「――――…」 ゆっくりと意識が浮上し、自然に目が覚める。 まだ日は昇っている時間らしく、寝起きの目には眩しいといえるほど明るかった。 「まだ、昼か…?」 呟いて窓の外を見る。 青い空に白い雲がなびき、高く遠い空を鳥の群が飛んでいった。 今まで夢を見ていたような気がするが思い出せない。 けれど思い出せなくても構わないからとそのまま放置した。 夢は所詮夢だ。現実ではない。 「夕鈴…?」 不意に眠る前と違うところに気づく。 傍にいた夕鈴の姿がない。 しっかりと握って寝たはずの手の温もりも消えていた。 「夕鈴」 再度名前を呼んでも返事は返らない。 心に穴が開いたような感覚に背筋がぞくりと冷える。 不安に駆られて起きあがると軽く目眩がして手をついた。 「夕、鈴…」 見渡しても彼女はいない。 部屋は静かで、誰もいなくて。 まるで世界にひとりぼっちになった気がして―――― 「ッッ」 衝動的に布団を蹴りあげ立ち上がる。 素足に石の床は冷たく感じるが気にしない。 そんなことより夕鈴はどこだろう。 頭の中は夕鈴のことでいっぱいだった。 「陛下?」 ふらつく足を2、3歩進めたところで夕鈴が戻ってきた。 手にはたっぷりの水を張った水盆を抱えている。 黎翔が起きていることに気がつくと、水盆を傍の卓に置いて慌ててこっちへやってきた。 「すみません。新しい水をもらいに行ってて、」 「良かった…」 囲い込むように腕の中に閉じこめて、彼女の肩に頭をもたげる。 「陛下?」 夕鈴は逃げはしないもののちょっと驚いた様子で、呼ぶ声には戸惑いが滲んでいた。 「…全部夢なのかと思った。」 起きたら世界があまりに静かすぎたから。 本当は今までの全てが幻で、僕はひとりぼっちのままで。 君がいたことも、君の存在すら。全部が夢だったんじゃないかって思ってしまって。 「良かった。」 もう一度同じ言葉を繰り返した。 「…病気の時って心細くなりますよね。」 新しい水盆を枕元の小卓に置いて、夕鈴は布団に入った黎翔の額の上に絞った布を乗せな おす。 我が儘放題なのも甘え放題なのも。 それを夕鈴が許すのも。 全部全部そのせいにして。 「すみません。」 僕を不安にさせてしまったことを、夕鈴は気にしているみたいだった。 夕鈴を見つけたときの自分は一体どんな顔をしていたのか… 他の誰にも見せられない。 「…子守唄、歌って欲しいな。」 「子守唄ですか?」 「うん。夕鈴が歌う声って安心する。」 座りなおした彼女の手を握ると、ちょっと困った顔をされながらも良いですよと言ってく れた。 今は僕より少し冷たい手、柔らかく優しい歌声。 君はここにいる。 それがどれだけ嬉しいことか。 今度はこの手を離さずにいよう。 目が覚めても君が傍にいてくれるように。 ―――そうして僕は、もう一度眠りに落ちた。 2011.8.9. UP --------------------------------------------------------------------- お題:陛下が風邪とか軽い病気にかかっちゃってお休みしないといけない羽目になり、 夕鈴にめちゃくちゃ甘える陛下(原文) 後半はオマケ程度の短さですネ。 弱々な陛下がちょっと書きたくなってしまったので。 本誌(9月号)を読まれた方は分かるかと思いますが。 …やられた!と思う箇所が一つあります。 どうしようか迷ったんですが、やっぱ王道なので入れときました。 膝枕はもしも雨が〜で書いたから無し。 子守歌はお気に召したようで、わりかしよく出てきますね。 甘えまくるというか、セクハラと紙一重的な…(苦笑) なんだかんだで狼陛下からは逃げるけど、小犬陛下には負けっぱなしで逆らえないですよね。 ある意味小犬の方がタチ悪い気がする今日この頃。 小犬も半分は演技なんじゃこの人…と、たまに思ってしまいます。 JUMP様、リクエストありがとうございました☆ えっと、これで一応リクエストは全部消化しましたよね? 遅くなってすみませんでした〜(土下座) いつもの通りいつものあれは随時受付中でございます〜(>_<)