お妃様とご褒美 2




「優勝者は前へ。」
 大歓声の中、彼は王の御前に膝を付く。
 王が座する席から伸びた階を、妃がゆったりとした足取りで降り、脇に控えた女官から一
 振りの枝を受け取った。

「―――徐克右殿。」
 優美な鈴の声に応え、彼は顔を上げる。
 軍の頂点という誉れを得た彼にまず与えられたのは、後宮の花の春の日差しのような微笑
 み。
 運良く目にした周囲はそれに頬を染め、次いで上から睨まれて青ざめた。


「素晴らしいものを見せていただきました。」
 試合中とは打って変わって、彼女は妃らしく振る舞う。
 さすがだなと感心しつつ、克右はその背後で機嫌悪くしている王に内心苦笑いした。

 ―――優勝賞品はお妃様から受け取りたい。
 その要望は応えられ、妃自身もやる気を見せた。

 そして1人納得がいかない王は、克右に武術大会に出るように命じたのだ。
 "お前が優勝しろ。他の男を夕鈴に近づけさせたくない"、と。

 無茶だと思ったが、結果的に何とかその命を遂行することができた。
 …そのために、昨日まで王からみっちりしごかれたことは誰にも秘密だが。


「皆様、とっても素敵でしたわ。」
「もったいなきお言葉をありがとうございます。」
 彼女も相手が見知った克右だったことに安心しているようだった。
 ―――まあ、これからすることを思えばそれも当然か。

「貴方に、栄誉を。」
 妃が差し出した枝を両手で受け取り、一度深く頭を下げる。
 そして片手に持ち替えると、もう一方で彼女の細い手を掬った。
「我が王に、永久の忠誠を。」
 手の甲はちょっとマズいかと考え、指先に軽く口づける。
 目が合うと彼女は少し恥ずかしそうに笑み、克右もとりあえず笑って返しておいた。

 ……その後ろの黒い何かは今は考えない。
 そこだけ絶対零度の雰囲気だとか、今の自分には見えてない。
 というか、絶対見たくない。

 その横で、李順がやれやれと頭を振っているのが見えた。




「だってそうするように言われたんですよ。」
 王の命令通り優勝した彼は、王からの詰問にそう答えた。

「え、私は知ってましたよ?」
 そう言ったのは口づけを受けた当の妃である。

「あの品のない叫び声を上げられても困りますから。」
 側近に問いただせば、奴はしれっとそう答えた。

 知らぬは王ただ1人のみ。


「……覚えていろ。」
 幸か不幸か、その言葉はそれを向けられた妃まで届かなかった。


















 その夜に行われた祝賀会にも多くの者が参加した。タダ酒なのだから当然だ。
 場所は月を望む広い会場、話題は昼の武術大会について。
 豪快な笑い声が会場のあちこちから聞こえ、貴族達の優雅な宴とはまた違った雰囲気だっ
 た。

 ちなみに、本日の主役である克右は女官達に囲まれて次々酌を受けている。
 本人は困った顔をしているが、周りからは「羨ましいぞこんちくしょう!」と思われるだ
 けで、先程からいくつもの目に睨まれていた。
 もちろんそれにも気づいている本人は、明日からの風当たりが心配だなぁと内心でため息
 を零すしかなかった。


「へへへ陛下っ!?」
 そんな賑やかな会場内で、国王夫妻は人知れず 二人きりの攻防戦を繰り広げている。
 王が妃の腰を引き寄せて迫り、人前だからと妃は身を引こうと必死だ。
「ち、近いですっ」
 扇で顔を隠してもそれは大した妨げにはならない。
 腕の中でもがいても逃げられず、彼女は赤くなったり青くなったり大忙し。
 挙げ句、扇は腕ごと退けられてしまい、端整な顔立ちを思った以上の至近距離で見つめる
 ことになってしまった。

「―――私には褒美をくれぬのか?」
 甘い甘い艶を帯びた声に、背筋がゾクリと泡立つ。
 ここは寝室じゃないのにその声は反則だ。
「な、何のご褒美ですか!?」

 これ以上はダメだと思う。
 こんな色気だだ漏れな人、この場に置いてちゃいけない気がする。
 というか、こちらの腰が抜ける。

「我慢した。」
「…はい?」
 小犬じゃなくて狼が拗ねている。
 意味が分からず怪訝な顔をすると、彼は夕鈴の首筋から項を撫で、固まっている間に膝の
 上に誘った。
「武術大会に出ることを止めたのも、あの男が君に触れたのも、…今、君のその美しい姿
 を他の誰かに見せるのも。私は我慢している。」
「え、えーと…」

 確かに今の夕鈴はいつもより着飾っている。
 でもこれは仕事だ。克右さんが私の手に口づけたのもそう。
 陛下が拗ねるところじゃないと思うんだけど。

「その褒美をもらいたい。」

 我慢した狼にご褒美なんて、何をあげれば良いのか分からない。
 今にも噛みつかれそうな程、飢えた瞳をした狼に?

 ぐるぐる悩んで考える。
 だってここには人がたくさんいるし。
 夫婦演技はしても良いけど、恋人同士ってバレるのはダメ。
 でも、陛下はこのままだと人前でも気にせず何かやらかしそう。

「〜〜〜ッ」
 時間もなく、深く考える余裕もなくて。
 意を決した夕鈴は、えいっと身を乗り出した。

「―――…」
 軽く音がしてすぐに離れ、呆けている彼の膝に再び腰を下ろす。
 じっと見つめられているのが恥ずかしくて扇で口元を隠した。
「……だめ、ですか?」
 唇はさすがにできなかったけど、頬にだって勇気を振り絞ってやったのだ。
 これ以上なんてできないから、許して欲しいと彼を見つめる。


慎様よりいただきました☆
 ※ 50%縮小サイズです。原寸はクリック。


「――――――」
「きゃっ!?」
 突然の浮遊感にビックリした。
 抱き上げられたと思ったら、彼はスタスタと会場を背に歩き出す。
「え? ちょ、陛下ッ?」
 どこに行くのかと慌てて制止の声を上げる。
 けれど彼の足は止まらない。

「…煽ったのは君だ。今夜は寝かせないから覚悟しておけ。」
「!!?」



 我慢した狼へのご褒美は、部屋に帰ってからが本番だった―――…




2014.6.30. UP



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お題:コラボin内緒の恋人設定☆

ああ陛下が色っぽいわー 夕鈴綺麗だわー
宴仕様にしてもらって良かったわーーー
ふわふわお揃いー キラキラ麗しー(人´∀`*).☆.。.:*・゜
何かちょっと当初の予定と違う場所に入れちゃったけどいいよね!?←

というわけで、出来上がった感じはいつも通りなのですが、今回はコラボです☆
最初の段階から話し合って方向性を決めていきました。
ラフは2ついただいて、幼馴染か恋人かで悩んで。結局はネタが出しやすかった恋人設定に。
タイトルもつけてもらいましたよv
むしろお妃様がご褒美じゃねwwと思ったのは私ですwww
そして「我慢してる(つもりの)陛下が恋人陛下らしい」という感想いただいて吹きましたww
つもりなんだ! 確かに我慢してないけど!!wwww

…ちなみに、企画が上がったのは半年くらい前ですが。イラスト自体は春先には頂いてたのですが。
………単に私が遅筆だったせいですすみません。
途中で兎さんとか軍服とかに浮気もしましたしね!←
…………本当に申し訳ありませんでした(土下座)

あ、克右さんを出してみました。(初登場じゃなかったww)
迷うことなく苦労性です。頑張れ。てか この人マジ使いやすいww
克右さんへの褒美は、まあ、無難に昇給とかだったんでしょうね。
夕鈴が渡した枝はトロフィーの代わりみたいなものです。ただの演出。

えーと、慎様。ほんっとーにすみませんでした!!!!
兎さんの可愛さに萌え萌えしながら頭の片隅には「キリリク書かなきゃ」という罪悪感がですね…
……。これに懲りずにまた遊んでくださいませーー!



・オマケ・
「ごめんなさい! もう無視したりしませんから!!」
「どうだか。まだ教え込みが足りなかったようだしな。」
「っ いやぁあああ!」

可愛い兎は部屋に戻って美味しくいただかれましたとさ。


 


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