「陛下ー？ ……あれ、寝ちゃってる。」
 お茶のおかわりをと思って少し離れただけなのに。
 一応もう一度呼んでみたけれど、起きる気配はなかった。
「疲れてらっしゃるのね…」
 あまり寝る時間がないと、そういえばさっきも話してたっけ。

 それでもこの人は毎晩のように会いに来る。
 "妃に夢中の狼陛下"の演技の為に。
 私の為じゃないのは分かってるけど、来てくれるのは嬉しい。

「…少しは気を許してくれてるのかしら？」
 いつも周囲に気を張っている陛下が起きないなんて珍しい。
 けれどそれがここで安らげている証拠なら。


 誰も信じようとしない貴方だから、私くらいはどんな時でも味方でいたい。
 少しでもその気持ちが伝わってると良いなと思う。



 どうしようか少し考えて、寝室の方に消える。
 そして寝台から毛布を一枚引っ張ってくると、彼にそっと掛けてあげた。
「まだ寒そうね…」
 今晩は冷えると聞いているし、このままだといくら陛下でも風邪を引く。
 でもすぐに起こすのはちょっと可哀想。
「…そうだ。」
 良いことを思いついたと、夕鈴はごそごそと準備を始めた。









＊＊＊＊＊＊＊









（あたたかい―――？）
 普段感じることのない感覚に、少しずつ意識が浮上する。
 肩の辺りに不思議な重みを感じながら黎翔はふと目を覚ました。

 視線の先には見慣れた彼女の部屋。
 自分の態勢からして、どうやら長椅子に頬杖をついたままで寝ていたらしい。
「…あれ」

 暖かさの正体は、掛けられた毛布。と、それから、

「―――――！！？」

 声も出ないというのはまさにこのことか。
 そのくらいの衝撃と驚きだった。

「…どうして夕鈴が一緒に？？」
 寄り添うようにぴたりとくっついて寝入っているのは、この部屋の主にして最愛の妃。
 頭に"臨時の"というのが一応付くが、周りから見れば本物だし、そんなの付いてても付
 いてなくても最愛なのは間違いないし。
 …って、そうじゃなくて。
 混乱のあまりにずれかけた思考を修正しつつ、もう一度確かめてみてもやっぱり間違い
 なく夕鈴だ。
「なんで…って、わっ」
 身体の位置がズレたことで彼女がずり落ちそうになって慌てる。
 けれど、黎翔が支える前に彼女の方が目覚めた。
「…ん、あれ…？ へーか 起きられたんですね。」
 目を擦りながら彼女は小さな欠伸を漏らす。
 彼女が慌てないところを見ると、どうやらこれは彼女が自分でやったことらしい。
 でもそれでも疑問は消えない。
「……えーと、状況を説明してくれる？」
「？ 陛下が寝てしまわれたので毛布を掛けたんですけどまだ寒そうだったので。だから
 私が湯たんぽ代わりになろうかなって。」
 そのまま気持ちよくて私も寝ちゃいましたーと、言いながら彼女はあははと笑った。

 …ここまで警戒心がないのもどうかと思うんだけど。
 というか、寝起きの夕鈴ってなんか幼い。

「…へーか。」
 上目遣いで覗き込まれた後で今度はクスクスと笑われる。
 不意打ちで心臓がはねてしまったのを 彼女に気づかれただろうか。
「顔が赤いですよ。」
「え？」
「寝顔を見られたのがそんなに恥ずかしかったんですか？」

 顔が赤い？

 沈黙している間に夕鈴は毛布からするりと抜け出る。
 それを目だけで追って、伸ばし損ねた手を代わりに自分の顔に当てた。

「陛下でもそんな風に赤くなることってあるんですね。」
 初めての発見だと夕鈴は嬉しそうに言う。

 "君のせいだよ。"
 そう 言えたら良いのに。

 珍しく 狼も小犬すら出てこない。それくらい動揺していたらしい。



「部屋に戻られますか？ それともお茶にします？」
 さっきまで寄り添うように傍らにいたぬくもりは、すっかり目を覚ましてくるくる動き
 回っている。
 どうせ今戻っても、しばらくは眠れそうにない。

「…じゃあ、お茶にしようかな。」

 その責任をとって、君にはもう少し付き合ってもらおう。
 せめてこの熱が冷めるまで。








2011.1.31. UP



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お題：夕鈴の無意識な言動に慌てる(赤面する？)陛下

…を考えてみて、難しいなと思いました。
陛下が赤面するって、公式だと「つまみ食いしようとして叱られた時」とか「親父クシャミを見た時」とか…
陛下のツボ おかしいので。
あ、でも「妃で我慢しといて下さい」にはきゅんってしてたな。
アレがホントのきゅんっですよね。つまり、小犬ならＯＫ？

―――で、こんなん出来上がりました。(チーン)←レンジ音

寝惚け夕鈴は積極的です(笑)
逆に陛下は完全な素が出ちゃった感じですね。寝起きの上に状況があまりに予想外で。
たまにはこんなパターンも良いかなって。
現時点での陛下はまだそこまで気を許してないっぽいので、少し未来の話かな？と。

萌え萌えなお題をありがとうございました！
あっきー様のみお持ち帰りどうぞー(＾▽＾)o (返品可/笑)