国王一家観察日記
      ※ 540000Hitリクエスト。キリ番ゲッター雪様に捧げます。
      ※ ちなみに2人が結婚してる前提の未来話です。で、今回は碧家の話です。




 凛翔と鈴花の乳母を務める華南の家―――碧家は、すこぶる家族の仲が良い。

 家族全員が王宮勤めのため 最近は滅多に揃うことはないが、できる限り一緒に食事の時
 間をとるようにしている。


 そしてそれは、珍しく全員が揃った夕食でのことだった。
 碧家の大黒柱である父が、ふとした疑問を家族に投げかけたのだ。



「お前達から見て、陛下やお后様達はどう見えてるんだ?」

『??』
 質問の意図が分からなくて、全員が不思議そうな顔をする。
 何かと話題に上ることが多いが、そんなに変な話をした覚えはなかったからだ。

「何か失礼なことでも?」
 華南が心配して問うと、彼はそうではないと首を振る。
「ああ、いや。私が普段見ている姿と、お前達が話す姿がどうも噛み合わなくてな。」
 父が補足説明をすると、今度は全員が「ああ」と納得した顔になった。

 武官である父は後宮とは縁は薄いが、華南が乳母を務めている関係で子ども達は小さい頃
 から後宮に出入りしている。星風や香月に至っては一緒に育ったようなものだ。
 後宮は国王一家の裏の顔―――素を見られる場所だが、彼らはそれを当たり前に見て育っ
 たのだ。
 父と彼らとの間に認識の違いが出るのは当然のことだった。


「―――確かに違いますね。」
 何かを思い出すようにしていた雪陽が最初に頷く。
「後宮の外では"見せる"ための演技の部分もありますから。」
「んー 太子はあんま変わんないけど。公主のアレは詐欺レベルだろ。」
 すると星風がそれを継いで付け加えた。
「…まあ、お淑やかな姫君は回廊の手摺りを飛び越えたりはしないな。」
 さらにそう言ったのは春空で、それには母の華南が鋭く反応を示す。
「春空、それはいつの話?」
「一昨日ですね。たまたま見ていたのが俺だったから良かったものの、他の奴らだったら
 泣きますよ。」
 春空は慣れているから呆れただけだが、あのお転婆ぶりは公主に夢見る他の男共には見せ
 られない。
 外での鈴花公主は、嫋やかで優しく お淑やかな姫君で通しているのだ。
「貴方だけだったから、でしょうけど。―――もちろん注意はしたわね?」
 母は当然と言わんばかりの視線で問う。
 もし注意していなかったら春空の方が説教を受ける勢いだ。
 華南は躾に厳しく、その部分は自分の子ども達も太子と公主も同じ。乳母だからこそ、絶
 対に甘やかしたりしなかった。
「はい。懇々切々と言っておきました。宰相殿の所へ向かう途中だったようなので、そこ
 でもお願いしました。」
 "彼"からも話があったなら、公主にも響いているだろう。
 ならば良いと一つ頷き、華南は次に娘の方を向いた。
「香月は何をしていたの?」
「用事を言いつかって太子の所にいました。私が居れば、そんなこと決してさせませんも
 の。」
 しっかり者の末娘は公主の侍女であり親友でもある。
 そのため、他の侍女達のように遠慮はしない。
 その場にいなかったとのことで、香月にもお咎めはなかった。

「あの長い裾でよくあそこまで動けるなと感心します。」
「お后様の行動力と陛下の身体能力を受け継いだ故かしらね…」
 そうして華南から最後に漏れたのは苦笑いだった。
 できないなら無茶はしないのだろうが、できてしまうから厄介なのだ。


「てかさー 公主の演技力はマジすげーと思う。本性と噂じゃ全然違うもんな。」
「あら、鈴花様が楽に興味を持たれているのは本当よ。今日は琵琶を演奏していらっしゃっ
 たのだけど、本当に美しい調べだったわ。」
 何だかんだで公主が大好きな香月は、その光景を思い出しながらうっとりと言う。
 事実、公主の楽の才能は周りも認めるところだ。
 しかも美人なので、何をしても絵になる。
「それでも暴れん坊には違いないだろ。可愛い子好みのオレには無理。」
 けれど星風は一蹴して、どんなに美人でも恋愛対象外だときっぱり言い切った。
「兄様如きじゃ、私が認めないわ。」
「別に認めてもらわなくて良いもんねー」
 さらっと毒舌で返す妹に、星風も負けていない。
 年が六つも離れている割に下二人の会話は同レベル。そして周りはそれを笑って見ている
 だけだ。

「…可愛い系が好みなら、お前の理想はお后様なのか?」
 微笑ましい口喧嘩を止めるつもりもなく、父親が言ったのは率直な感想のようなものだっ
 た。 
 宴や公式の行事以外の普段のお妃様は、今でも可愛らしいという表現が似合うともっぱら
 の評判だ。
 それを踏まえて冗談半分で言ったに過ぎない。

「ちょ、父さんそれ冗談でも止めて! オレはまだ死にたくない!」
 しかし それを聞いた息子が突然青い顔になって慌て出す。
「そんなん聞かれたら陛下に殺される!!」
「は?」
 父は怪訝な顔をするが、星風はふざけているわけでもなく本気で言っているらしい。
 さらには何かを探して辺りをきょろきょろと見渡し始める始末だ。
「そこまで慌てるものか?」

「―――陛下は愛妻家ですものね。」
 挙動不審の星風の代わりに華南がふふっと笑って疑問に答えた。
「…私よりもか?」
「あら、貴方には敵いませんわ。」
 夫の視線に応えて、華南はにっこりと微笑む。
 碧家夫婦の仲の良さも、国王夫妻に劣らないと巷では有名だ。
「私はお前が一番だ。」
「私もですわ。」
 武人らしい見た目に反したスマートな口説き文句に対して、妻の方も乙女のような笑みを
 絶やさない。
 周りで子ども達が見ているのも二人は全く気にしていなかった。

「はいはい、そこまでにしてください。話が進みませんから。」
 見つめ合ったままの夫婦の相手も慣れたもので、代表して雪陽がすっぱり切る。
 それもまたいつものことなので、夫婦も二人の世界からすぐに戻ってきた。

「お后様とお前がどうこうなるわけではないだろう? 陛下がそこまでなさるとは思えない
 んだが。」
「いや、マジで怖いんだって。オレは小さい頃から太子達と一緒だけど、お后様がオレに
 微笑まれただけで絶対零度の空気が背後からさー…」
 思い出したのか星風が肩を抱きつつブルッと震える。
「俺もあるなー」
「私にも経験あります。」
 兄2人も星風に同意して、神妙な顔で首を縦に振った。

「仲がよろしいのは分かるが…」
 息子達の反応を見ながらも彼にはいまいち実感が湧かない。
 お后様が妃として後宮に入られた頃からお二人の仲はそれはそれは有名で、今でもそれは
 全く変わっていない。
 しかし、それが子どもにまで嫉妬されるというのは彼にはどうも想像がつかなかった。

「後宮ではもうちょっと違うよ。構ってくれないと陛下が拗ねたりとか、お后様が恥ずか
 しがって叫んで暴れたりとか。」
「想像ができないんだが…」
「うん、無理だと思う。」
 それが普通だと星風はあっさり頷く。他の面々も似たり寄ったりな反応だ。

 外では今だ臣下を恐れさせる狼陛下だ。
 まず、あの陛下が"拗ねる"ということから知らない者には理解を超える。
 そしてお后様が叫ぶというのもあまり想像ができない。
 突然抱き上げられて驚いたりなさることはあるが、叫んで暴れるというのは見たことがな
 いからだ。

 理解に苦しんでいる父を余所に、彼らの話はまだまだ続く。


「しかもあれ、どっちもほとんど素だっていうからビックリだよ。」
 お后様は長い間狼陛下を演技だと思っていたらしいが、一部を除けばどちらも素だという
 のが本当だ。
 もちろん今も後宮以外では狼陛下の部分しか見せていない。しかし、碧兄妹はお后様曰く
 の"小犬"も普通に見て知っていた。
「あの辺りは公主が受け継いだんだな。」
「太子は全くないからねー」
 兄妹の容姿の方はほぼ陛下似だが、中身の方は両親を上手に混ぜて分けている。
 そのため、国王夫妻のことをよく知る者達には確実に二人の子だと言われていた。

「じゃあ太子はどちらでもあまり変わらないのか?」
「ええ、私が感じる限りは概ね素のままですね。」
 政務室に出入りする雪陽はどちらの太子もよく知る。
 彼の場合は外でも中でもそう変わりない印象だ。

「…クソ真面目なんだよ。」
 そんな太子のことを、兄貴分兼親友兼悪友である星風は不機嫌そうに吐き捨てた。
「あんなんで人生楽しいのかね。」
 近くで見ている分、見ていて彼には歯痒いらしい。
「星兄様が軽すぎるのよ。あの方の誠実さを少しは見習ったら?」
「…セイジツ、ねぇ。」
 香月の言葉にも頬杖をついて片眉を上げるのみ。
 その表情が納得していないと言っていた。

「それに、あの方も可愛いところがお有りなのよ。」
「は? 可愛いって、あれが!?」
 お前大丈夫かと言わんばかりの声を上げた星風だけではなく、他の兄達も似たような表情
 だ。
 信じられないと、笑顔で言ってのけた末の妹を全員で凝視する。

「あら、香月はそう思うの?」
 その中で、母だけが違う反応を示した。
「ええ。」
「ふふふ、そうなの。」
 香月が頷くと、彼女は納得がいった風に微笑む。

『??』
 不可解な母親の言動に息子達は首を傾げる。
 けれど母はそれ以上は何も言うことなく、ただ笑みを浮かべているだけだった。




2012.12.9. UP



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お題:「碧家から見た国王陛下一家」

碧家の一家団欒のなかで父親から「国王一家の印象」を問われ、母親の華南と子供たちが、
白陽国版「家政婦は見た」的な感じで答える話
というリクエストでした☆

人数が多いので、わいわいがやがや系の会話主体で。
そんなこんなでで碧家オンリーのお話でした、
そしてお初の、碧家の大黒柱 お父様登場。名前が出てませんけど。
碧家って?と思われた方は、→『未来夫婦』← ページへ。下部に説明あります。

雪様、面白いリクエストをありがとうございました☆
碧家はキャラがだいぶ出来上がってるのですんなり書けました〜v
えーと、すみません…「家政婦は見た」の定義をよく分かってないのでこんな形式になりました。
意見・苦情・返品その他は随時お待ちしております〜




・オマケの小話・
※ 碧家が目撃した国王一家のあれこれ


@手摺りを飛び越える公主(春空)

「…?」
 晴れているはずの空に、突然影がかかる。
 不思議に思って春空が見上げると、何かがひらりと頭上を舞っていた。

「碧 春空! それを拾って頂戴!」
 聞き慣れた声が飛んできて、春空は手を伸ばして咄嗟にそれを掴む。
 それは何かが書き記された一枚の紙だった。
「そこにいて!」
 続けて聞こえた声の方を振り返ると、そこには予想通りの公主の姿。
 彼女は周囲を軽く見渡して、回廊の手摺りへと手をかけた。

「…え?」
 そして目に入った光景に春空は目を丸くして声を失くした。

 ―――春色の衣がふわりと舞う。

 軽い音を立ててそれは地面へと舞い降りた。

「ありがとう。」
 何事もなかったかのように彼女は春空の前までやって来て紙を受け取る。
「詩を作ったから添削してもらおうと思って、李順のところに持って行くつもりだったの。
  突然の風に飛ばされてしまったのだけど、貴方がいてくれて助かったわ。」
 再び礼を言う彼女に、自分の行動を自覚しているようには見えない。
「……」
 春空は頭痛を感じるこめかみを押さえて揉み込んだ。

「…"鈴姫"。」
 あえて懐かしい呼び名で呼ぶ。―――怒りを抑えた低い声で。
「何? 春空。」
 まだ自覚していない彼女はコトリと可愛らしく首を傾げている。
 しかしそれに絆されるほど、二人は知らない仲でもない。

「何、危ないことしてるんですかっ!」
 思いきり息を吸い込んでからガツンと怒鳴った。
「あんなところを飛び越えて、裾が引っかかって怪我でもしたらどうするんですか!?」
「あら、大丈夫よ。初めてじゃないし。」
 公主に反省の色はゼロだ。
 確かに後宮ではたまにやってのけているのを見たことがあるが。

「そういう問題ではありません!」
 こうなれば、こちらも本気で説教する必要があるようだ。
 周りに誰もいないのは確認している。遠慮なく言うことに決めた。

「そもそも一人も供を付けていないことからして自覚が足りません。ここは後宮ではない
 のですから―――」

 良い機会だと延々と説教をした後で、宰相殿の部屋まで送り届けた。
 もちろん、先程の出来事の詳しい説明付きだ。

 そんなわけで公主は今度は宰相殿から長いお小言を受けていたが、睨まれたところでそれ
 が当然だと思った。

 どうせ、この姫君は私の話は聞かないのだから。





A子ども相手に本気で嫉妬する陛下(星風)

「おきさきさま、ありがとうございます!」
 もらった甘いお菓子を手に星風はにっこりと笑う。
 するとお后様は同じように微笑み返してくれた。

 星風はお后様が好きだった。
 優しくて、いつも甘い香りがしていて、とても綺麗な人だったから。

「いつも凛翔と遊んでくれてありがとう。」
 細く白い手で星風の頭を撫でてくれる。
 それは少し照れくさくて、でもとても嬉しい。

「これからも凛翔のことをお願いね。」
「は――――― っ!?」
 元気に応えようとして、突然背中がゾクッと冷えた。
 後ろに"何か"いる。


「―――楽しそうだな。」
「陛下。」
 お后様の視線が星風からその後ろへと移る。
 それに気づいていながら、星風は後ろを振り向くことができなかった。

 逃げたいけれど逃げられない。
 後ろから突き刺さるような何かを感じるが、身体が強張って動けなかった。

「…君のその花のような笑顔は私だけのものではないのか?」
 星風の背後から長い腕が伸びてきてお后様の頬を捉える。
 その時ちらりと下を見られたような気がした。…あまりの怖さに泣くかと思った。


「陛下… 子ども相手に大人気ないですわ。」
 呆れた表情でそう言って、お后様は星風の肩をそっと引き寄せる。
 大丈夫と背中を撫でられてちょっと安心した。
「子どもだろうと男だ。」
「ッ」
 底冷えする声に再び震え上がる。
 今は絶対にふり返れない。わりと本気で命の危険を感じていた。
「星風を怖がらせないでください。この子は凛翔の大事なお友達です。」

 温かさと冷たさを交互に与えられる。
 星風はそれに翻弄されて最後まで顔を上げることができなかった。



「…いやぁ、あん時はマジで死ぬかと思ったね。」
 後に星風は、あの出来事は結構なトラウマになったと語った。
 

++++++++++++++++++++++++++++
メモリに余裕があったので、オマケを2つほど☆
てか陛下 大人げなさ過ぎるよ!

※ そういえば、この話で短編100個目なんですよ!(ファイル名がss100.html)
  来訪してくださる皆様のおかげです! ありがとうございます!!
 


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