愛しい君へ返す言の葉













      ※「愛しい貴方へ送る恋文」では書かなかった部分です。

         コミックス派の人はご注意。3月号からの新キャラ浩大くんと、陛下の話です。

         では、大丈夫な人はスクロールで。





















「お妃様から文が届いております。」
 そう言われて机の上を見ると、確かに紙の梅が咲いた枝とそれに結ばれた白い紙が置い
 てある。
(珍しいな…)

「あ、陛下が浮気してるー」
 手に取った瞬間を見計らったかのように、ひょっこり現れた人物にそう言われた。

 最近1年がかりの地方偵察から帰ってきた密偵の浩大は、こんな風にいつも突然至ると
 ころに現れる。
 その神出鬼没さに黎翔は慣れているから気にならないが、夕鈴は心臓に悪い!とよく叫
 んでいた。

「何の話だ。」
 その彼に、いきなり身に覚えのないことを言われた黎翔は眉を顰める。
 今の自分は夕鈴しか興味がないのに 浮気などした覚えはない。
「え、だから陛下が持ってるヤツ。」
 指をさされてその手に持っている枝に視線を落とす。
 これを持っているだけで浮気になるのか?
「これは夕鈴からの文だ。」
「へー お妃ちゃんも可愛いコトするなー」
 少し驚いた顔をした後で、浩大は今度はにこにこ笑った。
「どういう意味だ?」
 さっきから浩大の言っていることがよく分からない。
 夕鈴が文をくれること自体皆無に等しいが、それを帰ったばかりの浩大が知るはずもな
 いし。
「だってそれ、今流行ってる恋文デスヨ。」
「恋、文…?」

 夕鈴が? 僕に?

 そんなことは有り得なくて思考が停止する。
「たぶん周りに流されてデショ。」
「ああ。それなら分かる。」
 少し哀しいがそれなら納得できた。
 お妃演技のためなら夕鈴も真っ赤になりながらやるだろうから。
「他の男にじゃなくてヨカッタですねー」
「…もしそうだったら、その男を切るだろうな。」
「陛下、心狭すぎー」
 怖いと言いながら笑う浩大をひと睨みする。
 彼とは長年の付き合い故に気楽だが、その分相手も言動には遠慮がない。
「で、何て?」
「きっと型にはまった―――…」
 嘘でも良いから愛の言葉をもらいたいとも思うが、内心は複雑だ。
 あまり期待をせずに開いた黎翔の言葉が途切れる。
 興味を持って覗き込む浩大から隠して、もう一度目を通した。


 開いたと同時に香る、彼女の香り。
 そして、彼女の筆跡で書かれた短い言葉は、

『お仕事お疲れ様でした。
 お茶の準備をしてお待ちしていますね。』

 愛の言葉ではない。
 けれどそれは彼女自身の本当の言葉。

 嘘でも良いから愛の言葉をもらいたいとも思った。
 けれどこれはそれよりずっとずっと嬉しい。


 目に見えて機嫌が良くなった自分に浩大が目を丸くしていたけれど、気にせず丁寧に折
 り曲げてまた元に戻す。
 これは記念だ。一生大事にとっておきたいと思った。

「…そうだ、返事を書かないと。」
「あ、それ返事は文じゃダメっスよ。」
 筆を持とうとしたら隣から違うと止められる。
 文の形が珍しいなら、その返事も普通とは違うらしい。
「オッケーなら藍の布、ダメなら花を散らして枝だけ返すんだそーです。」
「詳しいな。」
「だってこれ王都中で流行ってますヨ。」
 王宮でも至るところで目にするのだと、普段からウロチョロしている浩大が言う。
 これには元になった物語があって、その爆発的人気からこの恋文が流行りだしたのだと
 か。
 藍の布は上着の代わりだというのも説明された。

「陛下の返事は?」
「決まっている。他にあるのか?」
 すぐに女官を呼びつけて、藍の布を用意するように命じる。
 礼をして下がる時にその顔が綻んで見えたのは、きっと彼女もその意味を知っているか
 らだろう。
「それは何に対する返事っスか?」
 浩大が面白がって聞いてくる。
「もちろん恋文だ。」

 私の返事はいつでも肯定。
 伝える言葉は常に真実。

「お妃ちゃんには伝わらなさそうだけど。」
「それでも良いさ。」

 彼女の鈍さは十分承知している。
 だから期待はしていないが、希望くらいは持ちたいと思う。




「こちらでよろしいでしょうか。」
 気を利かせてくれたのか、届けるだけに準備されたそれを見て黎翔は頷く。
「これを妃の部屋に。私はすぐ後から行く。」
「御意。」




 愛しい貴方へ送る恋文

 愛しい君へ返す言の葉

 いつかこの想いも君に届くと良い―――






2011.2.24. UP



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 どうしても書いてみたくなったので、隠していたネタを完成させました。
 恋文の方は老師でもオッケーな感じで書いていたので、読まなくても良いかな程度のネタですが。
 単に大ちゃん書きたかっただけかも(笑)

 大ちゃんはまだ出たばかりなので、口調もキャラもあまり把握していません。
 今のところの印象で書いています。
 とりあえずカタカナで言わせたらそれっぽくなるんじゃないかなーとか(笑)
 見た目あんなんですが、夕鈴より年上だよね…
 


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