秘密を知る日 3




<凛翔&浩大>


「父上と母上は本当に互いを大切に想ってらっしゃるんだな。」

 四阿でいちゃつく夫婦を遠くの屋根の上から面白半分で観察していたら、下から太子に声
 をかけられた。
 言葉自体は独り言のような感じだったが、わざわざここで言ったのならそういうことなん
 だろう。

「太子? 急にどうした??」
 十歳のセリフじゃないよーとくるりと回って彼の隣に降り立つ。
 驚かれることはなく、ちらりと見られただけで視線はすぐに外れた。
「鈴花と話をしていてそう思っただけだ。」
 太子が見つめる先には彼の両親の姿。
 いつものように呆れて見るのではなく、そこには見守るような温かさが見えた。


「…相手を守るための秘密というのもあるんだなと思ったんだ。」
 太子の言葉を黙って聞きながら、何かを知ったんだなと気づく。
 それが何かまで、浩大は追求しようとは思わないが。

「太子ならどうする?」
 ただそれだけ、同じ方を見つめながら聞いてみる。
「―――私なら言わないな。父上と同じだ。」
「…そっか。」

 太子がそう思うならそれで良いと思った。
 この問いに正解はない。ただ、聞きたいことを聞いただけだ。


「陛下はただ、そのままのお后ちゃんでいて欲しいだけだから。」
 今も昔も、陛下が望むものは変わらない。
 陛下が自ら望んだ唯一のもの―――彼女にそばにいてもらいたい、それだけ。

「そのためになら、怒られたって間違い続けるよ。」
「…知ってる。母上も分かってるから許すんだろうし。」
 その返答に笑って、自分より小さな頭をわしわし撫でる。
 ちゃんと分かってるんだなと思って。

「いい子だな、ホント。」



 深いことは何も聞かない。知ろうとは思わない。

 だけど、この親子は大丈夫だと、浩大もそれだけは確信が持てた。








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<鈴花&李順>


「みんなは二人の仲はずっと変わらないって言ってるけど、違ってたのね。」
 しみじみと子どもらしからぬ発言をした公主だが、別に李順の反応を期待しているわけで
 はないらしい。
 一人で納得して頷きながら、一人で勝手に喋っている。
 彼女が李順の執務室を訪れたのはついさっき。それからずっとこの調子だ。

 それまでは兄である太子とどこかへ行っていたとのことだが、それがどこかまでは言われ
 ていないし聞いてもいない。
 必要であれば言うだろう。秘密にしたいのならそれで構わない。
 李順は彼女の気が済むように話を聞くだけだ。


「二人がとっても仲良しなのは、それが二人で勝ち取ってきたものだから…… 苦しみも悲
 しみも乗り越えたからだったって知ったの。」

 公主は時々、こんな風に大人顔負けの表情を見せる。
 そしてそんな時、彼女が王族であることを改めて知る。


「…ねぇ 李順。相手を思う故の秘密もあるのね。」
 何を言われているのかと一瞬どきりとした。
 けれど、それはすぐに彼女の両親のことだと気づいて動揺を胸の内へと押し込める。
 かつての自分にもあったことなど、ここでは関係がないことだ。


「秘密にしたお父様の気持ちも分かるの。お父様はお母様を守りたかったのよね。」

 正直、彼女の言う"秘密"がどのことを指しているのかは分からない。
 けれど、どの"秘密"も彼女が言うように相手への想いのためだ。李順はそれを知っている。

(ですが―――)

「でも、私は言って欲しいな。」
 李順の思いに被さるように、公主の言葉が重なった。
「信じてないわけじゃないのも分かってるけど、もっと信じて欲しい。…って、お母様が
 言ってた。それは私も同じ思いなの。」
 顔を上げた公主がこちらを真っ直ぐに見つめる。
「私は守られるだけは嫌。一緒に考えていきたいわ。」

 そこに彼女の母親と同じ強さを見た。



「あの時彼女が言ってくれていたら、私も違っていたでしょうか…」

 知っていれば、何かできたかもしれないと今でも思う。
 …もちろん、全ては既に過ぎ去った過去のこと。今更だというのも分かってはいるが。

「? 何の話?」
「―――いえ、何でもありません。」
 不思議そうにこちらを見る公主から目をそらし、彼女の言葉に重ねた思いを打ち消した。




「……ところで公主。」
「なぁに?」
 くるんとした瞳を瞬かせて、年相応の顔に戻った公主が首を傾げる。
 人はこれを愛くるしくて逆らえないと言うが、李順の場合は全くそういうことはない。
「いい加減、膝から降りていただきたいのですが。仕事ができません。」

 彼女がここを訪れてから実はずっとこの体勢だ。
 入ってくるなり当たり前のように膝に上り、自分と書簡の間に堂々と割り込む。
 こんなことができるのはこの公主だけだ。
「この程度で仕事ができなくなる人なの?」
「書簡が見えませんし字も書きづらいです。」
 齢一ケタの小娘の挑発に乗る気もなく素っ気なく返す。
 すると予想通り、思い通りにいかないことにムスッと膨れた。

「李順のケチ。良いじゃない これくらい。」
「はっきり言って邪魔です。座るなら他の方の膝にしてください。」
 部屋から追い出すとは言わないが、さすがに今の状態では何もできない。
 そもそも甘えたいなら自分以外で良いだろうと思う。
「だって、お父様にお母様のお膝とられちゃったんだもの。」
「…あの御方は……」
 大人げないと深いため息をつく。


 そもそも政務はどうしたのか。そろそろ呼び出すべきか。

 先程までの感傷的な気分はすっかり消え失せ、李順は頭をフル回転させて困った主の対応
 策を考え始めた。




2013.9.30. UP



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お題:『祈りの日』よりも前のお話。(未来夫婦)
ちなみにお題全文は
「陛下から、あの日の出来事を聞いた凛翔。夕鈴から兄か姉になる人がいたという事を聞いた鈴花。
 それぞれが両親に対して思う事。二人がいつまでたってもラブラブなのに疑問を抱かなくなった二人を見たいです。
 ただラブラブなのではなく、辛いことをたくさん乗り越えてきたから今の夫婦があるのだと。^^。
 凛翔は浩大に。鈴花は李順さんに自分たちの想いを(子供ながらに一生懸命考えたコト)伝えてほしいです。」

と、いうわけで、未来夫婦部屋書き下ろし「祈りの日」からのお話。
各ページ違う年の同じ日ということで、三年を跨いだ話となりました。

李順さんの過去まで混ぜ込んでしまった… でもここは重ねて書きたかったんです。
誰のことを言っているかについては、「初恋の行方」を参照してください。
最後がギャグオチになってしまったのは、まあ、気にしないでください。
暗い気分を払拭したかったんですー ……シリアスに耐えきれませんでした すみません。

mikan様、いつもお付き合いありがとうございます☆
相当読み込んでないとこんなリクは出てこない気がします(笑)
そんなわけで、ニアピンおめでとう&ありがとうございました〜
そして隠しリクの件。えーと、教えたことに深い意味がなくてすみません…
凛翔が分かる年になったから教えただけなんです…
しっかし、ホントこの子達って年相応じゃないなぁ(汗)と思って書いてました。
 


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