書庫の秘め事










 ※ 方淵×夕鈴で、恋人設定です。
   大丈夫という方のみ下へどうぞ。
























 ―――その姿を認めた途端に、方淵は思い切り顔を顰めた。

「…妃がこんなところで何をしている。」
 言いながら頭痛がする と、こめかみを押さえる。
 ここは"書庫"だ。方淵は調べ物をするためにここを訪れた。
 その書庫に何故か妃がいて、方淵を見つけるとにこりと笑ってみせたのだ。

「ここにいれば貴方が来ると思ったから待ってたの。」
 彼女は妃らしからぬ砕けた口調で、妃が言うべきではないことをさらっと言い放つ。
「おい、」
 ぎょっとして辺りに視線を巡らせれば、大丈夫よと声が返ってきた。
「侍女さん達は帰したから誰もいないわ。」
「…そうか。」


 方淵と夕鈴の関係は、誰にも知られてはならない秘め事。
 2人が"恋仲"であるということは誰にも知られてはならないのだ。


「さっきの話から絶対第2書庫だと思ってたのよね。」
 正解だったと彼女は得意げに言って笑う。


 彼女は馬鹿ではない。単に恐ろしく鈍いだけだ。
 頭の回転は元々早いし、ここで過ごすうちに知識と術も身につけた。

 彼女は身分さえ釣り合えば正妃にも立てたのだ。
 …そう、それだけの度量と技量が彼女にはある―――



「ちょっと、方淵?」
 沈みかけた思考を遮るかのように、彼女が突然腕を引いて顔を近づける。
 いきなりの至近距離に方淵は思わず息を飲んだ。
「な、」
「顔色が悪いわ。ちゃんと休んでる?」
 彼女はその言葉の通りに心配そうに覗き込んでくる。
「ッ」
 途端に動悸が一際大きく鳴って、それを誤魔化すために彼女の肩を押すと互いの身体を引き離した。

「…陛下が休みなく働いておられるのに私が休めるか。」
「……そうね。」
 呆れたような仕方ないというような微妙な顔をされたが、そこは気にしない。
 方淵のこの性格は彼女もよく理解している。つまりいつものことだ。
「私は急いで戻らねばならない。もう良いか?」
「―――これ、あげる。」
 小さなため息をついてから彼女が懐から取り出したのは小さな陶器製の瓶だった。
 それを方淵の手のひらに乗せる。
「栄養剤よ。紅珠に頼んで作ってもらったの。どうせ私が何を言っても貴方は絶対休まないでしょうから。」
「…そんな怪しいもの飲めるわけないだろうが。」
 眉根を寄せてきっぱり言いながら再び痛んだこめかみに拳を押し当てた。

 よりによって氾家か。
 あそことうちの長年の確執を知らぬわけはないだろうに。

「失礼ね。老師にも確認してもらってるわ。」
「とにかく私は飲まない。それは貴女が飲めば良い。」
 頑なに突っぱねて、瓶を彼女につき返す。
 本物の栄養剤であったとしても、それを飲むべきは自分ではない。そう思った。

「〜〜〜それじゃ意味がないのよっ」
 背を向けようとした方淵の襟元を夕鈴が力任せに引く。
 油断していてよろめいたところでぶつかるように唇を塞がれた。

「――――…」

 同時にごくりと何かが喉元を流れていく。
 苦いような甘いような液体。視界の端にはあの小瓶。


「…これで何かあれば私も一緒よ。文句ある?」
 口元を乱暴に拭った彼女が勝ち誇ったように言った。

 妃らしいどころか、女性としてもガサツ過ぎるその仕草。
 けれどそれこそが彼女らしく、それに見惚れてしまった自分はおそらく末期の病気なのだろう。

「私は先に政務室に戻るわ。」
 何事もなかったかのように彼女はくるりと背を向ける。
 さっさと出て行こうとして、けれど扉の前で一度振り返った。

「方淵、私を見惚れさせるような仕事ぶりを期待しているわ。」

 挑発的に微笑んでから、彼女の姿は扉の向こうに消えた。






 1人とり残された方淵は、ただその場に立ち尽くしていた。
 そうして彼女が残した言葉の意味を考える。

『…これで何かあれば私も一緒よ。』

 艶やかに濡れた唇から漏れ出た言葉。
 どれもこれも彼女らしいものだったが、それが一番脳裏に残った。


 言い換えればつまり、、

「……、死ぬときは一緒か。」


 ――――それはなんて甘美な響き。






2011.9.11. UP



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あ、はい。突然方淵×夕鈴とかすみません。
某K様に(勝手に)(ひっそり)捧げます。
本人にも告知しないという徹底ぶり。しかも秘密部屋。
なんだか書きたいなーと思ってしまいまして。
前にK様への返事で書くって言ってましたし。

20000企画からの派生品です。
臨時花嫁しながら方淵と恋人同士な夕鈴。背徳な感じでドキドキ☆(笑)
陛下は夕鈴が好きだけど、立場とか諸々で振ってしまった形。
だからいつの間にか付き合いだした2人にちょっかい出したり。
ちなみに陛下以外にはばれてないです。
そんな裏設定。

方淵と夕鈴は対等な感じが良いなーと思います。
陛下とだとやっぱり対等ではないんですよね。
ちょっと強気な夕鈴が良いです。



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