女王陛下の花婿様 +




※拍手からの再録です。
 3/1に新作5種と差し替えたのでこちらに移動しました。




*********************************************************************************



-@他に黎夕がないので書いてみた編-

「宴かぁ… 疲れるから嫌なのよね。」
 お金も無駄だしとは夕鈴の意見だ。
「その点に関しては私も賛同致しますが。しかし、他国の使者をもてなさないわけにもい
 きませんからね。」
「わかってるわよ。」
「では、始めましょうか。」
「はーい… じゃあ、黎翔。また後でね。」

「…納得いかない。」
 黎翔は不機嫌顔。
「何が?」
「どうして李順が手伝うの? 夫の僕が追い出されて李順が残るのって変じゃない?」
「だって、李順の化粧が一番上手なんだもの。何より安心だし。」
 化粧品にも毒が入れられる場所だ。その点でも李順は安心できる。
「だからってさ、着替えも手伝うってどういうこと!?」
 そう、化粧よりも何よりも、黎翔が納得いかないのはそこだ。

「…この方の何を見たところで、今更どうも思いませんよ。」
 李順はあきれ顔。
「っ!」
 夕鈴もようやく理解して真っ赤になる。

「黎翔のスケベ!」
 今すぐ出て行けと即刻黎翔はそこから追い出された。


・・・・+・・・・
李順さんは夕鈴を妹的な意味で大事にしています。
その彼の努力の甲斐あって、夕鈴は意外に闇の部分を知らないでいたり。
闇の部分は李順さんや浩大が請け負ってます。
そんな感じで二人はどこまでも恋愛感情抜きの関係なんですけど。
そんな二人の関係に嫉妬する黎翔とか美味しいと思うんですよv



*********************************************************************************



-Avs柳&氾大臣編-

「柳家と氾家ね…」
 書類を片手にプラプラさせて、夕鈴は嫌そうな顔をしている。
「ええ。この二家は敵に回せません。」
「で、この二つは仲が悪いのね?」
「そうです。」
「面倒だわ…」
 溜息をついて立ち上がる。
 今、その二人を謁見の間に呼んでいた。


「我々に話とは何でございましょう?」
 一段下の二人の大臣は、一人は厳しい顔で1人は穏和に微笑んで控えていた。
「二人にお願いしたいことがあるの。」
 高く足を組み、扇で口元を隠して女王は笑む。
「皆が知る通り、私は王宮のことがほとんど分からないわ。―――だからね、柳大臣。
 貴方の息子を補佐に欲しいの。」
 そして臨時の役職よと付け加えた。
「…どちらの息子ですか?」
「もちろん、優秀な方よ。」
 にんまりと笑う。
 これであの長男を選べば、彼はそれだけの人物だということだ。
 元々難しい顔をしているから渋い顔なのか何なのか分からないけれど、彼はそれきり黙り
 込んだ。

「そして氾大臣、貴方には娘がいたわね。彼女に会わせて欲しいの。」
「娘、ですか?」
 その言葉が意外だったらしく、彼は目を見張る。
「貴方のことだから、きっとどこに…それこそ王家に嫁いでも遜色のないほどの娘なので
 しょう? 私は王宮の作法なんて知らないから、彼女に教えてもらいたいわ。」
 ここで息子もと勧めるようなら、この先の付き合い方を考えなくてはならない。

 しかし、意外にも二人ともすんなり引き受けた。


「……宰相の言う通り、なかなか食えない狸達ね。」
「私はヒヤヒヤしましたよ。」
 胃の辺りを押さえて李順が溜息を零す。
「大丈夫。宰相には事前に確認してるから。」
「…何故それを私に言わないのですか。」
「んー イヤガラセ?」
「タチが悪いです。」


・・・・+・・・・
両大臣ともお手並み拝見ってところでしょうか。
そうして、彼らの子ども達は夕鈴に心酔してゆくわけですね!



*********************************************************************************



-Bvs柳方淵編-

「女、だと…?」
 目の前に現れた新しい主を前に、柳方淵は思いっきり顔を顰めた。
「あら、知らなかったの?」
 まあ言っていなかったけど、と彼女は笑う。

「女に政などできるはずがない!」
 はっきり言った方淵に、女王の表情が変わった。
「…へぇ。この私の前でそれを言うの? 命知らずね。」
「私は陰でこそこそ言うのは性に合わん。」
「噂通りに竹を割ったような男ね。…使い道は多少間違ってるけど。」
 裏で言われるよりは好感が持てるが。
 しかし、女王を目の前にして言える者も珍しい。
「長男は馬鹿で次男は優秀だけど性格に難有り。柳大臣も苦労するわね。」
「あれが馬鹿なのは事実だが、比べないでもらいたい。」
「あら、事実でしょう?」
 火花バチバチ

「陛下、お時間が…」
 後ろから李順が声をかける。
 一旦睨み合いを止めて夕鈴は椅子から立ち上がった。
「分かったわ。―――柳方淵。付いてきなさい。」


 in政務室。
「最初に言っておくけれど、私は無能は要らないわ。」
 年若い官吏達はびくりと肩を揺らす。
「年も経験も関係なく入れ替えていくからそのつもりで。家柄なんて以ての外よ。」

「柳方淵。」
「はい。」
「貴方、さっき女は政などできないと言ったわね。」
「ええ、言いました。」
 隠しもしない。周りの方がハラハラとした態度で見ている。
「見てなさい。政に男も女もないと証明してみせるから。貴方のその石頭、絶対かち割っ
 てやるわ。」
「…お手並み拝見させていただく。」
「貴方も油断しないように。貴方より優秀な者がいればその座は譲ってもらうわよ。」
「望むところだ。」
 再び火花が散り、李順の溜息。


 そうして方淵が夕鈴に傾倒するのはしばらく後のこと。


・・・・+・・・・
最初の出会いは最悪な感じで。でも夕鈴も不快とは思ってないんですよ。
夕鈴が功績を挙げる度に方淵は見直していくわけです。
そして黎翔が出会った頃には完全に心酔してます。黎翔を敵視するほどには。
恋愛感情ではないようですけどね。忠誠心って感じでしょうか。



*********************************************************************************



-Cvs後宮編-

「…宰相はここまで考えて私を選んだのかしら。」
 鑑を見つめて夕鈴は楽しげに笑う。
「女の王(わたし)には不要のものよね。」
 できましたと李順が言って、夕鈴は立ち上がった。


 いつもより数段着飾ってから後宮に向かう。
 そこには兄の妃達が集められていた。

「女…?」
 現れた女王に妃達は目を丸くする。
「ウソ…」
「どういうこと…?」

「あら、兄の喪に服す時間はもう終わったのかしら?」
 新しい王の目に留まろうと着飾っていた妃達は黙り込む。
 もちろん夕鈴の衣装は黒だ。
 化粧も髪型もこの色で最も映えるようにしてもらった。李順の仕事は完璧だ。

「すぐにこちらまで手を回せなくてごめんなさい。何しろやることが山積みだったから。」
 要するに後宮の重要度は低いときっぱり言う。
「見ての通り、私にこの後宮は必要ないわ。」
 当然だ。女同士では子を設けることはできない。
「貴女達についてはいろいろ考えたけれど… ここを出て貴女達の好きになさいな。」

「お、おそれながら…!」
 1人の妃が声を上げ、女官長が慎むように言おうとしたのを制して先を促す。
「私共を放り出すと仰られるのですか? 私共は前王に誠心誠意尽くして参りました。それ
 なのにこの仕打ちはあまりに…」
「だったら兄に殉じてみる? 手伝うわよ。」
「ッッ」
 冷たくなった声に息を飲む。

「―――本来なら、全員兄と共にしてもらいたかったのだけれど。」
「!!?」
 青ざめる。
「でも、兄はそんなことを望んでいないだろうし。」
 来てもらっても逆に邪魔よね、という言葉は心の奥に留めておくとして。
「放り出したりはしないわ。働くも良し、嫁ぐも良し、家に帰るも良し。必要があればこ
 ちらから話を通すこともできるわ。」
 出来うる限り彼女達の希望通りに。次の道に進むのを手伝ってやろうと。
 彼女達の中には無理矢理後宮に入れられた者もいる。その人達を解放する意味もあった。
「ね、優しいでしょう?」


・・・・+・・・・
そんなわけで後宮は空っぽになりました。
中には女王の気概に惚れ込んで女官に志願した者もいたりとか。



*********************************************************************************



-Dvs反乱軍編-

「…あんなつまらない男のために私の大事な兵達を戦わせるのは嫌ね。」
 今回の相手は私利私欲に溺れた地方領主だ。
 両軍はすでに配置につき、睨み合いが続いていた。
「……つまらなくない相手の時には、彼らに手は出せないなどと仰っておられましたが。」
「だって、彼らの言い分も分かるんだもの。」
 そちらに関しては話し合いで解決させた。
「我が軍の権威も見せねばなりません。」
 実はここまでほとんど戦っていない。
 さすがにこれはまずいだろうと。相手としては不足だが、これも致し方ないことだ。

「陛下」
「…分かっているわ。」
 李順の言い分も分かる。
 だけど、本当は誰も傷つけたくないのだ。
 でも、いつまでもそうは言ってられない。

「刃向かう者は相手なさい。投降する者は受け入れなさい。逃げる者は捨て置きなさい。
 私が言うのはそれだけよ。」
 夕鈴の言葉に兵達は一斉に是と応える。
 これまでの功績によって、彼女はすでに軍を掌握していた。


 戦いは一方的に終わると思われたが、意外にしぶとく長引く様相を見せていた。
「陛下!」
「浩大ッ」
 飛んできた矢を落として、浩大が夕鈴の傍に降りてくる。
「何で1人? あの男は!?」
「克右には右翼の指揮を任せたわ。」
 あっさりと言う彼女に浩大は顔色を変えた。
「ちょっ じゃあ陛下は誰が守るんだよ!?」
「だってジジイは使えないのよ。」
「アンタがやられたら意味ないだろ!?」
 彼女は大将だ。彼女が取られたらどんなに元が優勢でも戦は負けだ。
「だったら浩大が守って。」
「オレは隠密! こーゆーのは向いてない!」
「じゃあ仕方ないわ。」
「あーもう! 相変わらずめちゃくちゃな姫さんだな!」
 頭をガシガシ掻いた後で声を張り上げる。
「おい! 兵ども! 特に北の奴ら!! うちの姫さんに傷一つでも付けたら容赦しねーから
 な!」
「それはこっちの台詞だ!」
 近くにいた見知った兵が大声で返す。
「なら、矢の一つもこっちに届かせんなよ!」
「勿論だ!!」
 浩大の叱咤に志気が上がった。


 決着は、日暮れ前に着いた。


・・・・+・・・・
反乱制圧の頃の話です。さすがに全部が話し合いとかで済むはずはないよなぁと。
他にもいろいろ裏技使ってできるだけ戦いを避けようとしていた夕鈴とか。

ああ、妄想はどこまでも広がってゆきます〜(笑)



*********************************************************************************



-E黎翔と李順さん、出会い編-

「李順。干し棗が食べたいわ。」
「分かりました。では、厨房に今夜の―――」
 言伝に行こうとした李順を夕鈴は「違う」と呼び止める。
「あんな器にちょこっと盛られて変に飾られて食べた気にもならない奴じゃなくて!」

 見た目は豪華だけれど、冷たいし全く食べた気にならないお上品な宮廷料理。
 美味しいんだけど、夕鈴はあまり好きではない。

「籠いっぱいのいつものが食べたいのよ!」
 彼女が食べたいのは、下町で手に入る物の方だと。
 それを知って李順は溜め息と共に首を振る。

「陛下、ここは北ではありません。……ふくれてもダメです。」
「李順のケチ!」
「女王の嗜好が庶民だなど… "女王"のイメージを崩すわけにはいきません。」

「良いわ。だったら自分で買いに行くから。」
「陛下!?」
「お忍びで行くなら問題ないでしょう?」
「大有りです! 何を考えていらっしゃるんですか!」
「だって…」
 どうしても食べたいのだと彼女は諦めない。
 このままだと王宮を抜け出してでも行ってしまいそうな気がする。

「貴女に行かせるくらいなら私が行った方がまだマシです。」
「えっ?」
「……え?」
 途端に目をキラキラさせる彼女に、間違ったと今更思っても後の祭り。

「ほんと!? じゃあよろしく!」

 断れば脱走は確実。
 …結局李順はその要求をのんだ。


*


 下町。騒がしさに李順はそちらに目を向ける。
 酒に酔って横暴な振る舞いをしていた男達を一人の男が叩き伏せていた。
 格好からして下町の警吏だろう。

「俺達は女王陛下の近衛兵だぞ! こんなことをしてタダで済むと思うな!」
 ぎゃいぎゃいとわめき立てる。
 "女王陛下の近衛"という言葉に周りで見守っていた者達は息を飲む。
「…だから?」
 しかし、ただ1人動じなかったその本人が、そう冷ややかに言い返す。
「これが私の仕事だ。相手が女王だろうが関係ない。」
「なっ」

「―――誤解のないように言っておきますが、我が女王陛下のお側にはこんな品の無い輩
 はいませんよ。」
 正直下町の揉め事などどうでも良かったが、我が主を貶める会話だったために李順は彼ら
 の中に割り入った。
「だ、誰だ!?」
 そう言ったのは酔っぱらい共の方だ。
 そんな彼らを李順は冷めた目で見下ろす。
「おや。私の顔を知らないのに陛下の近衛を名乗るとは愚かの極みですね。」
「…え?」

 陛下の側にいる者は李順が全て把握している。
 嘘だというのは最初から分かっていた。

 男共は李順の言葉にぽかんとアホ面をしている。

「警吏殿。これを頂いてもよろしいでしょうか。」
「好きにすると良い。」
「ありがとうございます。陛下にお見せすればきっと喜んで遊んで下さるでしょう。」
「「!!?」」
 やっとそこで状況を把握したらしい。青ざめる男達。
 李順が呼ぶと黒尽くめの男達が現れる。
「この者達を獄舎に放り込んでおいて下さい。後ほど迎えに行きます。」
「はっ」


 残されたのは李順と警吏の男。
 見守っていたギャラリーもいなくなった。

「―――今時珍しい、なかなか見所のある方ですね。」
 李順はにこりと笑いながら男の方を見る。
「私の名は李順。貴方は?」
「…珀 黎翔だ。」
「珀… 覚えておきましょう。」
「忘れてもらって構わない。」
 それだけ残して彼もいなくなった。


「……いえ、忘れませんよ。やっと見つけた逸材ですからね。」

 女王陛下の側に置ける人材を、誰が逃す者ですか。


・・・・+・・・・
ってわけで、出会い編です。
権力に靡かない男の人ってカッコ良いですよね〜という妄想より☆



*********************************************************************************



-F黎翔と李順さん、お仕事編-

「ご苦労様です。」
 静かに佇む黎翔に李順が声をかける。
 その足下には転がる骸の数々。
 しかし二人とも気にしていない。

「貴方が来てから敵を炙り出すのが楽になりました。」
 今回の収穫に李順はほくほく顔だ。
 これでまた、女王の敵を減らすことができる。

 女王陛下の花婿を務める黎翔のもう一つの仕事。
 それは囮になって敵をおびき寄せ、返り討ちにすることだ。

「……」
 黎翔は李順の声に応えることなく、無言で己の剣を鞘に収める。
 普段夕鈴の前で見せるのとは全く違う、氷のように冷たい表情で。


 後処理は他の者達に任せて、黎翔は血を洗い流すために部屋に戻ろうと踵を返す。
 急いでいるのは あまり不在が長くなると夕鈴が心配するからだ。
「しかし、何故陛下にお知らせするのが嫌なんですか?」
「…こんな血生臭いものを見せたくない。」

 これは光り輝く彼女には似合わない闇だ。
 しかし、李順は問題ないと返す。

「陛下は平気ですよ。確かに戦は好まれない方ですが、反乱制圧の時には全て話し合いと
 いうわけにはいきませんでしたし。」
「……」
「貴方が何をしていたところで、気にされる方ではありません。」
「…そうか。」
 でも、それでも黎翔は隠し続けるつもりだ。


 ―――本当は、知られたくないだけ。

 優しさだけを貴女に。
 狼の牙も爪も見せかけのものだと信じたままでいて欲しいだけだから。



・・・・+・・・・
こちらはシリアスに。
流れ上 本編に入りきらなかった部分です。



*********************************************************************************



-G下町休暇編-

「黎翔の休暇?」
「ええ。黎翔殿はこの仕事を始めてから一度も家には戻っていらっしゃらないでしょう?
 王宮も落ち着いてきましたし、少しくらいは良いと思いまして。」

 黎翔の両親はすでに亡く、他に家族と呼べる者もいない。
 屋敷の方は家人もいないと聞いている。管理は知り合いに任せているらしかった。

「そうなの… 行ってらっしゃい、黎翔。」
 ちょっと寂しそうに手を振る。
しょぼんとした兎のようにも見える。
「―――陛下も行かれますか?」
「えっ?」
「黎翔殿ッ」
「民の生活を自分で見ておくことも勉強だと思います。」
 夕鈴は瞳キラキラ。李順は渋い顔。

「警備はどうなさるのですか!」
「そんなの、僕一人で充分でしょう?」


*


「名前はどうしようか。」
「夕鈴で良いわ。私の名前なんてどうせ誰も知らないんだし。」
「…いや、やっぱり変えよう。―――李鈴、で良いよね。」
 元々李姓はありふれた名前だし、何かあれば李順の家の者とすれば良い。
「そこまで警戒しなくても大丈夫よ。」
「駄目。」
「? どうしてそんなに拘るの。」
 名前なんてどうでも良いじゃないと。
「……貴女の本当の名前を呼ぶのは私だけの特権ですから。」
 いきなり狼科して耳元で甘く囁く。
 赤面。(いつの間にそんな仲になった?(笑))

「あら、良い品。」
 夕鈴が店の前で足を止める。
「おっ お嬢さん目が良いね。」
「でしょう? 私 この地方の大根が好きなの。甘くて美味しいのよね。」
 手に取って重さを確かめる。
 満足できるものだったらしくて嬉しそうな顔。
「ね、これと白菜も買うからこっちの傷付き人参はまけて頂戴。」
「交渉上手なお嬢さんだな。気に入った、人参は良いの持ってけ!」
「ありがとう。」

 溶け込みすぎてて黎翔は驚く。
「実際援助なんてほとんどなかったもの。料理も掃除も、家事は一通りできるわよ。」
 ついでに 野菜作りもできるわね、と笑う。
「あの頃は自由だったし好き勝手やってたわ。…王なんて、煩わしいだけね。」
 豪華な衣装も贅沢な食事も性に合わない。
 柵が多すぎて、自由なんてない。王宮は窮屈で仕方がない。



「お前、帰ってんなら挨拶くらい寄越しに来やがれ。」
「あ、ごめん。」
 誰?という顔の夕鈴。
「李鈴、彼は几鍔。僕の屋敷を任せてるって言ってた友達。」
「友達…」
 彼が一人じゃないと安堵したと同時に、知らない彼がいることに寂しさを覚える。
「几鍔、彼女は僕の恋人の李鈴。」
「黎翔!? ちょ、いつ私達がそんな関係になったのよ!」
「…反論されてんじゃねーか。」
「恥ずかしがり屋なんだ。それとも、奥さんって言った方が良かった?」
「冗談!!」
 彼をそこまで縛る気はない。
「冗談なんかじゃないのに。」
 不満そうに。


 あんまんのお店で注文している夕鈴の背中を見つめる。
「…遊ぶ相手は選べよ。」
 几鍔は呆れ顔。

 王宮で知り合ったということは、それなりの家柄の娘なのだろう。
 妙に溶け込んでいるが どう見ても下女なんかじゃない。
 あれは間違いなく純粋培養だ。

「遊びなんかじゃないよ。」
 ふと真面目な顔で。
「だから、手を出さないでね。」
「…誰が出すかよ。」




「こんなに買い込んでどうするの?」
「日頃のお礼にご飯でも作ろうと思って。」
「え!?」
「さっき言ったでしょう? 心配しなくてもそれなりに作れるわ。高級食材なんて無かった
 から庶民料理ばかりだけどね。」
「帰ろう。今すぐ帰ろう!」
「そんなに急がなくても食材は逃げないわよ。」
「だって早く食べたいんだもん。」
 夕鈴がクスクス笑う。
「貴方の口に合うかは分からないから期待はしないでね。」


・・・・+・・・・
ところで夕鈴はどこに泊まったんだろう?(笑)
李順辺りが宿準備してそうですが。そんでそれが几家の宿だったり。
何だか黎翔と几鍔を仲良く書くのが最近好きです(笑)



*********************************************************************************



-H李順さんが女王を大切にしている話-

「陛下のお茶に毒を盛ったのはこの者でした。」

 玉座の前に女が引きずり出される。
 彼女は夕鈴も顔見知りの女官だった。

「お許しください!」
 夕鈴の足下で彼女は涙をはらはらと流す。
「…誰の命でやったの?」
「仕方がなかったのです! 従わねば家族が…!!」
「分かっているわ。」
 そうはっきり告げられて、女官はハッとして顔を上げた。
「へい か…」
「だから、正直に話して頂戴。」

 巷では"氷の女王"と言われているが、彼女は弱い者を切り捨てない。
 この国の頂点に立つ女王陛下は、ただ全てのものに公正なだけだ。

 真っ直ぐにこちらを見る澄んだ瞳に背中を押され、女官は震えながらも硬い口を開いた。

「か、…幹大臣、の、……」
「ああ、幹ね。」
 予想通りだったと言わんばかりに夕鈴は溜め息をつく。
 愚かな狸はなかなか数を減らさない。

「―――陛下、詳しい話は私が聞きます。」
 李順が一歩進み出てメガネを光らせ、それを受けた夕鈴は軽く頷く。
 元々そのつもりだったのだ。彼なら上手くやるだろう。
「彼女の身の安全の確保もお願い。」
「御意。」
 夕鈴が片手を挙げて振ると、李順は了承の意を告げて頭を下げた。










「―――ご協力ありがとうございました。」
 全てを話し終えた彼女に李順がにこりと笑みを見せる。
「喉が渇かれたでしょう。こちらをどうぞ。」
「あ、ありがとうございます…」
 恐縮しながら受け取り、飲もうと口を近づけたところで彼女はぎくりと強張った。
「どうかしましたか? …ああ、そのお茶ですか。よく気付かれましたね。」
 笑みはそのまま。ただ、メガネの奥の瞳は鋭い。

 彼女が手のしている茶は、彼女が女王に飲ませようとしたものと同じ。
 …内臓が溶けていく感覚に悶え苦しみながら死に至る猛毒だ。

「陛下は、お許しになったのでは…」
「―――陛下はお許しですよ。優しい方ですから。」
 青ざめる女官を前に、李順の笑みはますます深まる。
「ですが、私はあの方と違って根が真っ直ぐではありませんから。嘘を見抜くのは得意な
 のですよ。」
「っ!」
「女性の涙に絆されるほどお人好しでもありませんからね。」

 がしゃんと茶器が床に落ちて割れた。

「おっと、下手に動くと痛いよ?」
 彼女は拘束されているわけではなかった。
 だから簡単に逃げられると高をくくっていたのだが、一歩踏み出したところでそれ以上動
 けなくなる。
 …いつの間にか背後に回っていた別の男に腕を掴まれ、彼女の首元には短剣が突き付けら
 れていた。

「ここで逃がせば、貴女はまた恩も忘れて陛下に仇なす者となるでしょう。」
 腕を捻りあげられて小さな呻き声を上げるも、背後の男は一切の手加減をしない。
 そして、目の前に立つメガネの男が静かに告げる。

「あの方は優しい方です。自分が傷付くことを厭わない。―――しかし、私はそれを見過
 ごすつもりはないんですよ。」

 女王を大切に思う者が二人。
 彼女の心を守るために、彼らは闇の部分を引き受けた。

「せめて選ばせて差し上げましょう。ご自分で毒を飲むかそのまま喉をかき切られるか。
 お好きな方を選んで下さい。」












「ねえ李順、彼女は?」
 全ての者に等しく慈悲を向ける女王は、李順の予想通りに彼女の行方を聞いてきた。
 もちろんそこで真実を見せるようなことはしない。
「遠くへ行かれましたよ。二度と会うことはないでしょう。」
 何の悪びれもなくそう言って、李順はいつものようににっこりと笑ってみせた。

 嘘は言っていない。
 あの女官は遠い遠いところへ行ってしまった。

 二度と女王の手を煩わせることはない。



「…そう。遠い地でも彼女が元気でいてくれることを願うわ。」

 李順はそれに答えなかった。


・・・・+・・・・
夕鈴は基本お人好しです。
それは李順や浩大が闇の部分を請け負ってくれたから。
幼い頃から命を狙われたり裏切られたりもしたけれど、それでも信じることを止めない
程度には。




*********************************************************************************



-I登場人物設定-

★夕鈴★
 先々王の娘にして、先王の異母妹。白陽国の現国王。通称は"氷の女王"。
 生母は舞姫で、王にとっては最愛の寵妃だった。
 しかし、それが元で命を狙われたため、父により辺境に送られる。
 この頃はまだ普通に生活ができていた。
 先王の代になって援助が途絶えがちになり、生活が困窮する。
 僅かな家人を残してほとんど解雇し 自分で家事をこなすようになる。むしろ趣味。
 町に行っては野菜を値切ったりして溶け込む。
 周りも姫と知りつつ分け隔てなく接してくれた。
 北の辺境での暮らしははそれなりに楽しかったらしい。
 女王としての態度は完全に演技で、本人は普通(?)の少女。
 とはいえ、内乱制圧や中央政治の粛正は本人の功績でもある。
 ちなみに内乱は武力制圧ではなくてほとんどは話し合いでの解決。


★珀黎翔★
 下級貴族出身の武官。両親もなく兄弟もいない。
 両親が健在の頃はそれなりに幸せだった。
 しかし、二人が事故死したとき、親類の醜さを目の当たりにして人間不信に陥る。
 唯一の味方は叔父だけだった。その叔父のおかげで家督を継ぐ。
 叔父はある日突然下町の女性と結婚。婿入りしてしまう。
 叔父に会いに行く途中で几鍔と出会う。以来彼とは気の合う友達。
 武官としての腕は随一。李順にその腕を見込まれて花婿役を頼まれた。
 小犬も狼も無意識に切り替わっているが、夕鈴には甘い部分しか見せようとしない。
 そのせいか狼の本性の部分を夕鈴は演技だと思っている。
 自分を囮にして女王の敵を一掃しようと動いている。それは夕鈴には内緒。


★李順★
 女王の側近兼教育係。一緒に辺境へ同行している。
 女王相手にも容赦ない。兄というよりもう姑。
 夕鈴の本来の性格を知る数少ない人物。
 倹約の点では夕鈴と気が合う。
 実家は、先王の時代は夕鈴への援助ができないほど力が落ちていた。
 そのため、夕鈴が家事を嬉々としてこなすのは嘆いていたが黙認。
 黎翔と出会ったのは偶然。
 夕鈴に「干し棗が食べたい」と言われ、本人が行くというのを止めて自分で買いに行った
 時。
 破落戸相手に大立ち回りをしていたところに居合わせ、その腕と後ろ盾の無さを見込んだ。


★柳方淵★
 柳家でなければ夕鈴の夫候補になっていた。
 女王のことは、最初はいろいろ言っていたが後に認める。
 黎翔が武官なのに政務室にいるのは気に食わない。

「何故武官の貴様がここにいるんだ。」
「……」
 方淵が睨んでも黎翔は無言で受け流す。
「護衛だからよ。―――この前のようなことがあっても困るじゃない。」
 代わりに答えたのは夕鈴。
「陛下、しかし」
「執務室の方に入れてないわ。常に私のそばにいるだけよ、問題ないでしょう?」
 陛下の言葉だから受け入れざるを得ないが納得いってないので黎翔を睨む。
 ―――とかいうやりとりが最初にあったと思われる。


★氾紅珠★
 氾家が送り込んだ刺客その一(笑) 夕鈴の茶飲み友達。
 今やすっかりお姉様扱い。本当のお姉様になっていただくために兄を近づけたりしていた。
 黎翔が現れたとき、その美貌に惹かれ、また兄の恋敵というのもあって引き離そうと
 誘惑(?)してみるも失敗。
 夕鈴が本当に黎翔を思っていると気づいて身を引く。
 今は二人の関係を観察して楽しんでは創作意欲を燃やしている。


★氾水月★
 氾家が送り込んだ刺客の真打ち(笑) ただし本人にやる気がない。
 女王の夫なんてめんどくさい役はできればやりたくないと思っている。
 氾家の方は弟が継ぐことになるようだ。
 紅珠を足がかりに夕鈴に近づけようとするも、本人があの調子なので失敗。
 黎翔のことは、よくあんな面倒な立場にいられるなと感心している。
 更に今の状態だと家も継がなくて良いし、女王の夫にもならなくて良いし楽なので推奨。
 こんな感じでも優秀なので補佐官。
 方淵とは常に険悪で、その度に夕鈴に怒られている。


★几鍔★
 子分が黎翔に喧嘩をふっかけて返り討ちにあっているところにきたのが出会い。
 悪いのは子分だとすぐに分かって、子分に鉄拳一発。黎翔には謝る。
 そんなやりとりがあってから仲良くなった。
 二人は対等。実家の管理を任せるくらいの仲でもある。
 黎翔がした町に連れて来た"李鈴"という少女に関しては、黎翔が騙してないか心配(笑)

「人がいない割に綺麗なのね。」
 初めて彼の家に足を踏み入れて、その手入れが行き届いている様子に驚いた。
 普通人がいないと家は傷んでいくのに。
「几鍔って意外にマメだから。」
 彼に頼んで正解だったと黎翔は笑う。
「信頼しているのね。」
「うん。」

 ―――実際に手入れをしてるのは子分とかだろうけど。


★青慎★
 辺境時代に夕鈴が出会った少年。官吏志望。
 真面目で可愛いので 夕鈴は本当の弟のように可愛がっている。
 手紙のやりとりは月一程度。夕鈴の楽しみ。
 後に上京。いろいろあって黎翔の家に住むことになる。
 夕鈴の弟にすると王位継承やらが複雑なことになるのでこんな形に落ち着く。
 まあ、夕鈴の中で大切な人ランキング1位には変わりない。←え?


★浩大★
 女王の命令で地方の偵察に行っていた。
 黎翔に初対面で剣を向けられるも動じない。←急に部屋に入ってきたから
 優秀な護衛だとむしろ感心。
 青慎を利用したりして黎翔をからかう。


・・・・+・・・・
 とりあえず浮かんだところまで。他に誰かいますか??



2014.3.1. UP



---------------------------------------------------------------------


HとIを入れ替えました。
Hの李順さんの話は日記からのサルベージです。

さて、この妄想はどこまで広がっていくのやら(笑)
 


BACK