですよ。査定のつもりが大幅に時間を食ってしまいま
 した。」
「律儀に書き残すお前も真面目だな。」
「何処に重要な話が紛れているか分かりませんからね。結局紙の無駄遣いでしたが。」


「…でも、噂も侮れない部分もある。」
「どこですか?」
「―――私は君の全てを愛おしいと思っている。」
「!? い、いきなり演技を入れないで下さい!(真っ赤)」
「本当のことを言っただけなのに。」
「設定通りということでしょう。普通に言って下さいよ。」
「ごめんごめん(ちょっと残念そうに)」
「全くもう。油断も隙もないんですから。」










2011.1.2. UP



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今回はギャグです。
夕鈴に盲信してる女官の話。李順さんの査定から浮かびました☆
侍女でも良かったんですけど、語呂的に。

狼陛下の世界って侍女と女官の違いってあるのかな−?
本来女官は王宮で働いている女性、つまり雇い主は国王陛下。
対して侍女は個人に仕えている女性のことで、雇い主は妃本人。
夕鈴に侍女雇えるはずがないので、侍女は李順さんが選んだのかな?

オマケも、ただ何も考えずに書きたかっただけです。




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