※ 世界観とか気にしてはいけません。ノリだけで書きました。




「…このところ、昼になると人がいなくなるな。」
 方淵の独り言に、近くにいた水月が小さく笑う。
「みんな健全な男性だからね。」
「は?」
 何のことだと眉間に皺を寄せる彼を見て、水月は今度はきょとんとした。
「おや、君は聞いてない? 昼休みの人気スポットの話。」










    水場と回廊と夏の暑さの相関関係
王宮にほど近い泉では女性達がワイワイと水浴びを楽しんでいる。 暑さを回避するためにと後宮限定で水場が解放されたのだ。 そしてそれから連日、そこに妃が女官や侍女を伴って遊びに来ていた。 誰も彼も赤や青や緑などの鮮やかな水着姿で広々とした水場ではしゃぐ。 「ごめんなさいね。紅珠まで付き合わせてしまって。」 今日はその水場に氾家息女の紅珠の姿もあった。 その旨を伝えたところ、彼女は水着持参で来てくれたのだ。 「気になさらないでください。これもお妃様の大事なお仕事なのでしょう?」 そう言って紅珠はふんわりと微笑む。 優しくて良い子な彼女に夕鈴もありがとうと笑みを返した。 ―――そう、紅珠の言う通りなのだ。 夕鈴もちゃっかり楽しんでいるが、これはれっきとした仕事。 言われたのは、とにかくたくさんの女性を引き連れてここで水浴びをしろということだっ た。 だから、後宮の女官や侍女達と昼の1番太陽の高い時間に毎日水浴びをしている。 遊ぶのが仕事というのもよく分からないが、周りには好評なので続けていた。 「紅珠の水着、可愛いわね。」 紅珠のは空色のワンピース型で、彼女らしい少女らしく可愛い水着だ。 褒められて頬を赤らめるのもまた可愛らしい。 「今年の新作ですの。お妃様も―――…」 そこで言葉を途切れさせて紅珠が夕鈴をじっと見た。 夕鈴の水着はパレオ型で色は鮮やかな紅。 自分では選べなかったから侍女に選んでもらったものだ。 「え、何?」 真剣に見つめられて少し戸惑う。 「…いえ。陛下はこれにオトされたのかと。」 「??」 自分のことには頓着しない夕鈴は気付いていない。 彼女が周囲にどんな風に映るのか。 ―――意外に大きい胸、くびれた腰。四肢はすらりと伸びてバランスが良い。 健全な男なら惹かれても当然のスタイルだ。 「…それより、今日もあっちは騒がしいわね。」 もう慣れたけど、と言いながら王宮の回廊に目を移す。 彼女達がいる水場から少し離れた場所には官吏達が普段使用する通路が外向きに作られて いて、夕鈴達が水浴びをするようになってから集まるようになったのだ。 だいたいが眺めているのだが、時には手を振る者もいて女性達も笑顔でそれに応えたりし ている。 ここから恋でも生まれたりするのかしら?と夕鈴はのんびりとそんなことを思っていた。 「男とはそういうイキモノだと兄が言っていました。」 「ふーん?」 同じ方を見て紅珠が言うが夕鈴にはよく分からない。 まあ良いかと深くは考えないことにした。 そして今日も鈴生りの官吏達の1人がこちらに手を振る。 そうするとこちらからも女官達が何人かにこにこと振り返してあげていた。 回廊側から歓声があがったのは言うまでもない。 「…男とは悲しいイキモノですわね。」 「紅珠…?」 時々彼女は大人顔負けの表情をする。 深い溜め息をつく彼女のどこか達観した様子に、意味が分からず夕鈴は1人首を傾げた。 「おい、押すなよ。」 「頭下げろよ見えないだろ!」 「割り込むな!」 一方回廊は今日も大騒ぎ。 片側に人が寄り過ぎて傾かないかと思うほどの男達が集まっていた。 「ここに回廊作った人 マジ神。」 「オレ、午後からも頑張れる。」 離れてはいるがそこまで遠い距離でもない。 至福の光景に男達の目はキラキラ輝いている。 「まあ そういう意図だからね〜」 ここのことは口コミで広がった。 暑さでダレたところに舞い込んだ夢のような話に誰もが飛びついたのだ。 「良い眺めだ。」 「うんうん。」 「…何だこれは。」 一種熱気に満ちた異様な光景に、方淵はいつもの眉間の皺をさらに1本増やす。 王宮にそぐわない雰囲気は彼を不機嫌にするには十分だった。 「だから夏の人気スポット。暑さでやる気を失くした官吏達に活力を与えようと企画され たんだって。」 見た方が手っ取り早いとそこまで連れてきた水月が横から説明する。 今日は紅珠もいるんだよとはめんどくさいし必要ないので言わなかったが。 「―――下らん。」 方淵はその一言でばっさり切り捨てる。 彼らしい反応に水月はクスクスと笑った。 「君は何があろうと仕事第一だからね。普通の男の心理は分からないか。」 「…貴様は分かるのか。」 馬鹿にしたとでも思われたのか睨んでくる。 けれど慣れた水月はそれも笑顔で受け流した。 「私にもさっぱり。家で氷でも食べて涼んだ方が良いと思うよ。」 「―――しっかし、お妃様にはびっくりだな。」 その名に2人同時に反応する。 「ああ、脱いだらすごかったんだなー」 「良いなぁ陛下。」 陛下がこの場にいれば絶対に口にできないが、その目がない今は言いたい放題だ。 それが素直な感想だともいえる。 「…何故妃がいる。」 「仕事だって紅珠は言ってたけれど。」 方淵はさらに不機嫌な顔になり、水月は水場の方に目を向けた。 「―――…さて、私は仕事に戻ろうかな。」 そこで何かを見つけたらしい水月が彼らに背を向ける。 元から長居する気がなかった方淵もそれに続いた。 「貴様から仕事という言葉が出るとは珍しいな。明日は嵐か。」 「私も命は惜しいよ。」 「?」 たぶんこれも今日までかなと、察したのは水月だけだった。 「…夕鈴。」 「陛下!」 パッと声に反応した夕鈴は水から上がって駆け寄る。 鮮やかな紅色のそれに彼が固まったのに夕鈴は気付かない。 「……、何をしているんだ?」 何とか言葉を発した彼の視線は夕鈴の目線よりかなり下だ。 けれどそれも夕鈴は気にしない。上機嫌だから気づかなかったというのもあるが。 「何って、水浴びですよ。冷たくて気持ち良いんです。後宮のみんなも大喜びで。」 「…誰の提案だ?」 ひやりと空気が冷えた。 「え…っと、誰でしたっけ?」 それでも気づかない夕鈴は首を傾げる。 「これも妃の仕事だとか言われたんですよね。確か、老師だったかしら?」 「…ほぉ。ではあれは?」 次に彼は回廊の男達を視線で指し示した。 気づいた何人かが小さな悲鳴を上げるが、さすがに遠くて聞こえない。 「男とはそういうイキモノだと紅珠が言ってましたけど。意味はよく分からなくて。」 自分の格好も魅力も全く頓着しない夕鈴は、鈴生りの男達の視線も彼が不機嫌な理由も理 解できない。 ふと頬に伸ばされた手に包まれ、そうすると彼女の視界には"狼陛下"だけしかいなくなっ た。 途端に大きく鳴る心音を聞かれないかヒヤヒヤする。 「こういうところで他人を魅了する必要はない。」 「…あの、」 いまいち意図が分からなくて、夕鈴は曖昧に返事をするしかなかった。 顔が近いとは思うけれど、逸らすことは許されない。 「君は私だけの妃だろう。」 「えーと…」 確かにそうなんですけど。 「―――…これを。」 噛み合わない会話に溜め息を零した陛下が、自分の外套を脱いで夕鈴に着せる。 途端に回廊からは落胆の声が聞こえたが、狼陛下が睨むと一目散に散って行った。 「老師には後で詳しく話を聞く。夕鈴は部屋に戻るように」 「えっ もうですか?」 残念そうに眉を下げる。 もっと遊びたいと表情が言っていた。 「…じゃあ、今日は良いから、今度からは時間をずらすように。」 「はい、ありがとうございます!」 狼陛下も妃には弱い。 その場にいた全員が、彼の妃の溺愛ぶりを改めて認識しなおした。 2011.9.27.(夜) UP
--------------------------------------------------------------------- 何にも考えずに萌えだけで書くとこうなりますという例。 「木槿の花と銀の杯」のリクからの派生品です。 むしろあっちが派生品かも? これをちょっと真面目っぽくして、世界観を無理矢理当てはめたらああなると思います。 こっちの方がお題に沿ってる気もするなーと思うんですが、結局クラクラはさせれてない…orz 水月兄上普通にいますね。コミックス派の方には本当に申し訳ないですが。 といても、ネタバレではないです。出仕してるってだけですし。 私は水月兄上のキャラ好きです。最近方淵との仲が素敵でもうニヤニヤです。 ちょっと今回仲良い感じになってますが、絶対噛み合わないのも好きです。 もう家同士の確執とかじゃないよね、あれ。彼らの場合性格だ。 で、こっちもじやすみん様に捧げますm(_ _)m


BACK