花咲く オマケ




※ ラストが長くなったので、オマケを別ページにしてみました。
※ わりとどうでも良いかもしれない小話2つです(笑)




1.送り主の正体

 それは、2人が結婚してしばらくしてからのお話。

「夕鈴さ、舞姫の時に王太子からとか貴族からとかの贈り物貰ってたよね。」
「へ? ああ、断り文句に使ってましたね。」
 今はそこには夫から貰った蝶の髪飾りと、同じく彼から贈られた耳飾りがある。
 そもそもあれは舞姫用だから派手すぎて普段使いなんてできないんだけど。
「で、実際のところはどうなの?」
「もちろん嘘ではないですよ。」
「うん、だから。求婚だとか言ってたよね?」

 うーわー 笑顔だけどその笑顔が怖いわ。

「夕鈴?」
 笑顔なのに空気が寒い。
「近い近い! 近すぎですって!!」
 しかも流れるように長椅子に押し倒さないで!
「じゃあ話して。疚しいことがないなら言えるよね?」
「分かりましたからっ ちょっと離れてください!!」
「うん。」
 …離れてくれた。押し倒されたままだけど。
 この体勢で話せってことか。人払いしてるから良いけども。

「…えーとですね、私の母は瑠霞姫様の侍女です。それで、私も幼い頃から王族の方々とは
 話す機会も多くてですね… まあ、王太子様からも妹みたいに可愛がってもらってたわけで
 す。」


『夕鈴、白陽国に旅に出るんだって?』
 そう話しかけてきたのは、この蒼玉国の王太子様。その隣には側近であり親友の藍様もい
 らっしゃった。
『はい! 念願の夢がやっと叶います!』
『でも、旅の小楽団とは突飛な発想だな。』
『瑠霞姫様の案です。表向きだけではないあの国を見ていらっしゃいって仰って。』
『気を付けて行っておいで。戻ってきたら旅の感想を私にも聞かせてくれ。』
『はいっ もちろんです!』
 白陽国に行きたいことは周りにもずーっと言い続けていた。
 その熱意を知っているから王太子様達もそれを応援してくれていた。
『ああ、そうだ。』
 思い出したように、王太子様が懐から何かを取り出す。
『…君を守るお守りに。』
 差し出されたのは緋色の簪だった。一目で高価だと分かる一品だ。
『変な男に言い寄られたらこれを盾に使うと良い。ある国の王太子様から頂いた品だとでも
 言えば、大抵の男は引くだろう。』
『あ、ありがとうございます…』
 こんな高価な物はもらえないと思ったが、そう言われては受け取るしかない。
 夕鈴のことを本当の妹のように可愛がってくれている彼の好意を無碍にはできなかった。
『なあ、夕鈴』
 今度は隣の藍様がじっとこちらを見てくる。
『お前さ、俺と結婚する気ある?』
『ありませんけど』
『良し。じゃあこれを持って行け。』
 即答すれば何故か頷かれて、渡されたのは紅玉の耳飾りだった。
『求婚を断った大貴族様から、せめて傍に置いてくれと渡されたと言っておけ。』
 なるほど、と言ったら王太子様が堪えきれずに吹き出した。
『今のどこが求婚になるんだ…っ』
『嘘じゃないだろ。守る盾は多い方が良いし。』
 変なやりとりだなとは思ったけれど、藍様も守ってくれるらしい。
 本当に優しい人達だ。
『お二方ともありがとうございます。戻ったら、一番に報告に行きますね!』
 笑顔で言ったら、2人も笑顔で応えてくれた。


「―――そんなわけで、お節介な兄代わりの方々から盾として受け取った物なんです。」
 実際大いに役立った。夕鈴が無事でいられたのは、彼らの加護もあったからだ。
 まさかそれを陛下が覚えているとは思わなかったけれど。
「…それでも面白くないな。」
 だから近いですってば。
 狼陛下で凄みながら迫ってこないでください。
「今後は私が贈った物だけを身につけてくれ。」
「……我が儘な王様ですね。」
 ふぅとため息をつけば、じとっと睨まれる。
「私は貴方の妃ですよ。貴方以外を見つめることはありませんから安心してくださいませ。」
「……むぅ」

 ―――ご機嫌取りにはもう少し時間がかかったのは2人だけの秘密の話。




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2.紅珠様の妄想爆発

「これが愛ですのね…!」
 この日、氾家の息女 紅珠は、目の前の光景に本物の愛を見つけた。


「今 思い出しても、あの日のお二人には魂が震えますわ…!」
 仲の良いご令嬢方だけでは話し足りず、その場に居合わせた長兄にも会う度にこの感動を
 語っている。
「ああ、うん」
 優しい兄様はニコニコと話を聞いてくれるので好きだ。
「幾百幾千の花の中、王が見つめるのはたった1人だけ…」
「…楽しそうだねぇ。しばらくは戻ってこないかな。」
 夢のような光景に思いを馳せていた紅珠に兄の呟きなど聞こえていなかった。

 陛下が唯一見つめて連れ去った彼女は、瑠霞姫様が娘のように可愛がっている侍女だとい
 う。
 水月兄様とも仲が良かったようだったから少し教えてもらった。

「お二人の出会いはきっと王宮ですわねっ」



 初めての異国で緊張し通しだった1日を終え、少女は気晴らしに庭園に出ていた。
 空には輝く月、青白い光が木々を照らしていて何もかもが美しく見える。

『ああ、なんて綺麗な夜なのでしょう。心が洗われるようだわ。』
 美しい景色は彼女の疲れた心をも癒し、少女はしばらくその場に留まることにした。
 明日からはまた忙しい日々が始まる。今くらいはゆっくりしたいと思った。

 足下では虫が鳴き、風が遠くの木々を揺らす。
 自然の音に耳を傾けていた彼女は、人の足音に気付くのが遅れた。

『―――誰だ?』
『っ!』
 がさりと葉を揺らす音とともに、鋭い声が飛ぶ。
 ハッとしてふり返れば、そこには長身の男性が佇んでいた。

 月光の下で2人の視線が絡み合う。
 虫の声も風の音も聞こえない。
 時が止まったかのように、互いしか見えなくなった。

『君は…』
 掠れたように呟かれた言葉に我に返る。
『国王陛下! っ申し訳ありません!』
 立ったままだった自分に気がついて、少女は慌てて膝を付いた。
 相手は国王陛下。夜に溶け込む美貌に見惚れて不躾に見てしまったなどと不敬すぎるにも
 程がある。
『…顔を上げよ。』
 そう言われても、すぐに上げるわけにはいかなかった。
 痛い沈黙が辺りを支配する。
 そしてまた今度も、沈黙を破ったのは王の方だった。

『…驚かせてすまなかった。だから、顔を上げてくれないか。』
 俯いた視線の目の前に相手の沓が見える。
 驚いて顔を上げれば、麗しい美貌が目の前にあってさらに驚いた。
『へ、陛下…!?』
 身を引きかけた彼女を追いかけるように陛下が1歩前に出る。
 逃げることは叶わず、大きな手のひらがそっと頬を包み込んで陛下の方を向かされた。
『ああ、ちゃんと触れられる。夢幻ではなかったのだな。』
 安堵の息をつかれて戸惑う。
 夢幻で何か困ることがあるのだろうかと。

『初めて見た時、月から現れた天女かと思った。』
『あの、私は…』
『触れる前に消えてしまうかもしれないと。』
 見つめてくる眼差しが熱い。
 その吸い込まれそうな瞳で見つめられると身動きが取れなくなりそうになる。
『ああ、でももういい。君はここにいる。』
『きゃっ!?』
 ふわりと身体が浮いたと思えば、気付いた時にはもう彼の腕の中にいた。
『君と見つめあった瞬間に、逃してはならないと思った。』
 全身が熱い。
 抱きしめられる腕の強さも、声の甘さも、全てが少女を雁字搦めにする。

『君が運命の人なんだ―――』

 逃れられないと、思ってしまった。



「ああっ なんて運命的な出会いなのでしょう!」
「…全部紅珠の想像だけどね。」
 聞こえないと分かっていつつも、一応ツッコミを入れてみる。

 実際出会ったのは娼館で、舞姫として舞っていた彼女に陛下が惹かれたんだけど。
 優しい兄は、知らないことの方が良いこともあると言わずにいてあげた。

「この想いを、ぜひとも書き留めなければ…!」
 どこから出てきたのか、紙と筆が彼女の手の中にあり、
「とても素晴らしいものが書き上がる予感がしますわ…!!」
 隣に兄がいるのも気にせずに、一心不乱に書き始めた。

「…もうしばらくはかかるかな。」
 こうなると何を言っても反応しないことは分かっている。
 書き終わった頃にお茶でも用意してあげようと、水月はそっとその場を離れたのだった。




2017.5.6. UP



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蒼玉国の王太子とか藍様とかは適当な捏造なので気にしないで下さい。
みんなに可愛がられている夕鈴を書きたかっただけです。
あと無駄に嫉妬してる陛下が書きたかっただけです。
この夕鈴は男の知り合いに囲まれまくってるので陛下は嫉妬しまくりだと思います(笑)

えーと、その場に紅珠いたし、こんな妄想してたかなって。
何だか長いのは、紅珠様の想像力が思ったより豊かだったせいです…
何も考えずに一発書きで書いたので深く考えずに読んで下さい。


では。ここまでお付き合いありがとうございました。
 
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