※『もしも白陽国にバレンタインがあったら』(逆転パロver.)で、遊びました♪ 0.政務室編 「このイベントって何か意味あるの?」 いつもと違う空気に包まれた政務室を眺める夕鈴は若干呆れ気味だ。 宰相の勧めでやってみたものの、彼らがここまで喜ぶ理由がよく分からない。 「官吏達のやる気向上には役立っているので良いのではないですか?」 予算にも組み込んでるので損はないですし、とは李順。 「…あんな簡単な菓子を作るだけでここまで喜ばれるなら楽なものね。」 「手作り…!?」 途端に、部屋中にどよめきが走った。 「ん? 毒は入れてないわ。」 注目を浴びた女王がそう答えると、周りからはそうではなくて、という反応が返ってくる。 そうして彼らの視線は何故か女王の斜め後ろに立つ黎翔へと集まった。 「―――美味しかったですよ。」 彼らの意を汲んだ黎翔がにっこりと笑う。 「甘くて―――… まるで陛下のようでした。」 ノリの良い幾人かはおおっと声を上げて身を乗り出し、素知らぬフリをしていた面々もち らりと窺う様子を見せる。 「お前はいつどうやってもらったんだ?」 「そうですね。まず、味見の際に陛下の手ずから頂きました。」 「……黎翔。」 低い声が恨めしそうに彼の名を呼び、氷の視線で彼をじろりと睨む。 しかし、その頬が僅かに赤く染まっているので効果も半減だ。 いつになく可愛らしい反応に、官吏達に動揺が走った。 事実だと確信して想像してしまったのか赤くなる者もいる。 (……まあ良いか。) それらを他人事で眺めながら、支障がないからと李順は放置した。 ・・・・+・・・・ そんな感じで、以下の水月・方淵・李順・黎翔編に続きます。 ↓↓↓↓ 1.水月編 「陛下、これを。」 水月が差し出したものに夕鈴は首を傾げる。 手のひらに乗るサイズの箱には精緻な彫りが施され、一目で一級品と分かる代物ではある のだけど。 「―――何 これ?」 …ただ、それを差し出される意味が分からない。 「紅珠から親愛なる陛下へ、とのことです。」 「ああ、それなら頂くわ。」 その答えを聞いて全ての疑問は解消された。 今日のことについてはこの前彼女と話していたから、同じことをしてみたかったのだろう。 「そしてこれは私から。紅珠にこれを渡して頂戴。」 「御意。」 元々水月に届けて貰うつもりだったものを交換で渡す。 紅珠からの物に比べたら材料費も比べものにならないけれど、懐拾い氾家息女はその辺り は気にしないだろうから構わない。 「…で、どこに行くのかしら?」 いそいそと踵を返してどこかへ行こうとする彼を引き留める。 「これから紅珠に渡しに参ります。」 胡乱げな視線を向けると、相手はキラキラと爽やかな笑顔で言ってのけた。 悪びれた様子もないのが問題だと思う。 「―――誰がサボる口実にしなさいと言ったのよ。」 仕事しなさいと、夕鈴は彼の仕事が積み上がった場所を指差した。 ・・・・+・・・・ マイペース水月さん。彼のやる気には変化がなかった様子。 2.方淵編 「早く仕事終わらないかな〜」 「食べるのが楽しみだ。」 政務室の面々は、事ある毎に陛下から賜ったお菓子に思いを馳せる。 陛下からという時点で稀有な物だが、更に美味しいとなると期待は膨らむ一方だ。 「一粒一粒大切に食べるんだ〜」 「他の奴らに食べられたりしないようにしないとな。」 「何を考えている!」 いきなりの怒声に彼らはきょとんとする。 何事だと振り返ると、柳方淵がこちらを睨んでいた。 「「…?」」 どうやら今の言葉はこちらに向けられたものらしいが、何のことを言われたのか皆目見当 がつかない。 反応が鈍かったからか、彼はますます眉間の皺を深くして睨んできた。 「陛下から下賜されたものを食べるだと!?」 「え、え??」 「いや、その…」 だってお菓子だろう? お菓子は食べるものだろう? 言われている意味がさっぱり分からず、彼らは更に困惑する。 「あれは厳重に封をした後に保管し、我が家の家宝に―――」 「腐るからちゃんと食べなさい。」 延々と語りそうな勢いに官吏達が引き気味になっている中、女王陛下直々にツッコミが 入ったのだった。 ・・・・+・・・・ 最初は「女が政など…」なんて言ってたのに今やすっかり忠犬。柳家でなければ、ねぇ… 3.李順編 「はい、李順。」 黎翔を入り口に置いて二人で執務室に入ってすぐ。 彼の手のひらにポンと乗せれば、李順は不思議そうにそれを見下ろした。 今彼女が渡したのは官吏達が持っているものと同じ―――お菓子の袋だ。 「…私が貰ってもやる気に変わりはありませんが。」 礼のひとつも返ってくるのかと思えば、微塵も嬉しそうな顔をせずにそんなことを言って くる。 「分かってるわよ。」 とはいえ、その言葉は予想通りだったから夕鈴も気にしない。 李順が物で態度を変えるような男ではないことは重々承知だ。 それくらい夕鈴だって知っている。 どれだけ長い付き合いだと思ってるのか。 「これは日頃の感謝の気持ち。」 同じ意味でさっき宰相にも同じ物を渡した。 相変わらず景気の悪そうな顔で礼を言われて、本当に喜んでくれたのかよく分からなかっ たけれど。 まあ、自己満足だからそれで良いと思う。 「甘味はあんこが一番ですが…」 「〜〜〜ッ 素直に受け取りなさいよッ!」 なおもダメ出しをする李順に、どこの姑だ!と思わず叫んだ。 ・・・・+・・・・ 嬉しくないわけはないのでしょうが、素直に言わない。そんな間柄希望。 4.黎翔編 「…どうしてそんな難しい顔してるの?」 部屋に戻って黎翔にも同じものを渡すと、喜ぶどころかじっとそれを見つめている。 チョコレートは嫌いじゃなかったと思うんだけど。 だって、味見の時たくさん食べてたし。 「―――大きさ…」 ぽつりと零されたのはギリギリ聞き取れるくらいの呟きで、何?と聞き返す。 「みんなと、一緒… 僕、お婿さんなのに……」 ああ、特別じゃなかったから拗ねてるのか。 原因が分かって脱力した。 「あんなに食べてたじゃない。もう飽きただろうと思ったからこれくらいで良いと思ったの よ。」 顔を上げた黎翔がじとっとこちらを見る。明らかに不満だって態度で。 「…そんな顔されても、もう残ってないし。」 甘い物が好きなのは知っていたけれど、少ないからってそんなに拗ねなくてもと夕鈴は思 う。 「じゃあ、付加価値付きで。」 「きゃっ!?」 いきなり抱き上げられて小さな声を上げるも、彼は軽々と夕鈴を運ぶと長椅子に腰掛けた。 気がついた時には彼の膝の上。 「れ、黎翔…!?」 何が何だか分からない間に、たった今渡したはずのお菓子の袋を渡される。 まずそれを指差して、次いで黎翔は自分をさしてにっこりと笑った。 「食べさせて。」 「なっ!?」 お菓子が少なくて拗ねてるのに、付加価値がこれってどういうことなの!? 「―――夕鈴」 「ッッ」 耳元に注がれる甘い甘い声。 自分の熱で溶けてしまいそうになる。 (〜〜〜いきなり狼スイッチ入れるなんて卑怯よ!!) ―――それから。 見せつける相手もいないというのに、いつも以上にイチャイチャさせられた。 「美味しいね。」 上機嫌に戻った彼を前に、次からは1つでも多くしてあげようと誓ったのだった。 ・・・・+・・・・ 最後は二人でイチャイチャ。しかし恋愛フラグは全力スルー☆ 2013.2.17. UP --------------------------------------------------------------------- 日記から引っ張ってきました。バレンタイン小ネタ。 もう少し落ち着いたら拍手の小ネタも下ろしたいです。