たまには甘えて 2




 何だか体が重い。
 熱っぽいし、ダルいし。

 体のあちこちが不調を訴えているけれど、そんなものには構っていられない。
 今は自分のことよりも式典の方が重要だと思っていた。




「だから貴女は要領が悪いというのだ!」

 並んで歩きながら、いつもの調子での怒鳴り合いが続く。
 少し違うのはその内容が式典に関係することだというところか。
 しかし夕鈴と方淵の睨み合いや怒鳴り合いは妃時代からの光景なので、誰も気に留めはし
 なかった。

「貴方に言われたくありません! 貴方に任せたら喧嘩しまくるでしょうがッ」

 仕事に関しては有能で大いに助かっているけれど、彼は交渉事には向いていない。
 言葉をストレートに伝えてしまう方淵は相変わらず敵が多かった。
 さらに本人に改める気がないので、改善の兆しは今もまだ見えない。

「だったら水月に任せれば良いだろう。」

 人当たりの良さは彼が上だ。
 それに夕鈴の頼みなら彼はすぐに引き受けてくれる―――はずなのだけど。

「あの人のやる気を待ってたら間に合わなくなるんですっ」
「…。あいつはまた引き篭もったのか。」
 不機嫌に眉を寄せる彼に夕鈴も深く息を吐く。
「ええ、よりによってこの忙しい時期に。」

(忙しいから逃げたのかもしれないが(けど)…)

 声にこそ出さないけれど思ったことは互いに同じ。
 同じ顔を思い浮かべつつ、今度は同時に溜め息が漏れた。

「……紅珠に頼んで本番には出席するように言ってはいますけど。あの人の楽の腕は確か
 だから、いてもらわないと困るし。」


 ああ、頭が痛い。ついでにお腹も痛い。
 やらなくちゃいけないことはまだまだあるのに、身体が言うことを聞かない。


「―――顔色が悪い。少し休んだ方が良いのではないか?」
「時間がありません。」
 すっぱり断るが、彼は珍しく言い淀む。
「だが…」
 納得いかないようでまだ何か言いたげにしている。
 彼が心配そうに言うくらいだから間違いなく青い顔をしているのだろう。
 けれどまだ休めない。
「あと少しですから。そうしたら休みます。」


(ああもう煩わしい体だわ。嫌なときに重なったものよね…)

 重いし痛いし散々だ。
 忙しさで忘れていられたら良かったけれど…


「…ッッ」
 突然ぐらりと目眩がした。
 目の前が暗くなって平衡感覚を失う。
「おい!?」
 柳方淵の声が遠く聞こえる。
 大丈夫だと答えたつもりだけど、声にならず言葉は渇いた喉に張り付いた。
 立っているのかしゃがみ込んでしまったのか自分でもよく分からない。

(ああ… またやっちゃった……)

 迷惑をかけてしまうだろう人達の顔を浮かべながら、そのまま夕鈴の意識は途絶えた。


























「―――やっぱり倒れちゃったね。」
「!」
 目が覚めて、最初に目に入ったのは秀麗な陛下の顔。
 びっくりして反射的に起き上がろうとすると手で制されてしまった。

「無理しちゃダメだよ。」
 優しい言葉と心配そうに揺れる瞳。
 仕事を放って駆けつけてくれたのだろうと思うと申し訳なくなる。
「初めの2、3日はいつも重いんだから。」
「…理由もバレバレでしたか。」

 自分の体調は自分が誰より1番知っている。倒れた原因は生理痛だ。
 ついでに貧血も起こしたらしい。

「知らないと思ってた?」
「いえ…」
 見縊るなとでも言いたげな彼には首を振って否定する。

 陛下は夕鈴のことなど何もかもお見通し。
 隠し事などできないことは重々承知だ。

 だから今は―――…、一世一代の隠し事さえバレてしまってからは、何一つ隠したことは
 なかった。


「あーあ… 今度こそ陛下に頼らずに頑張ろうって思ってたのに…」
 また失敗だと落ち込む。

 守られるんじゃなくて隣で支えたい。それはいつも夕鈴の中にある目標。
 けれどまだ完璧に達成したことはなかった。

「どうして? もっと甘えてよ。僕は君に必要とされたい。」
 寂しそうにも見える小犬の顔で彼は懇願する。
 項垂れた耳と尻尾が見えて、彼の心中が手に取るように分かってしまった夕鈴はズキリと
 胸を痛めた。

 ここで意地を張ると余計に悲しませてしまう。
 こういう時は素直になるのが1番だ。それは彼を知っていく中で学んだ。



「―――じゃあ抱きしめて。」
 彼の方に手を伸ばす。
「貴方の腕の中は安心できるから。」

 夕鈴が辛い時、苦しい時、傍にいて欲しい時。
 1番に気づいてくれるのはいつもこの人。
 それを愛の力だとさらっと言ってのける愛しい人。

「…喜んで。」
 本当に嬉しそうに笑って、彼は夕鈴の身体を引き寄せた。






「何だか僕の方が得しちゃったかなー」
 ぎゅうっと抱きしめてから、彼は小さく苦笑う。
 会えなくて寂しかったのだと言われて、自分もだと夕鈴は素直に答えた。


「陛下も働きすぎですから、たまには休憩しましょう。」
「そうだね。」
 ふふと笑って胸にすり寄る。
 すると彼はさらに強く抱きしめてくれた。




 たまには甘えて、貴方の腕の中で少しだけお休みして。
 そうしたら、もっと頑張れる気がする。


 だから今は、貴方の傍でゆっくりと。


 



2011.7.3. UP



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お題:「夫婦な二人で、なんかの準備が忙しくて昼も夜もあんまり会えない中、夕鈴が倒れちゃう
(中略)そして駆け付けてくれた陛下にキス(またはハグ)をおねだりする夕鈴」(原文)

詳しくリクエストをいただいたので、ほぼその流れで組み立てました☆
でもどこにも老師とか方淵とか書いてな(略)
趣味です、スミマセン。

方淵とのやりとりは好きです。
本当は敬語抜きにしたかったんですけど、それだと陛下が妬くかなと(笑)
あと、5巻が出るまで浩大とか水月兄上とかは大っぴらに出せないので名前だけ。
あの人はあのマイペースのままだと良いなぁと。
性格はわりと捏造気味です。てか、私の願望?(笑)

夕鈴は正妃になっても基本何も変わらない気がします。
本人だけじゃなくて周りも(笑)
でも、陛下に対してだけはたまに素直になったり甘えてくれたりすると良いなぁと。
最後はちょっとだけ甘々させてみました。キスorハグだったので、これまた私の趣味でハグ。
実は抱擁フェチなんです。種でもよくぎゅっさせてました(笑)

ちょこちょこ様、リクエストありがとうございましたー
そしてものすごく遅くなってしまって申し訳ありませんでした(土下座)
気に入らなかったらすぐに返品してください!
次のリクエストも楽しみにしています☆
 


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