蓮の花見 2




 蓮の池は小さいといっても、後宮の他の場所と比べてであって、一般貴族の池よりは大き
 い。
 その一面に満開の白い蓮が咲き乱れている様は誰もが見惚れるほどに美しく、その中にあ
 る四阿は中程までに張り出していて、ぐるりと一周見渡せるようになっていた。

 そこに用意されたお茶を3人で囲んで飲む。
 座る位置はさっきと同じで、夕鈴を挟んだ2人は時折空気を絶対零度に凍らせていた。


「今度また私の屋敷にいらしてくださいませ。ここほど広くはありませんけれど、鮮やか
 な紅色の蓮があるのですわ。」
「ダメだ。」
 夕鈴の代わりに陛下が即答で答える。
「あら、どうしてですの?」
「夕鈴は後宮から出さない。」
 そう言って渡さないとでもいう風に、今度は肩を抱いて自分の方に引き寄せた。
「独占欲の強い男は嫌われますわ。」
「それは困るが離れるのは嫌だ。」
 紅珠の非難の声にもきっぱり返す。
「それは我が儘というのではありませんか。お妃様の自由を奪うのは良いことだとお思い
 ですか?」
「だが、私はそれが許される。」


 ただ一人の妃を愛する狼陛下。
 その言葉はどこまで本気でどこまで演技か分からない。

 ―――甘い言葉は全部演技だと分かっているけれど。
 恋する乙女心は複雑なのだ。


「お妃様は確かに陛下のものですわ。けれど、お妃様は私のお友達でもあります。独り占
 めは許しませんわ。」

「誰かの許可など必要ない。」
 肩を抱く手に力がこもる。
 強く脈打つ心音は、私のものか彼のものか。



「夕鈴の傍にいるのは私だ!!」



「――――って、あ。」
 しまったと、小さな"素"の声が夕鈴の耳に聞こえた。

「え…」
「あら、」
 夕鈴が止まる隣で紅珠がきょとんとする。

 ―――今の、は、

「〜〜〜〜ッッ!?」
 遅れて、全身に熱が回った。


 狼陛下の演技の中の本気。
 何故だか分かってしまった。

 布越しに陛下の手のひらの熱が伝わってくる。
 熱くて、熱くて、溶けてしまいそうで。

(こーゆーときばっかり、ずるいわよ!)


 …人の気も知らないで。

 期待しそうになる。勘違いしてしまいそうになる。
 気づかれてはダメなのに。傍にいられなくなってしまうのに。


『夕鈴の傍にいるのは私だ!!』
 さっきの言葉がぐるぐる回る。


 ワケ分かんない。
 演技なら最後まで演技してほしい。
 こんなところで本気を見せられても、私が困るだけじゃない。

 しかも、あ、って何。しまった、って、それ何なの。
 ほんっとーに意味分かんない。

 いくら私でも気づいちゃうわよ。
 へーかのばか。


『夕鈴の傍にいるのは私だ!!』

 何その殺し文句。
 私の心臓壊す気なの?





「お妃様!?」
「夕鈴!」
 ぐるぐるぐるぐる考えすぎて、夕鈴はその場でぶっ倒れた。







































「大丈夫か?」
 ぱっちり目を開けたとき、視界いっぱいに陛下の顔があってびっくりした。
 見下ろすそれが心配そうで、そういえば四阿でぶっ倒れたんだと気がついて。

「ご心配をおかけしました… あの、紅珠は?」
「今日は帰らせた。」
「そうですか… 今度会ったときに謝らないと……」
 起きあがろうとしたのはやっぱり制されてしまって、彼の膝に逆戻り。
 彼の向こうに見える天井は四阿でも夕鈴の部屋でもなくて、陛下の部屋の居間なのだと気
 がついた。
 何故膝枕なのかはこの際聞かないことにする。
 夕鈴の部屋じゃなくて陛下の部屋なのは、おそらく距離の問題だったのだろうし。

「倒れるほど辛かったなんて気づかなかった。気づかなくてごめんね…」
 小犬に戻った陛下がシュンとして謝る。
「え、いや、陛下は何も悪くないですよ!」


 考えすぎてしまっただけだ。

 今も耳に残る陛下の声。
 あんな告白まがいのセリフ、免疫のない自分が耐えられるはずがない。


(ああでもこれだけは言っておかなくちゃ…)
 優しく頬を撫でる陛下の手に触れる。


「―――私は傍にいますよ。誰よりも、貴方の近くに。」


 貴方の傍にいたい。それが許される限り。
 そのために、この想いは隠し続ける。



「告白みたい。」
 陛下がクスクスと笑う。
 何だか嬉しそうなのは気のせいだろう。

「陛下はまだ…」
「ん? 何?」
「…、何でもないです。」


 陛下はまだ不安なのね。
 私が離れてしまうことを恐れている。

 それは、私が傍にいて良い理由という名の口実。

 だからまだ、貴方の傍にいても良いですか――――?










・オマケ・
「心配なさらなくても大丈夫です。だから、紅珠の」
「それはダメ。」
「って、まだ何も言ってませんよ!?」
「ダメ。絶対行かせないから。」
「どうしてですか!?」
「どうしても。」
「…日帰りでも?」
「日帰りでも何でもダメ。」
「えー!?」



 



2011.8.20. UP



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お題:黎翔vs紅珠(vsオリキャラ景さん)夕鈴争奪戦!!
夕鈴はもちろん陛下への想いを自覚している方向でv
争奪戦のときに陛下が言っている言葉は本当のことを言っているのかな、この言葉は演技じゃないとわかる夕鈴(原文)


相変わらず噛み合ってない人達…
本気の言葉と気づいても、それが自分と同じ感情だとまでは行き着かなかった夕鈴さんの不思議。

んー 書いているうちに何故か「もしもの話(長編)」の続きみたいな話になりました。
紅珠のキャラが原作よりこっち寄りだったので。
読まなくてもあまり支障はないかなと。あっちはシリアスですけど。

今回難しかったのは、陛下に何を言わせるかでした。
争奪戦はわりとあっさり書けたんですが、何言えば良いかなってずっと考えてて。
演技じゃないと気づかせるにはどうしたら良いか。で、勢い余ってのセリフになりました。
言葉自体はそのまんまなんですけど、ストレートだから逆に気づけた感じで。
その後の憎まれ口っぽい夕鈴のモノローグがお気に入りです。

しかし大切にされてるなぁ夕鈴(笑)
陛下vs紅珠というと、とあるサイトで見たイラストが印象に残ってて。それの影響も受けてます。
LaLaDX10月が出た後だったら話変わってそうだなぁと思いました。でもあれ楽しみです♪


vs絽望さんも一応考えたんですけど。彼だと争奪にならなかったんですよね…
(※景絽望…花の笑顔から準レギュラー化しているオリキャラ)
立場が対等じゃないので、その前に絽望さんが引いてしまって。
あの人元々長期戦の体勢ですしね。(来世でも良いとか言ってるし)


やるとしてもこの程度かな?↓
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「今日も素敵な花をありがとうございます。」
「いえいえ貴女の笑顔のためならいつでも。ただ、1番良いものを選んだつもりですが、
お妃様の美しさの前では霞んでしまいますね。」
「まあ、相変わらずお上手。」
「…本気なんですけどね。」
 本当に手強いなと苦笑い。

「―――景絽望。いつになったらお前は私の忠告を聞き入れる?」
 黎翔が夕鈴を浚うように抱き上げる。そうして絽望から引き離した。
「これは陛下。ですから、奪う気などありませんと申しています。」
「何度も言うが、私は夕鈴を手放す気などない。」
「ええ。私は来世でも構いません。いつまでも待ちます。」
「何度生まれ変わろうとも、私と夕鈴は結ばれる運命だ。」
「それは分かりませんよ。陛下と私の差は、ただ出会った早さだと思いますから。」
「…ほぉ。」
狼陛下の眼光が鋭くなる。

「…陛下。政務室で刃傷沙汰は止めてください。」
李順の冷静な声が飛んでくる。
チッと舌打って剣から手を離した。
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まあ、いつもの通りですネ。

そんで、その後こんな会話が。↓
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「あんなものよりもっと大きな花束を贈ろう。」
「要りません!」
即答されてむっとする。
「…何故? あの男のは受け取って、私のは受け取らないのか?」
「贅沢です! 民の血税を臨時花嫁に使うなんて言語道断ですよ!!」
「だがこのままではあの男に負けている。」
「何の勝ち負けですかッ 私は陛下の妃ですよ。その時点で陛下の勝ちでしょう。」
「……夕鈴、すごいね。」
「は?」

――――惚れ直しちゃうよ。

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無意識の夕鈴が1番最強です。
隠しリクの方は入ってませんね…


りぃ様、初のリクエストありがとうございました☆
遅くなってしまって本当に本当に申し訳ありません…orz
しかも当初考えていたのと違う感じに仕上がってしまいました(汗)
苦情・返品はいつでもお待ちしておりますm(_ _)m

 


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