夢のような夢の話 -夕鈴の夢-
      ※ 「夢のような夢の話」は夕鈴・黎翔・几鍔が幼馴染という設定です。←整理部屋にミニカテゴリ有





『ゆーりん』


 誰かが私を呼んでいる。
 優しくて甘くて、良く通る低い声。


『夕鈴、起きて。』


 ああ、この声、知ってるわ。
 近くにいるのに遠くて、でも大好きな人の声。


『ねぇ、襲われちゃうよ?』





「!?」
 物騒な言葉に一気に覚醒し、夕鈴はがばりと起き上がる。

「な、何!?」
 今、耳に何か触れた気がした。
 押さえれば熱を持っていて、きっと赤くなっているのだろうと分かる。


「確かに天気も良いし、お昼寝したくなる気持ちも分かるけど。でも、ここじゃ風邪引い
 ちゃうよ。」
 クスクスと笑う声に顔を上げると、思った通りの人が思った通りの表情で笑っていた。


 空は青く晴れていて、今日は確かに絶好の洗濯日和。
 広くはないけれど明るい庭で洗濯物がパタパタとはためく。

 それは見慣れているはずの光景。


 ――――でも、


「どうして、私、ここに…」
「え?」

 有り得ないと思った。
 だって、目を覚ます前の私はここにはいなかったはずだ。


「私、後宮の四阿で陛下を待ってたはず… なのに、いつの間に下町に…?」
 家に戻ってきた記憶がない。
 当然 洗濯物を洗った記憶もない。

「夕鈴、どうしたの?」
 様子がおかしいと気付いた陛下が心配そうに顔を覗き込んでくる。
 その距離が近すぎるなんて、今の自分は思う余裕もなくて。
「へ、陛下ッ 私……!?」

 どういうことだろう。
 陛下は外套こそ羽織っていないものの、下町用のラフな服装。

 また下町に付いて来てしまったんだろうけれど。
 でも、どうしていつの間にこういうことになったのかさっぱり分からない。


「夕鈴 落ち着いて。」
 パニックになって涙目になる夕鈴の肩を彼が優しく叩く。
 そのおかげで少しだけ落ち着いた。

 ―――はずなのだけど。

「僕は陛下じゃないよ。」
 だけど、さらに混乱することを告げられてしまった。
「えっ!? じゃあ誰なんですか!?」
「誰って… 君の幼馴染の珀黎翔だよ。あの狸と間違えられるなんて心外だなぁ。」
 何言ってるのと言わんばかりの表情で、さらに夕鈴を混乱に落とし込む。
 今、この人は何と言った??
「おさな、なじみ…? 私と陛下が? そんな、馬鹿な…」

 いやいや、そんなはずはないでしょう。
 陛下は王様だ。下町娘と幼馴染になるわけがない。
 そもそも陛下じゃないって言われても、陛下は陛下だし。
 …一体何が何だか分からない。

「だから陛下じゃないって言ってるのに。」
 変なことを言う陛下は、なおもブツブツ言いながら隣に座る。

「…ね。だったら、君の中の僕と君の関係は何?」
 ちょっとだけ考え込んだ後、彼は何か思い至ったようにこちらを向いた。

 いきなり何をと思う。そんな分かりきったことを聞かれるなんて。
 でも、さっきからおかしいことばかり言う陛下だから、それも有りなのかもしれない。

「そんなの決まってるじゃないですか。陛下は王様で、私は雇われバイトの下っ端妃です
 よ。」
「――――成程ね。」
 夕鈴の言葉を聞いた途端に、彼は全て納得いったという顔をした。
「え?」
「夕鈴、これは夢だよ。」
 突然ふわりと身体が浮いて、何故かぎゅっと抱きしめられる。
 何故この流れでこうなるのか皆目見当が付かない。
「へ、…!?」
 驚いて離れようともがいても腕の力は緩まなくて。
 
「…目を閉じて。君はどこにいた?」

 温かな体温が夕鈴の身体を包み込む。
 背中を叩く手は、子どもをあやすように優しい。

「後宮の、四阿に… もうすぐ陛下がいらっしゃるから、お茶の準備をしてて、」
「じゃあそこに戻ろう。」

 いつの間にかよく知ってしまった腕の中。
 それに安心して自然と目を閉じていた。

 同時に意識がどこか遠くへ導かれていく。


「君の"陛下"が待ってる。」
「はい…」


 貴方の温かさと同じ、白い世界。
 だから安心してそこに身を任せた。



『夕鈴』
 最後に聞こえたのは、私を呼ぶ貴方の声だった。







「君の夕鈴は返すから、僕の夕鈴を返してね。…ねぇ、"狼陛下"?」









 ぱちりと目を覚ます。
 夕鈴の身体は何か温かいものに包まれていた。

「目覚めたか?」
「ッ!?」
 思ったよりも近い声にビックリして顔を上げると、本当に目の前に陛下の顔があって驚い
 た。
 それと同時に自分がどこにいるかも認識して狼狽える。
「な、何でこんなところに…!?」

 陛下じゃない陛下にされたことと同じ。
 何故か陛下の膝に抱っこされた上に、肩口に頭を乗せていた。

 ぎゃあと叫んで身を引こうとしたのだけれど、それは叶わずさらに抱き込まれる。

「君が待っていると聞いて四阿に来たら、愛らしく寝顔を見せていたからな。誰にも見せ
 ないように囲っていたのだが。」
「すっ すみません!」
 誰に見られるか分からない場所で居眠りしていた自分が悪い。
 また失敗したと謝ると、役得だから構わないと優しく甘い彼の人は笑った。


「どんな夢を見ていたんだ?」
「えっと…」

 洗濯日和の青い空の下、陛下じゃない陛下に言われた言葉を思い出す。
 いろいろ驚かされたけれど、簡単に言ってしまうと。


「……夢のような、夢でした。」




2013.6.23. UP



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某様の感想から私も妄想してみました☆
「もしも夕鈴が入れ替わったら」ver.です。
書かずにいられなかったというか… 妄想しだしたら止まらなかったというか(笑)

ちなみに。
夢夕鈴+陛下編も考えたのですが、やってることは変わらないので割愛しましたーw
 


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