涙を止めたら










 ※ 几鍔×夕鈴です。
   大丈夫という方のみ下へどうぞ。

























『俺にしとけ。』

 泣いた私を抱きしめて、アイツが言った言葉。
 ずっとその言葉が耳に残ってる。

 でも、ずっと現実味もなくて。

 涙を止めたあの言葉は、夢だったのかしら―――?











「じゃあな。」
 お茶を一杯飲んだだけで今日も几鍔は座っていた椅子から腰を上げた。


 最近毎日うちに来ては、それだけで帰っていく。
 まるで何事もなかったかのように。

 …あの言葉も、忘れたかのように。


「――――…」
 背中を向けたアイツを追って席を立つ。
 無意識だった。

「几鍔、」
 伸ばした手が裾を掴んで引き止める。
「なんだ?」
 ふり返った顔はいつになく優しかった。

 …違う、几鍔はずっと優しい。
 私がただ認めたくなかっただけ。


「あ、あああのね…」
 待っててくれるのが分かるから余計に焦ってしまう。
 何を… 何て言えば良いんだろう。恥ずかしくて顔が熱い。
「この前の、あれは…」

「この前の?」
 不思議そうに聞き返されてハッと我に返った。
 反射的に彼から手を離す。
「なっ 何でもない!」

 なんて馬鹿なことをしたんだろう。
 何を、勘違いしたんだろう。

 聞かなければ、夢を見続けていられたのに。


 あれは几鍔なりに慰めたつもりだったのよ、きっと。
 きっと深い意味はなかったのね。

 久しぶりに涙が出そうになった。
 胸が、痛くて。心が軋みそうになって。


「ご、ごめ…」
「―――おい。」
 離れようと身を引いたら手首を逆に捕まれた。

「結婚のことならうちの親には了承済みだ。お前んとこの親父もお前が良ければ構わない
 そうだ。」
「…え?」
 いきなり飛んだ話に固まる。

(今、"結婚"って言った? え、何の冗談?聞き間違い??)

「あとはお前の気持ちだけだ。良いって言うなら今からでも挨拶に行くぜ?」
 冗談で、しかもこの状況でそんなこと言うヤツじゃない。
 近い距離で見る几鍔の表情は真剣だ。

 でも、

「ちょ、ちょっと待って!?」
「あ?」
 涙を忘れて声を上げると怪訝な顔で聞き返された。
 手は、放してくれない。
「展開が早過ぎてついていけないわ…」

 "俺にしとけ"ってそういうことなの?
 いくら私が嫁き遅れ間近だからって、いくらなんでも急すぎる話でびっくりするわよ。


「―――お前はまだアイツが好きなんだろ?」

 あれだけ泣いてたらそう思われるのは仕方がないかもしれない。
 止めたのはアンタのくせに。

「待っててやるからさっさと忘れろ。」

 それは気が長いことね。
 …でも、それでも待っててくれるんだ。



「…ねえ、うんって言ったら変わっちゃう?」

 今が心地良い。
 だから変わることが怖い。

 この距離が心地良くて、ずっと甘えてた私だから。

「? 何も変わらねーだろ。俺とお前で何が変わるんだ?」
 あっさりと答えられてきょとんとしてしまった。
 でも、その通りだとも思った。
「…そう、よね。」

 物心ついた頃からの腐れ縁。
 素も恥も全部知られてる相手に今更繕うこともない。




「―――ありがとう。じゃあもちょっとだけ待って。」
「…忘れるまで?」

(待つって言ったのは誰よ?)
 複雑な表情をする几鍔に笑って首を振る。

「違うわ。アンタに素直になるのと、胸に飛び込む勇気のための時間よ。」

「…バーカ。」
 いつもみたく軽口を叩かれて、―――引き寄せられた。


 大きくて広くなった、…でも優しさは変わらない、その腕の中に。







2011.11.7. UP



---------------------------------------------------------------------


20000企画からの派生品。てゆーか続きの話です。
几鍔v夕鈴とか言ってくっ付いてないし!と思ったので。
おもっきし雰囲気小説ですが。
はい、萌えが過ぎました。すみません。
本命は黎夕ですけど、たまに違う感じのCPも書きたくなるんです…
ちょっと最近兄貴をいっぱい書いたので、兄貴熱が高かったようです。

黎夕は陛下ががんがんリードしてて、方夕はどこまでも対等で、几夕は待てる大人的な。
陛下は待てないと思う(笑) 几鍔の方が年下なんですけどね…精神的に大人なのは几鍔かなと。
ケンカップルなのは方夕も几夕も同じだけど、根本が微妙に違うんですよ!
それぞれに良さがあるのでどっちも好きです。



BACK