貴方の傍で目覚める朝
      ※ 19000Hitリクエスト、キリ番ゲッターぷりりん様へ捧げます。
      ※ ちなみに、2人は結婚してる前提の未来話です。




 鳥の囀りが聞こえる。
 窓の向こうには光り輝く 爽やかな朝。

 そして今日も、夢のような日が始まる――――





 目を覚ますと、すぐ傍に端正な寝顔。
 安心しきったその様子に、夕鈴は小さく笑う。

 あたたかさにくるまれて目覚める朝。夢のような日々。
 幸せすぎて怖いくらい。

 ―――今でも全て夢なのではと思うことがあるけれど。
 目覚めて、いつもこの人の傍にいることを知って、私は毎朝胸を撫で下ろす。



「起きなきゃ…」
 いつまでも幸せの余韻に浸ってはいられない。
 もうすぐ夕鈴の侍女が迎えに来る時間だ。
 そっと腕の中から這い出て起き上がると、思いきり伸び上がった。

「…ん?」
 足を床につけたところで抵抗を感じて下を見る。
 後ろから腕が伸びてきていて、それが夕鈴の腰の辺りを拘束していた。
「―――陛下、おはようございます。」
 特に慌てることもなく振り向いて、いつも通りに挨拶をする。
 これもいつも通りだからだ。
「…ああ、」
 それに返す彼の方は、気怠そうに半分目を閉じたまま。
 そのくせに夕鈴を引き寄せる腕の力だけはやたらと強い。
「……もう行くのか?」
「はい。陛下も起きる時間でしょう?」
 拘束から逃れようと彼の手に自分のそれを添える。
 けれどその前に彼の方が追いかけるように起き上がって、夕鈴を腕の中に閉じこめた。


「夕鈴…」
 朝から聞くには甘過ぎる声で囁いて、耳元から唇は肩へと下りる。
 露わになった肩にキスを落として、びくりと震える夕鈴に気を良くしたのか、首筋にも熱
 を落とした。
「離したくないな…」
 彼が纏う雰囲気は夜の闇。
 夜着の合わせ目から手が入り込み、反対の手は悪戯に太股を撫でる。

「ちょ…っ」
 これにはさすがに夕鈴も慌てた。
 朝っぱらから何をしようというのか この人は。
 けれど、抵抗しようにも力が入らない。
 上がりかけた身体の熱を抑えようとして、じわりと目に涙が滲んだ。

「へい…ッッ」



「陛下。起きておられますか?」

 隣の部屋から声がして、ぴたりとイタズラが止む。
 助かったと、その隙に腕の中から逃げ出した夕鈴は、急いで乱れた衣服を整えた。
「ほ、ほらっ李順さんが呼んでますよ!」
 赤い顔を隠すようにまくし立て、自分も支度をしなければと寝台から立ち上がる。
 侍女もすぐそこに控えているはずだ。

「―――李順。半刻待て。」
「へ!?」
 腕を引かれて視界が回る。
 気がついたときには、夕鈴の身体はまた布団の上に逆戻りしていた。

 自分を組み敷いて見下ろしているのは狼陛下。
 心なしか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「何を言ってるんですかっ」
 必死で抵抗してみても、頭上で笑う陛下には全然力では敵わない。
 これは非常にマズいと思った。
 このまま事に及ばれたら、今日は絶対起き上がれない。


「ッッ今したら、一週間お預けにしますからね!」
 仕方なく、夕鈴は強硬手段に出た。
「えー それはヤダ。」
 ころっと小犬に変わった陛下が、眉を下げて抗議する。
 意識なく変わっていると言いながら、絶対夕鈴が弱いと分かっててやってる気がしてなら
 ないのだけど。
 …でも、今は負けるわけにはいかない。
「そんな顔をしてもだめです! 今度から政務室にも行きませんから。」
「ダメだよ。夕鈴いないとやる気でない。」

 本当だろうかと思う時もあるのだけれど、昔からこの主張は不思議と変わらない。
 そしてそれ故に、それは絶対的な威力があった。

「だったらさっさと起きてください。」
 言ったことは絶対に実行してしまう夕鈴の性格を知っている彼は、渋々という様子ながら
 も夕鈴から離れた。













 当然ながら、陛下よりも女性である夕鈴の方が支度には時間がかかる。
 出てきた時には彼は李順と打ち合わせの真っ最中だった。

「夕鈴殿助かります。色ボケで国を傾けられても困りますから。」
 陛下が夕鈴を呼ぶより早く、李順が気がついて夕鈴に声をかける。
 どうやら打ち合わせではなくお小言中だったらしい。
 …隣の陛下は辟易といった感じで、あまり堪えてはいないようだったけれど。
「私も嫌です。そんなの陛下らしくありませんし。」

 冷酷非情の狼陛下が、后と色ボケだなんて笑えない冗談だ。
 前国王はそれで身を滅ぼしたというのに。

 彼の分まで私がしっかりしないと、と改めて決意した。



「では、私は部屋に戻りますね。」
 彼らの前を通り過ぎ、侍女を従えて部屋を出ようとする夕鈴を陛下が呼び止める。
「今朝は一緒に食べないの?」
 当然そのつもりだったらしい彼は少し不満そうだ。
 でもこれも自業自得。
 しっかり自覚してもらうつもりで、つとめて素っ気ない態度をとる。
「陛下がなかなか離してくださらなかったので時間がなくなりました。」

 妃としてのほほんと暮らしていた昔とは違う。
 今の夕鈴はこの後宮の主。実質取り仕切るのは筆頭女官とはいえ、指示を出すのは夕鈴の
 仕事だ。
 いつまでも陛下の部屋でのんびりとはしていられないのだ。
 この人にもいい加減それを自覚してもらわなければ。

「―――ではまた、政務室で。」
 深々と礼をして、唸る陛下を置き去りに部屋を出た。






 貴方の傍で目覚める朝、
 貴方の腕に包まれて、貴方の愛を受け止める。

 夢のような日々は、今日もまだ続いている――――








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・オマケ・
「夕鈴殿は働き者ですね。」
 感心して背中を見送る李順をじとりと睨むが、それはあっさり受け流される。
 ああなんて憎らしいのか。
 
「あとはお世継ぎだけですか…」
 老師が毎日のように言い続けていることを李順も口にした。
 正妃を迎えたならば、次に望まれるのが何かといえばこれしかない。
 しかし僕自身はそれを望んではいなかった。

「まだ要らない。子どもができたら夕鈴を独り占めできなくなるし。」
 普通、産まれた子は乳母達が育てるものだが、夕鈴は絶対自分で育てると言うだろう。
 そうすると、夕鈴は僕だけのものではなくなる。
 それどころか放置されるのは確実にこちらだ。
「……陛下は後宮の意味をご存知ですか?」
 僕の主張の返事として、李順からは思いきり呆れた顔をされた。

 もちろん知っている。
 けれど、僕は夕鈴を手に入れたかったのであって、後宮に入れたかったわけじゃない。
 お后の仕事で蔑ろにされることも嫌なのに、これ以上夕鈴をとられるなんて冗談じゃない
 と思う。


「お世継ぎが産まれなくて責められるのは夕鈴殿の方ですよ。」
「……」
 先手を打った李順から痛いところを突かれて黙り込む。
 夕鈴は何も言わないけれど、きっと周りに何か言われているに違いないのだ。

 いつまでもワガママが通せるものでもないか。

「…考えておく。」
「ええ、お願いします。」


 願わくば、まだ僕だけの夕鈴でいて欲しかったんだけどな…



 ――――覚めない夢の中で、僕はまた夢を見る。











2011.5.10. UP



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お題:未来系で夫婦仮定での陛下と夕鈴。イチャツキあり(原文)

こちらの方が先にリクをいただいたので。17000リクは数日中には上げる予定です。

朝からバカップルです。いちゃつきというか微エロ?(微妙なエロさの意)
どこにもそんなこと書いてないのに、真っ先に寝台でのシーンが浮かびました(笑)
未来なので、夕鈴は狼も彼の一部と受け入れている感じですね。
さらに周りの侍女達も小犬を見ても気にしてないです。
とってもとっても平和な未来をイメージしてます。

ぷりりん様へ捧げます。萌えなリクをありがとうございました!
例にもれず、返品は受け付けております☆



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