夢のままで終わるなら -オマケ-




「夕鈴?」
「は、はい!?」
 呼ばれて慌てて応えれば、彼がこちらを拗ねたように見ていた。
 そのままじーっと見られてまた目を逸らす。

「どーして目を合わせないの?」
「え… いや… その……」
(そんなの言えるわけないじゃないですか! 恥ずかしい!!)
 と、叫びたくもなるけれど、相手にしてみれば理由も分からないのだから不満に思うの
 も仕方がない。

 むうと顔を顰めた彼は、夕鈴の頬を両手で包み込んで無理矢理自分の方を向かせた。
「なっ!?」
 至近距離で見つめられては、夢のことがなくても赤面してしまう。
 無駄に整ったこの顔はどこまでも夕鈴の心臓に悪いのだ。
「…自分で言うのと言わされるのはどっちが良い?」
「それって同じじゃないですか!?」
「うん。」
 そう言う相手に当然引く気はないらしい。
 ここで言わないと、確実に言わざるを得なくなるような何かをされる。
 それが何かは分からないが、分からないから何だか怖かった。

(…どっちも変わらないなら、自分で言う方がマシよね。)


「っ恥ずかしいんです!」
「何が?」
 当たり前だけど、意味が分からないと陛下は首を傾げる。
 あんな夢のことを言うのはとてつもなく恥ずかしいんだけれど。
 結局言わされるのは同じなのだと意を決した。

「昨夜夢を見たんです。私に子どもがいて…」
「子ども…?」
 途端に陛下の目が剣呑な色を帯びる。
 何か地雷踏んだのかもしれない。
(怖い……)
 でも続きを促されたので、仕方なくぼそぼそと口を開く。
「それで、その… 父親が……陛下、で…」
「へ?」
「バイトのくせにすみません! おこがましいのも分かってるんですけど、それが恥ずか
 しくて避けてましたー!」
 言い切って、真っ赤な顔のまま陛下を見上げる。
 ぽかんとしていた彼は、しばらくして「良いなぁ」と呟いた。
「羨ましい。」
「はい?」
 今の話の一体何が羨ましくて良かったのだろうか。
 夕鈴には分からない。
「僕もそっちが見たかったな。」

 どうやら陛下も何か夢を見たらしいというのは分かった。

「どんな夢を見たんですか?」
「全然面白くなくてつまらない夢。」
 興味を持って聞いてみたけれど、それだけ言って口を閉ざされてしまう。
 手も離れて、今度は陛下の方が顔を逸らした。
「ズルイです! 私ばかり言うのは不公平じゃないですか!」
 こっちは恥ずかしさを堪えて言ったのに。
 声を上げると、陛下はその夢を思い出したのかものすごく嫌そうな顔をする。
「だって本当に嫌な夢なんだ。話したら現実になりそうで嫌。」
「…何か余計に気になるんですけど。」

 陛下にそこまで言わせてしまう夢って一体…

「―――分かりました。そんなに嫌なら我慢します。」
 気になりつつもそれ以上の言及は止めた。
 本当に嫌な夢だったら言った方も聞いた方も良い気分にはならないだろうし。
「ごめんね。」
 陛下から謝られたけれど、やっぱり言う気はないらしかった。
 よほど言いたくない夢なのだろう。
 それなら早く忘れてしまった方が良いかもしれない。

 そう思って、夕鈴は違う話題に変えることにした。




 …でも、陛下がそこまで嫌がる夢って何だったのかしら?





2011.3.2. UP



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オマケです。その後の2人。

てゆーか 夢ネタ大好きですみません。
だって本編だとまだまだなんですものー
「日向のような」で子どもネタ書いたら、これ書きたくなりました。
で、陛下はシリアスっぽいのに夕鈴がギャグなのは何故なんでしょう?(笑)



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